「もっと強くしたらどうなるかな」
風で動く車を作って走らせる。弱い風では少ししか動かない。強い風だとぐんと進む。「もっと強くしたらどうなるかな」と子どもが言い出す。
この「もっと」が、この単元の出発点だ。力の大きさを変えると、動き方が変わる。力と動きの関係を、体を使いながら捉えていく。3年生が初めて出会う「エネルギー」の入口である。
学習指導要領のねらい
風とゴムの力の働きについて,力と物の動く様子に着目して,それらを比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
知識・技能として理解させるのは2点。
(ア) 風の力は,物を動かすことができること。また,風の力の大きさを変えると,物が動く様子も変わること。
(イ) ゴムの力は,物を動かすことができること。また,ゴムの力の大きさを変えると,物が動く様子も変わること。
風もゴムも、構造は同じだ。力がある→物が動く→力の大きさを変える→動き方が変わる。この「入力を変えると出力が変わる」という関係を、2つの素材で繰り返し確認する。
3観点で見る学びの姿
知識・技能
風やゴムの力で物が動くこと、力の大きさを変えると物の動き方が変わることを理解している。送風器の使い方、ゴムの伸ばし方の調整ができる。
思考・判断・表現
風とゴムの力で物が動く様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,風とゴムの力の働きについての問題を見いだし,表現すること。
「強い風と弱い風で車の動く距離は変わるか」という問いを自分で立てられるか。風とゴムの両方を比べて、共通する仕組みに気付けるか。
主体的に学習に取り組む態度
風の強さやゴムの伸ばし方を自分で変えながら、粘り強く実験に取り組んでいる。
この単元の位置付け——「エネルギーの捉え方」の入口
学習指導要領解説はこう述べている。
本内容は,「エネルギー」についての基本的な概念等を柱とした内容のうちの「エネルギーの捉え方」に関わるものであり,第5学年「A(2)振り子の運動」の学習につながるものである。
エネルギーという言葉は3年では使わない。しかし、「力の大きさを変えると物の動き方が変わる」という理解は、エネルギーの量的な把握の第一歩だ。
5年の「振り子の運動」では、おもりの重さ・振れ幅・糸の長さという条件を変えて、振り子の周期との関係を調べる。条件を制御して関係を見る——その基盤が、3年の「力を変えると動きが変わる」という体験にある。
体感を重視する
解説はこう強調する。
生活科の学習との関連を考慮しながら,風を受けたときやゴムの力を働かせたときの手ごたえなどの体感を基にした活動を重視するようにする。
3年生にとって、数値だけの実験は実感を伴わない。まず体で感じることが大切だ。
- 弱い風を顔に受ける。強い風を受ける。体で違いを感じる
- ゴムを少し引っぱる。たくさん引っぱる。手の感覚で力の大きさを捉える
体感してから数値にする。「強い風は体で感じたけど、車は何cm動いたかな」。体感と数値を照らし合わせる経験が、定量的な見方の芽を育てる。
指導の重点
1. 風とゴムを「同じ構造」で捉えさせる
(ア) 風と (イ) ゴムは別々の現象だが、構造は同じだ。
| 風 | ゴム | |
|---|---|---|
| 力の源 | 風 | ゴムの元に戻る力 |
| 力の調整 | 風の強さを変える | 引っぱる長さを変える |
| 結果 | 物の動く距離が変わる | 物の動く距離が変わる |
この共通構造に子どもが自分で気付けるように、風の実験とゴムの実験を近い時期に行い、結果を並べて比較する場面を設ける。「風もゴムも、力を大きくすると動く距離が伸びるね」——この共通点に気付くことが、この単元の最も大切な学びだ。
2. 結果を表に整理する
解説はこう述べている。
風の強さやゴムの伸びなどと物の動きとの関係を表に整理するなど,風とゴムの力の働きについて考えたり,説明したりする活動の充実を図るようにする。
表に整理することで、「力を強くする→距離が伸びる」という関係が視覚的に見える。3年生の表はシンプルでいい。
| 風の強さ | 動いた距離 |
|---------|----------|
| 弱い | 50cm |
| 強い | 150cm |
表を並べて「何が分かるか」を話し合う。ここに思考・判断・表現の見取りポイントがある。
3. ものづくりと結び付ける
風やゴムの力を活用したものづくりは、A領域で必須の3種類以上のうちの1つに数えられる。
風やゴムの力を動力に変換するという観点から,例えば,物を動かすことを目的とした,風やゴムの力で動く自動車や風車などが考えられる。
「もっと遠くまで走らせたい」「もっと速く回したい」という子どもの欲求が、力の調整という学びに直結する。ものづくりは学びの応用であると同時に、学びの動機にもなる。
4. 安全への配慮
ゴムを扱う際には,安全な使用に配慮するように指導する。
ゴムが手を離れて飛んでいく、顔に当たる——3年生の実験ではよく起きることだ。ゴムの向きや引っぱり方のルールを、最初に明確に伝えておく。
他教科・他領域との連動
- 生活科(低学年からの接続):風車遊び・ゴム遊びの体験。体感の蓄積がある。
- 算数:長さの測定(cm・m)。距離を測るときに算数の技能を使う。
- 体育:運動での「力を入れる」「力を加減する」体験。力の調整を体で知っている。
教師として残しておきたいこと
Web開発では、入力と出力の関係を常に意識する。ボタンを押したら何が起きるか。パラメータを変えたら結果がどう変わるか。バグが起きたとき、「何を変えたら何が変わったか」を追いかけるのがデバッグの基本だ。
この「入力を変えると出力が変わる」という構造は、風とゴムの力の単元そのものだ。風の強さ(入力)を変えると、車の動く距離(出力)が変わる。ゴムの伸ばし方(入力)を変えると、車の進む距離(出力)が変わる。
3年生に伝えたいのは、「変えてみる」という姿勢だ。「もっと強くしたらどうなるかな」「もっと伸ばしたらどうなるかな」——この好奇心が、科学的な実験の原動力になる。そして、その結果を比べて記録する習慣が、科学的な思考の型になる。
指導のポイント(実習用メモ)
- 体感を重視——まず体で力の違いを感じ、次に数値にする
- 風とゴムを同じ構造で捉えさせる(力→動き→力を変える→動きが変わる)
- 結果を表に整理して関係を視覚化する
- ものづくりで学びを応用し、学びの動機にもする
- ゴムの安全な扱い方を最初に指導する
- 「エネルギーの捉え方」の入口として位置付ける
まとめ——「もっと」が科学を動かす
3年理科「風とゴムの力の働き」は、力と動きの関係を体で捉える単元だ。
- 力の大きさを変えると、物の動き方が変わる
- 風もゴムも同じ構造——入力と出力の関係
- 体感から数値へ、定量的な見方の芽を育てる
- ものづくりで「わかった」を「できた」に変える
「もっと強くしたらどうなるかな」。この一言が出た瞬間、子どもの中で科学的な問いが生まれている。教師の仕事は、その問いを拾い上げ、実験で確かめる場を用意することだ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(文部科学省, 2017)の第3章第1節を基に執筆しています。

