道具との新しい出会い
中学年の図画工作で、児童の表現の世界が大きく広がる理由がある。新しい材料と用具との出会いだ。
材料や用具は,前学年までに経験した材料や用具に加えて,木切れ,板材,釘,水彩絵の具,小刀,使いやすいのこぎり,金づちなど,中学年の児童が活用できる材料や用具の広がりに応じたもの
低学年では、クレヨンやパス、はさみ、のり、粘土などが中心だった。中学年になると、木材を切り、釘を打ち、絵の具で色をつくる——表現の幅が一気に広がる。
中学年で出会う用具
| 用具 | 特徴 | できること |
|---|---|---|
| のこぎり | 使いやすいサイズのもの | 木材を切る——板材、木切れの加工 |
| 金づち | 釘を打つための基本用具 | 木材をつなぐ、装飾的に釘を打つ |
| 小刀 | 削る、切る | 材料の形を変える、表面を加工する |
| 彫刻刀 | 彫る | 版画、木材の表面加工 |
| 水彩絵の具 | 混色・重色・にじみ | 色をつくる、塗る、描く |
| 刷毛 | 太い線や面を描く | 大きな面の着色、ダイナミックな表現 |
これらの用具は、体の成長と手の巧みさの発達に対応している。のこぎりを引く動き、金づちを振る動き、小刀で削る動き——中学年の体力と巧緻性があってこそ、安全に使いこなせる用具だ。
材料の広がり
用具の広がりとともに、扱える材料も広がる。
低学年から引き続き使う材料
- 紙(色紙、段ボール、新聞紙など)
- 粘土
- 身の回りの材料(空き箱、ペットボトルなど)
中学年で加わる材料
- 木切れ、板材——切る、削る、つなぐことができる
- 釘——木材をつなぐ固定材
- ひも、針金——結ぶ、曲げる、つなぐ
- 大きな段ボール——空間をつくる
- 自然材(木の枝、葉、石など)——場所と組み合わせる
友人と一緒に活動したり,体全体を使って活動したりできるような,大きな段ボールや木の枝,ひもなども考えられる。
材料の大きさや種類が広がることで、活動のスケールも大きくなる。自分の体よりも大きなものをつくる経験は、中学年ならではの醍醐味だ。
水彩絵の具——色をつくる喜び
中学年の材料の中で、特に大きな変化をもたらすのが水彩絵の具だ。
この時期の児童は,見方や感じ方が更に広がり,形や色などの感じを捉えられるようになり,表したいことの色も,明るい感じの青色,暗い感じの青色など複雑になってくる。
「青色」が一色ではないことに気付く。空の青、海の青、夜の青——色にも感じがあることを、絵の具を使って実感する。
水彩絵の具の指導で大切なのは:
- 水の加減——水を多くすると薄く透明に、少なくすると濃く不透明に
- 色の混ぜ方——混ぜる量の違いで、様々な感じの色が生まれる
- にじみ——水の多い画面に色を落とすと、予想外の美しさが生まれる
- 重ね塗り——乾いた上に色を重ねると、深みのある色になる
水彩絵の具の,様々な感じの色をつくることができる特徴を生かし,工夫してその色をつくるようにしたり,色をつくることを楽しみながら,徐々に材料や用具を適切に扱うようにしたりすることが考えられる。
「色をつくることを楽しむ」——これが、水彩絵の具の指導の出発点だ。最初から正しい使い方を教え込むのではなく、試しながら楽しみながら、徐々に適切な扱い方を身に付けていく。
手や体全体を十分に働かせる
手や体全体を十分に働かせる活動が児童にとって喜びであり,造形的な活動への関心や意欲を高めることも示している。
中学年の図画工作では、「手や体全体を十分に働かせる」という言葉が繰り返し出てくる。
のこぎりで板を切る——全身の力を使って引く。金づちで釘を打つ——腕全体を使って振り下ろす。刷毛で太い線を描く——肩から腕を大きく動かす。
手先だけの作業ではない。体全体で材料に向き合う。 この身体性が、図画工作科の学びの特質だ。
体の成長とともに、手などの働きも巧みさを増す。指先の細かい作業もできるようになるが、それと同時に大きな動き、力強い動きもできるようになる。両方の動きを経験させることが大切だ。
安全指導
新しい用具を扱うということは、安全への配慮がこれまで以上に重要になるということだ。
材料や用具は,安全に配慮することが必要である。活動に適切か,刃こぼれはないか,彫りやすい板材か,安全に使える環境かなど,児童の実態に配慮しながら指導することが重要である。
安全指導のポイントは:
| 用具 | 安全のポイント |
|---|---|
| のこぎり | 材料の固定、引くときの力の入れ方、周囲への注意 |
| 金づち | 釘の持ち方、打つ位置の確認、指を打たない工夫 |
| 小刀 | 刃の向き、利き手と反対の手の位置、力の加減 |
| 彫刻刀 | 進行方向に手を置かない、刃こぼれの点検 |
ただし、安全指導は「怖い道具だから気をつけて」という方向だけではいけない。
用具の安全な使い方を指導するとともに,自分の思い付いたことを大切に活動し,用具の扱いが分かっていくようにすることが重要である。
安全を確保しながら、「使ってみたい」「できるようになった」という気持ちを大切にする。用具を使いこなせるようになることそのものが、児童にとって大きな達成感になる。
前学年までの経験を生かす
前学年までの材料や用具についての経験を生かし
新しい用具に目が向きがちだが、前学年までに使ったことのある材料や用具の経験を生かすことも重要だ。
低学年で使ったクレヨンと、中学年で出会う水彩絵の具を組み合わせる。低学年で経験した紙を切ってつなぐ技能を、木材を切ってつなぐことに発展させる。既習の経験が新しい表現の基盤になる。
前学年までにどのような材料や用具を経験しているのかを把握しておくことも大切である。
年間指導計画に目を通し、児童に経験を聞くなどして、一人ひとりの「できること」の土台を把握しておくことが、適切な指導につながる。
教師として残しておきたいこと
農業では、道具との出会いが仕事の幅を広げた。鎌、鍬、剪定ばさみ、トラクター——新しい道具を使えるようになるたびに、できることが増えた。そして、道具を使いこなすには体で覚えるしかなかった。説明を聞いただけでは使えない。何度も使って、手に馴染ませる。
Web開発でも同じだった。新しいプログラミング言語やフレームワークを学ぶとき、チュートリアルを読むだけでは身に付かない。実際に手を動かして、つくってみて、壊して、またつくる。
図画工作科の用具指導も同じだ。のこぎりの使い方を説明するだけでは不十分。実際に切ってみて、手に伝わる感覚を通じて身に付ける。そのために、十分な時間と材料を用意すること。そして、失敗しても安全な環境をつくること。それが教師の仕事だ。
指導のポイント
- 中学年でのこぎり・金づち・小刀・彫刻刀・水彩絵の具と新たに出会う
- 用具の広がりは児童の体の成長と手の巧みさの発達に対応している
- 水彩絵の具は色をつくることを楽しむことから——水の加減、混色、にじみ
- 手や体全体を十分に働かせる——手先だけでなく、全身で材料に向き合う
- 安全指導と同時に、用具を使いこなす達成感を大切にする
- 前学年までの経験を生かす——既習の技能が新しい表現の基盤になる
- 実際に手を動かして身に付ける——十分な時間と材料を確保する
まとめ——道具が表現を広げる
材料と用具は、児童の表現の可能性を広げるものだ。
- 中学年で新しい用具(のこぎり・金づち・水彩絵の具など)と出会う
- 体の成長に応じて、手や体全体を十分に働かせる
- 水彩絵の具で「色をつくる」喜びを知る
- 安全を確保しながら、使いこなす達成感を味わう
- 前学年の経験を土台に、新しい表現へ発展させる
道具が使えるようになると、「もっとこうしたい」という思いが生まれる。その思いが、また新しい用具への挑戦を生む。材料と用具との出会いが、表現の世界を広げていく。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編(文部科学省, 2017)の第3章第2節及び第4章を基に執筆しています。

