やり取りと発表の違い
外国語活動の「話すこと」は、[やり取り]と[発表]の2つに分かれている。
やり取りは、相手と言葉を交わし合う活動だった。発表は、一人(またはグループ)が聞き手に向かって話す活動だ。
身の回りの物について,人前で実物やイラスト,写真などを見せながら,簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする。
やり取りが対話なら、発表は伝達だ。相手のリアクションを待たずに、自分の伝えたいことをまとまりのある形で話す。
発表の3つの目標
ア 身の回りの物について話す
身の回りの物について,人前で実物やイラスト,写真などを見せながら,簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする。
最も基本的な発表の形だ。実物を見せながら話すのがポイント。
筆箱を見せながら「This is my pencil case.」と言う。お気に入りのおもちゃを見せながら「I like this toy.」と言う。
人前で実物やイラスト,写真などを見せながら
実物やイラストを見せることで、聞き手にも内容が伝わりやすくなる。そして、話す側も手がかりがあることで安心して話せる。「見せる」ことが、発表のハードルを下げる工夫になっている。
イ 自分のことを話す
自分のことについて,人前で実物やイラスト,写真などを見せながら,簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする。
自分の名前、好きなもの、できること——自分自身について人前で話す。
「My name is Tanaka. I like soccer. I can swim.」——簡単な自己紹介だ。しかし、3年生にとって英語で自分のことを人前で話すのは大きな挑戦だ。
ウ 日常生活について話す
日常生活に関する身近で簡単な事柄について,人前で実物やイラスト,写真などを見せながら,自分の考えや気持ちなどを,簡単な語句や基本的な表現を用いて話すようにする。
3つ目の目標では、身の回りの物や自分のことだけでなく、日常生活の事柄にまで広がる。そして、自分の考えや気持ちも含まれる。
「I went to the park. It was fun.」——日常の出来事を話し、それについての感想を添える。
ただし、3年生では複雑な文を組み立てることは求めていない。簡単な語句と基本的な表現の範囲で、自分なりに伝えることが目標だ。
発表の言語活動
身の回りの物を紹介する
身の回りの物の中から好きな物を選び,実物やイラスト,写真などを見せて,それが何かや好きな理由を含めて紹介する活動。
「This is my book. I like this book because it’s interesting.」——好きな理由まで言えれば素晴らしい。でも、「This is my book. I like it.」だけでも、立派な発表だ。
自分のことを紹介する
簡単な自己紹介をする活動。
名前、好きなもの、できること——3つくらいの情報で、自己紹介をする。
「Show and Tell」(見せて話す)の形式が効果的だ。自分の好きなものを持ってきて、見せながら話す。物があることで、話すきっかけが生まれる。
日常生活について話す
日常生活について,絵日記や日課表などを見せながら,自分の考えや気持ちなどを含めて話す活動。
絵日記や写真を使って、自分の生活を紹介する。視覚的な手がかりがあることで、話す内容を思い出しやすくなる。
発表を支える指導の工夫
聞き手を育てる
発表の活動では、話す側だけでなく聞く側の指導も重要だ。
- 話している人を目を見て聞く
- 話が終わったら拍手する
- 「Good!」「Nice!」と声をかける
- 分からなかったら「One more time, please.」と言ってみる
聞き手の反応があると、話す側は安心できる。温かい聞き手がいることが、発表の活動を成り立たせる。
段階的に慣れさせる
いきなりクラス全員の前で発表するのはハードルが高い。
- まずペアで練習する
- 次に小グループで発表する
- 慣れてきたらクラス全体の前で発表する
この段階的なステップが、発表への不安を減らす。
言語や文化への気付き
外国語活動には、もう一つ大切な学びがある。言語や文化への気付きだ。
日本語と英語の音声の違い
日本語と外国語の音声の違いなどに気付くとともに,言葉の面白さや豊かさに気付くこと。
英語を学ぶことで、日本語の特徴にも気付く。
- 「L」と「R」の違い——日本語にはない区別
- 英語のリズムとイントネーション——日本語とは違う抑揚
- 英語にはカタカナで書けない音がある——thの音、fの音
- 同じ物でも呼び方が違う——「犬」と「dog」
言語を客観的に捉え,その仕組みを探ろうとする
英語を学ぶことは、日本語を外から見ることでもある。「なぜ日本語では『犬』って言うんだろう?」——普段当たり前に使っている日本語を、改めて不思議に思う。この「気付き」が、言語への感性を育てる。
世界の文化への気付き
日本と外国の生活,習慣,行事などの違いを知り,多様な考え方があることに気付くこと。
外国語活動は、世界への窓でもある。
| 違いの例 | 日本 | 外国 |
|---|---|---|
| 挨拶 | お辞儀 | 握手、ハグ |
| 食事 | 箸を使う | フォークとナイフ |
| 正月 | 1月1日 | 国によって異なる |
| 学校 | 4月始まり | 9月始まりの国が多い |
ただし、文化の違いを知ることが目的ではない。違いを知ることで、多様な考え方があることに気付くことが大切だ。
外国語の背景にある文化に対する理解を深め
「違うことは悪いことではない」「世界にはいろいろな暮らし方がある」——この気付きは、異文化理解の出発点であり、自分自身の文化を大切にする心にもつながる。
異なる文化をもつ人々との交流
外国語を通して,異なる文化をもつ人々との交流等の体験的な理解
ALT(外国語指導助手)との交流は、文化への気付きの最も身近な機会だ。
ALTの出身国の遊びを一緒にやってみる。ALTの国の食べ物の写真を見せてもらう。ALTが日本で驚いたことを英語で聞く。——生身の人間を通じて文化に触れることで、教科書だけでは得られない実感が生まれる。
国語科との関連
外国語活動と国語科は、言語への気付きという点で深くつながっている。
国語科の国語に関する事項で育成する資質・能力と共通している面がある
- 国語科で「言葉の仕組み」を学ぶ → 英語との比較で理解が深まる
- 英語のリズムを感じる → 日本語のリズム(五七五など)を改めて意識する
- 英語の語順(主語→動詞→目的語)を知る → 日本語の語順(主語→目的語→動詞)を意識する
外国語活動と国語科が互いに補い合うことで、言語全体への理解が深まる。
教師として残しておきたいこと
農業の現場では、文化の違いを日常的に経験した。外国人技能実習生が持ち込む調味料、食べ方、時間感覚——最初は驚くこともあったが、一緒に働くうちに「そういう文化なんだ」と自然に受け入れるようになった。異文化理解は、知識ではなく体験から生まれる。
Web開発では、英語の技術ドキュメントを読む中で、英語の論理構造を知った。結論が先に来る。主語が明確だ。——日本語の「空気を読む」コミュニケーションとは全く違う構造。英語を通じて日本語のコミュニケーションの特徴に気付いた。
発表と文化への気付きは、一見別々のテーマに見える。しかし、人前で話す勇気と異なる文化を受け入れる心は、同じ根っこから生まれる。それは、「自分と違うものに出会うことを恐れない態度」だ。
指導のポイント
- 発表は聞き手に向かって伝える活動——やり取りとは異なる
- 実物・イラスト・写真を見せながら話す——視覚的手がかりがハードルを下げる
- 発表は段階的に慣れさせる——ペア→小グループ→クラス全体
- 聞き手を育てることが、発表の活動を支える
- 英語を通じて日本語の特徴に気付く——言語への感性を育てる
- 世界の生活・習慣・行事の違いから多様な考え方に気付く
- ALTとの交流は文化への気付きの最も身近な機会——体験的な理解を大切にする
まとめ——言葉と文化の入り口に立つ
話すこと[発表]と言語や文化への気付きは、言葉の面白さと世界の多様性に出会う学びだ。
- 実物を見せながら、人前で英語を話す体験を積む
- 段階的に慣れさせ、温かい聞き手を育てることで安心できる場をつくる
- 英語と日本語の違いに気付くことで、言語への感性が育つ
- 世界の文化に触れ、多様な考え方があることを知る
- 体験的な理解を通じて、異文化を受け入れる態度が生まれる
「英語では犬のことをdogって言うんだ。面白いね。」——この素朴な気付きが、言葉の世界への扉を開く。そして、「世界にはいろんな暮らし方があるんだ」という発見が、自分の世界を広げる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編(文部科学省, 2017)の第1部第2章を基に執筆しています。

