身近な作品から見方や感じ方を広げる——鑑賞

友人の絵を見ながら感想を話し合う児童、伝統工芸品を手に取って観察する児童、自分の作品を見返しながらメモを書く児童が描かれたアニメ風イラスト。「見方や感じ方を広げる」のテキスト入り
目次

「見る」は受動ではない

鑑賞と聞くと、静かに座って作品を眺めるイメージがあるかもしれない。しかし、図画工作科の鑑賞は能動的な活動だ。

身近にある作品などを,進んで見たり,触ったり,これらについて話したりするなど,自ら働きかけ,自分の見方や感じ方を広げることを通して学習する

見る。触る。話す。自ら働きかけることで、自分の見方や感じ方が広がっていく。


鑑賞の対象が広がる

中学年では、鑑賞の対象が低学年より広がる。

身近にある作品などとは,自分たちの作品や身近な美術作品,製作の過程などのこと

対象具体例
自分たちの作品自分の作品、友人の作品、つくりつつある作品
身近な美術作品表現に関連がある作品、日用品、伝統的な工芸品や玩具、地域の美術館の作品
製作の過程自分たちの表現の過程、美術や工芸作家など大人が表現している姿

注目したいのは「製作の過程」が鑑賞の対象に含まれることだ。完成した作品だけでなく、つくっている過程にもよさや面白さがある。

そこに人々の工夫やアイデアなどが込められている様子

職人が木を彫る姿、陶芸家が土をこねる姿——制作過程を見ることで、作品への理解が深まる。


造形的なよさや面白さを感じ取る

自分たちの作品や身近な美術作品,製作の過程などの造形的なよさや面白さ,表したいこと,いろいろな表し方などについて,感じ取ったり考えたりし,自分の見方や感じ方を広げること。

鑑賞で育てたい力は、自分の見方や感じ方を広げること。

「面白い」「きれい」「すごい」——素朴な感想から出発して、なぜそう感じるのかを形や色を手がかりに考える。そして、友人との対話を通じて、自分にはなかった見方や感じ方に出会う。

中学年の児童には、こんな姿が見られる。

木片や紙の切れ端が面白い形をしている,雲や光の動きがきれいだなど,対象や事象と自分の印象とを分けて捉えている姿

友人の作品から自分の考えと異なることを見付けて,その思いをくみ取ったり,絵の具のにじみなどのよさに気付いて,それを自分の表現に生かしたりする

対象(形や色)と印象(感じたこと)を分けて捉えることができるようになるのが、中学年の鑑賞の特徴だ。「三角形は鋭い感じ」「赤は元気な感じ」——形や色の感じを言語化できるようになる。


表現と鑑賞の往還

鑑賞は、表現から切り離された別の活動ではない。

造形活動の際に児童が身近な材料を手にとって眺める,製作途中の作品をじっと見て材料を取り換えるなどは,表現と鑑賞が自然につながっている姿である。

つくりながら見る。見てからつくる。この往還が、図画工作科の学びの核心だ。

具体的な指導の工夫として:

  • 絵の具のにじみを鑑賞し、そこからイメージを膨らませ発想する
  • 彫刻刀の彫り跡を見て、彫り方を工夫する
  • 枝や木切れなどを鑑賞し、触れたり、香りをかいだりすることで表したいことを思い付く
  • 完成した作品だけでなく、製作途中の作品を見合う時間を設定する

ただし、注意点もある。

作品の製作の過程で一律に形式的な相互に鑑賞する時間を設けるなどすることは,造形活動の広がりや表現の意欲の高まりを妨げることもある

表現に熱中しているときに無理やり手を止めて鑑賞させることは、かえって学びを妨げることがある。自然な流れの中で鑑賞が生まれるような設計が大切だ。


言語活動の充実

感じ取ったことや思ったこと,考えたことなどを,話したり聞いたり話し合ったりする,言葉で整理するなど,言語活動を充実することも重要である。

鑑賞では、言葉にすることが重要な役割を果たす。

  • 自分の作品や美術作品について、どのように感じたのか、思ったのかの根拠や理由を形や色を基に話す
  • 適切な人数で話し合う
  • 気持ちを振り返って書く
  • 児童自身が気付きを自覚できるようにする

「なんかいい感じ」が「丸い形がたくさんあるから、楽しい感じがする」になる。感覚を言葉にすることで、自分の見方や感じ方が明確になる。

そして、友人の言葉を聞くことで、自分にはなかった見方に気付く。

共通点だけでなく異なった捉え方や感じ方を大切にし,互いのよさや個性などを認め合うように活動を進めるなどの配慮が必要である。

「私はこう感じた」「私は違う。こう感じた」——異なる感じ方を認め合うこと。これは、図画工作科の鑑賞だからこそ育てられる大切な態度だ。


鑑賞の対象に応じた指導

解説は、鑑賞の対象の違いに応じた指導の必要性を述べている。

児童は,友人の作品を見るときに,自分が試みた形や色,表し方の工夫などを視点に鑑賞する傾向がある。一方,身近な美術作品などを見るときは,未知の世界を探るように見たり考えたりする傾向がある。

鑑賞の対象児童の傾向指導の工夫
友人の作品自分の経験を視点に見る友人の作品のよさを通じて、自分の作品のよさに気付かせる
美術作品未知の世界を探るように見る考えたことを言葉にまとめる

友人の作品を見るときは「自分もこうすればよかった」「こんな方法があったのか」と、自分の表現と重ねながら見る。美術作品を見るときは「どうやって描いたんだろう」「なんでこんな形にしたんだろう」と、純粋な好奇心で見る。それぞれの傾向を生かした指導が求められる。


教師として残しておきたいこと

農業では、「見る目」が全てだった。作物の色、形、大きさ——見ることで状態を判断し、次の手を打つ。ベテラン農家は、作物を見ただけで水分量や栄養状態が分かると言われるが、それは長年の「鑑賞」の蓄積だ。

Web開発では、デザインレビューが鑑賞そのものだった。「この配色はなぜこうしたのか」「このレイアウトはどんな効果を狙っているのか」——形や色の意図を読み取り、よさや問題点を言語化する。そして、チームメンバーの異なる視点を聞くことで、自分の見方が広がった。

図画工作科の鑑賞で最も大切にしたいのは、正解がないことだ。同じ作品を見ても、感じ方は一人ひとり違う。その違いを「間違い」ではなく「個性」として認め合える場をつくること。それが、鑑賞の授業の土台だ。


指導のポイント

  1. 鑑賞は能動的な活動——見る・触る・話す、自ら働きかける
  2. 中学年の鑑賞対象は自分たちの作品・身近な美術作品・製作の過程
  3. 形や色の感じを手がかりに、なぜそう感じるのかを考える
  4. 表現と鑑賞の往還を自然な流れの中で実現する
  5. 言語活動の充実——感覚を言葉にすることで見方が明確になる
  6. 異なる感じ方を認め合う——正解のない対話を大切にする
  7. 鑑賞の対象(友人の作品/美術作品)に応じて指導を使い分ける

まとめ——見ることは広がること

鑑賞は、身近な作品から造形的なよさや面白さを感じ取り、自分の見方や感じ方を広げる活動だ。

  • 自分たちの作品、美術作品、製作の過程を能動的に鑑賞する
  • 形や色を手がかりに、感じたことの根拠を考える
  • 表現の中に自然に鑑賞が生まれる環境をつくる
  • 言葉にすることで、自分の見方が明確になる
  • 異なる感じ方を認め合い、見方を広げ合う

「好き」と感じることに理由はいらない。でも、「なぜ好きか」を考えてみると、自分の見方がもう一段深くなる。その体験を、友人と共有したとき、自分の世界がまた少し広がる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編(文部科学省, 2017)の第3章第2節を基に執筆しています。

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