「素地」という言葉の重み
3年生の外国語活動は、多くの児童にとって初めて英語に出会う場だ。
ここで育てるのは、英語力そのものではない。
外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ,外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
コミュニケーションを図る素地——高学年の外国語科では「基礎」になり、中学校では「資質・能力」そのものになる。3年生はその最初の一歩だ。
「素地」とは何か。英語が話せるようになることではない。「伝えたい」「分かりたい」という気持ちの土台をつくることだ。
3つの資質・能力
外国語活動で育てる資質・能力は、3つの柱で整理されている。
(1) 知識及び技能
外国語を通して,言語や文化について体験的に理解を深めるとともに,日本語と外国語との音声の違い等に気付くようにし,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにする。
ポイントは3つだ。
- 体験的に理解する——知識として「教える」のではなく、活動の中で「気付く」
- 日本語との違いに気付く——外国語を学ぶことで、日本語への理解も深まる
- 慣れ親しむ——「できる」ではなく「慣れ親しむ」が目標
(2) 思考力・判断力・表現力等
身近で簡単な事柄について,外国語で聞いたり話したりして自分の考えや気持ちなどを伝え合う力の素地を養う。
ここでも「素地を養う」だ。完全に伝え合えなくてもいい。伝え合おうとする経験を積むことが大切だ。
(3) 学びに向かう力・人間性等
外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め,相手に配慮しながら,主体的にコミュニケーションを図ろうとする態度を養う。
相手に配慮しながら——これが重要だ。英語ができるかどうかではなく、相手のことを考えながらコミュニケーションしようとする態度を育てる。
3つの領域——読み書きは扱わない
外国語活動で扱う領域は3つだ。
| 領域 | 内容 |
|---|---|
| 聞くこと | ゆっくりはっきり話された英語を聞いて意味が分かる |
| 話すこと[やり取り] | 挨拶や簡単なやり取りを通じて伝え合う |
| 話すこと[発表] | 身近なことについて人前で話す |
注目すべきは、「読むこと」「書くこと」が含まれていないことだ。
高学年の外国語科では5領域(聞く・読む・話す[やり取り]・話す[発表]・書く)になる。しかし、中学年の外国語活動では音声中心だ。
文字については,児童の学習負担に配慮しつつ,音声によるコミュニケーションを補助するものとして取り扱うこと。
文字は補助的に触れる程度。アルファベットの「名称」(エイ、ビー、シー)は聞いて分かるようにするが、読み書きの指導は行わない。
体験的な学び
外国語活動においては,児童が実際にコミュニケーションを行う場面を設定して,言語活動を効果的に経験することが大切
外国語活動の核心は体験的な学びだ。
文法を教えない。単語を暗記させない。代わりに、実際にコミュニケーションする場面を設定する。
- 友達に好きな食べ物を聞いてみる
- 自分の名前を英語で紹介する
- 外国の挨拶を実際にやってみる
「やってみたら通じた」「聞いてみたら分かった」——この小さな成功体験の積み重ねが、コミュニケーションの素地をつくる。
間違いを恐れず積極的に外国語を使おうとする態度を育成すること
間違えてもいい。むしろ、間違えながら試すことが大切だ。「正しく言えること」よりも「言ってみようとすること」に価値がある。
「外国語活動」と「外国語科」の違い
3・4年生の外国語活動と、5・6年生の外国語科は、名前が似ているが性質が異なる。
| 外国語活動(3・4年) | 外国語科(5・6年) | |
|---|---|---|
| 目標 | 素地 | 基礎 |
| 領域 | 3領域(聞く・やり取り・発表) | 5領域(+読む・書く) |
| 評価 | 文章記述 | 3観点で評定 |
| 時数 | 年間35時間 | 年間70時間 |
| 教科書 | なし(教材あり) | あり |
外国語活動は「活動」だ。教科ではない。だからこそ、楽しさを最優先にできる。「英語って面白い」「もっと話してみたい」——この気持ちを育てることが、高学年の外国語科につながる最大の「素地」だ。
言語や文化への気付き
外国語活動には、英語を使う力を育てるだけでなく、言語や文化への気付きという大切な側面がある。
日本語と外国語との音声の違い等に気付き,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しむようにすること。
英語を学ぶことで、日本語の特徴にも気付く。
- 日本語にはない「L」と「R」の音がある
- 英語には「あいうえお」のような規則的な母音体系がない
- 挨拶の仕方が国によって違う
外国語を通して,言語やその背景にある文化に対する理解を深め
「なぜ英語では名前を先に言うのか」「なぜ握手をするのか」——言葉の背景にある文化に触れることで、世界の多様性に気付く。そしてそれは、日本の文化を改めて見つめ直すきっかけにもなる。
教師として残しておきたいこと
農業では、言葉が通じないことが日常だった。外国人技能実習生と一緒に作業するとき、日本語も英語も十分には通じない。しかし、ジェスチャーや表情、実物を見せることで、驚くほど多くのことが伝わった。「伝えたい」という気持ちがあれば、言語の壁は思ったより低い。
Web開発では、英語のドキュメントを読む力が仕事の幅を広げた。最初は苦手だった英語のエラーメッセージも、毎日読んでいるうちに自然と分かるようになった。「慣れ親しむ」の力を実感した経験だ。
外国語活動で最も大切にしたいのは、「英語ができるようになること」ではなく「コミュニケーションしたいと思うこと」だ。英語の正確さよりも、相手に伝えようとする姿勢。それは、どんな言語でも、どんな場面でも生きる力だ。
指導のポイント
- 育てるのは「素地」——英語力ではなく、コミュニケーションの土台
- 3つの領域は聞くこと・やり取り・発表——読み書きは扱わない
- 体験的な学びを中心に——文法や暗記ではなく、実際のコミュニケーション場面で
- 間違いを恐れず使おうとする態度を育てる——正確さより意欲
- 日本語との違いへの気付き——外国語を学ぶことで母語も見つめ直す
- 言語の背景にある文化にも触れる——世界の多様性への入り口
- 楽しさが最優先——高学年の外国語科への最大の「素地」は「もっとやりたい」という気持ち
まとめ——「伝えたい」が全ての始まり
外国語活動は、コミュニケーションを図る素地となる資質・能力を育てる活動だ。
- 音声中心の体験的な学びで、英語に慣れ親しむ
- 聞くこと・やり取り・発表の3領域を通じて、伝え合う楽しさを知る
- 日本語との違いに気付き、言語や文化への理解を深める
- 間違いを恐れず、相手に配慮しながらコミュニケーションしようとする態度を養う
「Hello!」——たった一言の挨拶でも、相手に伝わったときの喜びは大きい。その小さな成功体験が、コミュニケーションの素地をつくる。「伝えたい」という気持ちが、全ての始まりだ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 外国語活動・外国語編(文部科学省, 2017)の第1部第1章・第2章を基に執筆しています。

