最初の力は「聞く力」
外国語を学ぶとき、最初に働くのは耳だ。
赤ちゃんが言葉を覚えるのも、まず聞くことから始まる。外国語活動も同じだ。聞いて分かる体験が、話す力の土台になる。
ゆっくりはっきりと話された際に
解説がこの言葉を繰り返し使っている。3年生に求めているのは、ネイティブスピードの英語を聞き取ることではない。ゆっくり、はっきり話された英語——その条件のもとで、少しずつ聞く力を育てていく。
聞くことの3つの目標
ア 語句や表現を聞き取る
ゆっくりはっきりと話された際に,自分のことや身の回りの物を表す簡単な語句を聞き取るようにする。
最も基本的な目標だ。自分の名前、色、果物、動物——身近な語句を聞いて、それが何のことか分かる。
「Apple」と聞いて、りんごのことだと分かる。「Red」と聞いて、赤色のことだと分かる。一つひとつの語句が聞き取れるようになることが、全ての出発点だ。
イ 表現の意味を理解する
ゆっくりはっきりと話された際に,身近で簡単な事柄に関する基本的な表現の意味が分かるようにする。
語句だけでなく、短い表現全体の意味が分かるようになることが目標だ。
「I like apples.」を聞いて、「りんごが好きだと言っている」と分かる。「How are you?」を聞いて、「調子はどう?って聞いている」と分かる。
ここで重要なのは、一語一語を正確に聞き取ることではないということだ。
児童は,知っている語句や表現を手掛かりに,話の内容を推測しながら聞く
「apple」と「like」が聞こえたから、きっと好きなんだろう——推測しながら聞く力を育てる。完全に聞き取れなくても、文脈や表情、ジェスチャーなどの手がかりを使って理解する。これも立派な「聞く力」だ。
ウ 文字の読み方を聞く
文字の読み方が発音されるのを聞いた際に,どの文字であるかが分かるようにする。
3つ目の目標は少し特殊だ。アルファベットの文字の「名称」を聞いて、どの文字か分かること。
「エイ」と聞いて、Aの文字を指させる。「ビー」と聞いて、Bの文字を指させる。
ただし、ここで言う「読み方」は文字の名称であって、音素(フォニックス)ではない。
文字の読み方とは,A(エイ), B(ビー), C(シー)のように,文字の名称のこと
「A」を「ア」と読む(音素)ことは、ここでは求めていない。文字の名前を聞いて識別できればよい。
聞くことの言語活動
解説は、聞くことの具体的な言語活動も示している。
短い話を聞いておおよその内容が分かる
身近で簡単な事柄に関する短い話を聞いておおよその内容が分かるようにする。
「I’m Tanaka. I like dogs. I have two dogs.」——こんな短い自己紹介を聞いて、「田中さんは犬が好きで、2匹飼っている」とおおよそ分かればよい。
「おおよそ」がキーワードだ。完璧に聞き取れなくていい。大まかな内容が掴めればよい。
イラストや写真と結び付ける
身近で簡単な事柄に関する短い話を聞いて,イラストや写真などを結び付ける活動。
聞いた内容と視覚情報を結び付ける活動だ。
「I like swimming.」と聞いて、水泳のイラストを選ぶ。「It’s sunny.」と聞いて、晴れの絵を指す。
聞く力と視覚的な理解を結び付けることで、言葉の意味が具体的になる。
文字の読み方を聞いて識別する
アルファベットの活字体の大文字及び小文字を識別し,その読み方を発音する活動。
アルファベットの大文字と小文字を見て区別し、その名称を言える。逆に、名称を聞いて文字を指せる。
活字体の大文字については中学年から,小文字については高学年から指導する
3年生では大文字のみが基本だ。小文字は高学年から本格的に扱う。
「聞く」ための指導の工夫
聞く必然性をつくる
ただ英語を流すだけでは、児童は「聞く」ことにならない。聞く必然性がある場面を設定することが大切だ。
- ALTが好きな食べ物を話す → 「何が好きか当てよう」
- 英語で指示を出す → 「聞いて動こう」(Simon Says など)
- 友達の自己紹介を聞く → 「誰のことか当てよう」
「聞かなきゃ分からない」「聞いたら楽しい」——この目的意識が、聞く力を育てる。
繰り返し聞く機会をつくる
外国語活動においては,児童が英語の音声やリズムなどに慣れ親しむことが重要であり,同じ表現に繰り返し触れることができるように
チャンツ(リズムに乗せて英語を言う活動)、歌、絵本の読み聞かせ——楽しみながら繰り返し聞く活動が効果的だ。
1回聞いて分からなくても、何度も聞いているうちに「あ、分かった!」となる。この瞬間が、児童にとって大きな喜びになる。
視覚的な支援
ジェスチャーを付けたり,実物やイラスト,写真などを見せたりしながら話すようにする
教師やALTが話すとき、言葉だけでなくジェスチャー、実物、イラストを活用する。視覚的な情報があることで、音声の意味が理解しやすくなる。
「Big!」と言いながら両手を広げる。「Small!」と言いながら指で小さい丸をつくる。体全体で表現することが、聞く力の支えになる。
日本語の音声との違い
英語を聞く経験は、日本語の音声の特徴に気付くきっかけにもなる。
日本語と外国語の音声の違いなどに気付くこと
- 英語にはカタカナで表せない音がある(thの音、Rの音など)
- 英語にはリズムやイントネーションの強弱がある
- 日本語は「あいうえお」の母音が明確だが、英語は母音の種類が多い
「英語って日本語と全然違う音がする!」——この驚きそのものが、言語への気付きだ。
ただし、細かい発音の違いを教え込むことが目的ではない。活動の中で自然に気付くことが大切だ。
教師として残しておきたいこと
農業の現場では、機械の音や自然の音を「聞く」ことが安全の基本だった。トラクターの異音に気付く。風の音で天候の変化を予測する。「聞く」ことは、情報を得る最も原始的で確実な方法だ。
Web開発では、英語のポッドキャストやYouTubeを聞くことが学びの入り口だった。最初は何を言っているかさっぱり分からない。しかし、毎日聞いているうちに、知っている単語が聞こえるようになる。そこからおおよその内容が推測できるようになる。「慣れ親しむ」とはまさにこのことだった。
外国語活動の「聞くこと」で大切にしたいのは、「分からない」を「怖い」にしないことだ。分からなくて当たり前。でも、聞いてみたら少し分かった。もう一回聞いたらもっと分かった。——この「少しずつ分かる喜び」を積み重ねることが、聞く力の土台をつくる。
指導のポイント
- 聞くことは外国語学習の最初の力——話す力の土台になる
- ゆっくりはっきり話された英語が条件——ネイティブスピードは求めない
- 3つの目標:語句の聞き取り・表現の意味理解・文字の名称の識別
- 推測しながら聞く力を育てる——完全に聞き取れなくても文脈から理解する
- 聞く必然性のある場面を設定する——「聞かなきゃ分からない」状況をつくる
- 繰り返し聞く機会を豊富に——チャンツ・歌・絵本の読み聞かせ
- 視覚的な支援(ジェスチャー・実物・イラスト)で聞く力を支える
まとめ——聞くことから始まる
聞くことは、外国語活動の全ての出発点だ。
- ゆっくりはっきり話された英語を聞いて、身近な語句や表現の意味が分かる
- 推測しながら聞く力を育てる
- アルファベットの名称を聞いて識別できるようにする
- 聞く必然性のある楽しい活動を通じて、繰り返し英語に触れる
- 日本語との音声の違いに自然に気付く
「Apple!」——ALTの声を聞いて、「あ、りんごだ!」と目を輝かせる。その瞬間、英語の音声と意味が児童の中でつながる。聞いて分かる喜びが、もっと聞きたいという気持ちを生む。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編(文部科学省, 2017)の第1部第2章を基に執筆しています。

