地図帳を初めて手にする日
3年生の社会科で、子どもは地図帳を初めて手にする。真新しい地図帳をめくって、自分の市を見つけたときの目の輝きは、他の教科ではなかなか見られないものだ。
しかし、地図帳はただの絵本ではない。地図には記号があり、方位があり、縮尺がある。これらを読み解く力が、社会科の最初の技能になる。
3年生の最初の単元「身近な地域や市の様子」は、地図で地域を読む力の出発点だ。
学習指導要領のねらい
3年社会(1):
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(ア)身近な地域や自分たちの市の様子を大まかに理解すること。
(イ)観察・調査したり地図などの資料で調べたりして、白地図などにまとめること。
イ 次のような思考力、判断力、表現力等を身に付けること。
(ア)都道府県内における市の位置、市の地形や土地利用、交通の広がり、市役所など主な公共施設の場所と働き、古くから残る建造物の分布などに着目して、身近な地域や市の様子を捉え、場所による違いを考え、表現すること。
位置・地形・土地利用・交通・公共施設・古い建造物——この6つの観点で市を捉える。
市を見る6つの観点
1. 位置
- 都道府県内で市はどこにあるか
- 隣接する市はどこか
都道府県の地図で自分の市を指さす経験から始まる。「自分たちの市」を、大きな地図の中の一点として位置づける。
2. 地形
- 土地が低いところ/高いところ
- 広々と開けた土地/山に囲まれた土地
- 川の流れるところ/海に面したところ
地形と生活は結びついている。低地に田が多い、高台に住宅地が多い——この関係を捉える。
3. 土地利用
- 田・畑・森林
- 住宅地・商業地・工業地
- 公共用地
土地は何に使われているか。同じ市でも場所によって使われ方が違う。この違いに問いの種がある。
4. 交通
- 主な道路・鉄道
- 駅・バス停の位置
交通は地域を繋ぐ線。駅の周りは発展しやすい、幹線道路沿いに店が並ぶ——地理と人間活動の関係が見える。
5. 公共施設
- 市役所、学校、図書館、公園
- 消防署、警察署、交番
- 美術館、博物館、資料館
公共施設は、市民の生活を支える拠点。どこに、なぜ、どんな施設があるか。
6. 古くから残る建造物
- 神社・寺院
- 伝統的な家屋
- 門前町・城下町・宿場町
歴史の痕跡が、現在の市の中に残っている。これは(4)の「市の移り変わり」への伏線にもなる。
方位——四方位から八方位へ
地図を読む基本は方位。
学習指導要領:
方位については、四方位と八方位を扱う。その際、児童の実態等を考慮に入れ、最初に四方位を取り上げ、八方位については、ここでの学習も含めて第4学年修了までに身に付けるようにする。
3年は四方位が基本、八方位は4年修了までに。順を追って広げていく。
- 四方位:東・西・南・北
- 八方位:東・西・南・北・北東・北西・南東・南西
「南に山がある」「北に海がある」と方位で語ることができると、地理的な説明がぐっと正確になる。
地図記号——地図の「言葉」
地図記号は、地図の言語だ。
学習指導要領が示す主な地図記号:
- 建物・施設:学校、警察署、交番、消防署、工場、神社、寺院、市役所、図書館、博物館、老人ホーム、郵便局、銀行、病院
- 土地利用:田、畑、果樹園、森林
- 交通:鉄道、駅、道路、橋、港、空港
記号はデザインに意味がある——
- 学校:「文」の字
- 郵便局:「〒」
- 神社:鳥居の形
- 寺院:卍(まんじ)の変形
- 田:稲を刈った後の切り株
記号の由来を知ると、地図が急に面白くなる。
白地図にまとめる
情報を集めて白地図にまとめる——これが3年社会科の表現技能。
白地図のよさ
- 自分の目で選んだ情報を表現できる
- 場所と情報の結びつきが可視化される
- 何度でも書き直せる
まとめ方の例
- 主な道路を赤で描く
- 公共施設を記号で配置
- 古い建造物を色で区別
- 土地利用を色塗りで分ける
何の情報を載せるかを選ぶ——この選択が情報の扱い方の訓練になる。国語の情報の扱い方とも連動する。
場所による違いを考える
3年社会の思考の核心は、場所による違いを考えること。
- 駅の周り:商店が多い、人通りが多い
- 工場が多いところ:広い敷地、大きな道路
- 田畑が多いところ:低地、川の近く
- 伝統的な町並みがあるところ:神社・寺院の近く
これらの違いを比較し、関連付ける。
主な道路と工場の分布、主な駅と商店の分布など土地利用の様子と、交通などの社会的な条件や土地の高低などの地形条件を関連付けたりして、市内の様子は場所によって違いがあることを考え
地形と土地利用、交通と商業——要素同士の関係を見る目が育つ。
学校の屋上に登る
学習指導要領は、高いところから市を眺める活動を推奨している。
小高い山や校舎の屋上など高いところから身近な地域の景観を展望したり、地理的に見て特徴のある場所や主な公共施設などを観察・調査したりする活動が考えられる。
鳥瞰的な視点を体で体験することで、地図の空から見た視点が腑に落ちる。
屋上から見えるのは:
- 「向こうに山が見える」→ 地形
- 「大きな道路が横切っている」→ 交通
- 「煙突がある」→ 工業
- 「田んぼが広がっている」→ 土地利用
見えるものを地図と照合する——これは実世界とデータの対応の訓練だ。
学年の導入という位置付け
学習指導要領は、この単元を3年社会科の導入として位置付けている。
学年の導入で扱うこととし、アのアについては、「自分たちの市」に重点を置くよう配慮すること。
市の範囲を先に掴むことで、その後の(2)生産・販売、(3)安全、(4)移り変わりの学習の土台が出来上がる。
「自分たちの市は、こういう場所だ」という地図的な基盤があってこそ、「この市でどんな仕事が行われているか」「どう守られているか」「どう変わってきたか」が実感を伴って学べる。
農業から見た土地——地形は仕事を決める
農業をしていた時、地形と土地利用の関係を肌で知った。
- 低地:水が集まる → 田んぼに適する
- 緩やかな斜面:水はけがよい → 畑・果樹園に適する
- 山林:木材供給、水源涵養
- 平野:住宅地・商業地として発展
土地は自然条件で使い方が決まる——これは人類の農業の歴史そのものだ。
3年生が「なぜあそこは田んぼ?」「なぜこっちは工場?」と問うとき、地理と人間活動の結びつきを考え始めている。この問いは地理学の核心に直結する。
Web開発者の視点——情報の地図化
Webエンジニアとして、データを地図にマッピングする仕事もある。
- ユーザーの分布
- 店舗の配置
- 物流の流れ
データ可視化の基本は、位置と情報を結びつけること。3年生で白地図にまとめる経験は、GIS(地理情報システム)の原体験とも言える。
地図で考える習慣は、情報化社会で強力な武器になる。
指導のポイント(実習用メモ)
- 地図帳で自分の市を見つける体験から始める
- 四方位をまず定着、八方位は徐々に
- 地図記号は由来と一緒に——意味を持つ記号として
- 屋上や高台から市を眺める——鳥瞰的な視点
- 6観点(位置・地形・土地利用・交通・公共施設・古い建造物)で調べる
- 白地図にまとめる——選んで書き込む
- 場所による違いを比較・関連付ける
- 学年導入として市の全体像を掴ませる

まとめ——市を地図で読む
3年社会の最初の単元は、市を地図で読む力を育てる時間だ。
- 位置・地形・土地利用・交通・公共施設・古い建造物の6観点
- 四方位・地図記号という地図の言語
- 白地図にまとめる表現技能
- 場所による違いを考える比較の目
地図は、世界を抽象化した知の道具だ。現地に行けないところも、地図があれば頭の中で歩ける。3年生でこの力を育てることは、世界を認識する方法を手に入れること。
実習でこの単元をやるなら、「屋上から見たもの」と「地図」を照らし合わせる授業を組みたい。実景と地図が繋がった瞬間、子どもの中で地図が生きた道具に変わる。
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編(文部科学省, 2018)の第3章第1節2(1)を基に執筆しています。

