全ての活動を支える基盤
図画工作科には、造形遊び、絵や立体・工作、鑑賞の活動がある。しかし、これら全てを貫く基盤がある。〔共通事項〕だ。
〔共通事項〕は,表現及び鑑賞の活動の中で,共通に必要となる資質・能力であり,造形活動や鑑賞活動を豊かにするための指導事項として示している。
共通事項は独立した題材ではない。全ての活動の中で、常に働かせる資質・能力だ。
ア 形や色などの感じが分かる——知識
自分の感覚や行為を通して,形や色などの感じが分かること。
これが、図画工作科における「知識」だ。
ポイントは「自分の感覚や行為を通して」分かるということ。教科書や教師から教えられた知識ではない。自分で触って、見て、つくって、分かる知識だ。
自分の感覚や行為とは,絵の具や板材などの材料や自分たちの作品などを捉えるときの,自分の視覚や触覚などの感覚,混ぜたり切ったりするなどの行為や活動のこと
中学年では、形や色の「感じ」が分かるようになる。
- 形の柔らかさ
- 色の暖かさ
- 色の組み合わせによる優しい感じ
- 面と面の重なりから生まれる前後の感じ
- 色の明るさによる感じの違い
- 質感
「三角形は鋭い感じ」,「赤い色は元気な感じ」など,対象や事象から受ける感じに気付くような姿が見られる。
具体的には、絵の具を混ぜたり水の量を変えたりすることで色の感じが分かる。様々な板材を組み合わせることで形を組み合わせた感じが分かる。様々な材料に触れ選ぶことで材料の質感が分かる。
この知識が分かると、表現のとき「形はどんな感じにしようか」「色はどんな感じがいいだろう」と、形や色の感じに着目して活動するようになる。鑑賞のときも、形や色の感じに着目して見るようになる。
イ 自分のイメージをもつ——思考力
形や色などの感じを基に,自分のイメージをもつこと。
もう一つの共通事項は、自分のイメージをもつこと。これは「思考力・判断力・表現力等」に位置付けられている。
イメージとは,児童が心の中につくりだす像や全体的な感じ,又は,心に思い浮かべる情景や姿などのこと
イメージは、大人から与えられるものではない。自分の感覚や行為とともに、自分の中から生まれるものだ。
中学年では、形や色の感じとイメージの関係が具体的になる。
解説が示す例が、児童のイメージの具体性をよく表している。
- 「材料が白くてふわふわしていたから、ウサギを思い付いた」
- 「絵の具のにじんだ様子を生かして不思議な世界を表した」
- 「粘土をかき出して大きな穴を開けたら、穴の中に住む生き物を思い付いた」
形や色の感じが、イメージの手がかりになっている。素材の特性と自分の想像が結び付いて、表したいことが生まれる。
アとイの関係——行き来する
アの事項は,アから引き続いてイが発揮されたり,イを基に形や色などの感じが分かったりするなど,相互に関連し合う関係にある。
アとイは、一方通行ではない。
パターン1:形や色の感じが分かる → イメージが生まれる
例:粘土の柔らかい感じに触れる → 「やさしい動物をつくりたい」
パターン2:イメージをもつ → 形や色の感じが分かる
例:「怖い森を描きたい」→ 暗い色の組み合わせの感じが分かるようになる
この行き来が、造形活動を豊かにする。
中学年の児童の特徴
中学年では、形や色の感じとイメージについて、低学年とは異なる特徴が見られる。
「鋭い感じにしたかったから三角にした」,「元気な感じにしたかったから赤くした」など,自分の行為や表し方などについて理由を付けて説明したりする
「丸い形をたくさんかいて楽しくした」,「青色と水色なので,冷たい水みたいだと思った」など,そのときの気持ちを併せて話したりする
低学年は「好き!」「面白い!」と直感的に反応することが多かった。中学年になると、考えと理由、事実と気持ちなどを関係付けるようになる。
「三角にしたのは鋭い感じにしたかったから」——形の選択に理由がある。この「理由を付けて説明できる」ことが、中学年の大きな成長だ。
ただし、イメージを直感的にもつことも依然として重要だ。全てを言語化する必要はない。
この学年においてもイメージを直観的にもつことは重要であり,自分の気持ちや経験と密接に関連していたり,曖昧で一体的なものであったりする。
言葉にならない感覚も、造形活動の大切な出発点だ。
指導の方向性
形や色の感じを体験的に分かるようにする
教師から一方的に教えるのではなく,児童が体験的に対象の形や色などの感じが分かるようにする必要がある。
「三角形は鋭い感じがする」と教えるのではない。三角形を切り、並べ、組み合わせる体験の中で、児童自身が「鋭い感じがするな」と気付くようにする。
水彩絵の具などの材料や用具を使ったり,様々な触り心地の材料を用意したりするなど,多様な学習活動を設定し,児童が形や色などの感じに興味や関心をもつようにする
イメージと形や色の関わりに気付かせる
材料にたっぷり触れ合ったり,行為や活動を繰り返したり,表したいことをじっくり考えたりすることができるように,材料などの量や活動などの時間を十分に確保することが重要
十分な時間と材料。これが、イメージを育てるための基本条件だ。
特定の図像や情報を与えて,それに児童を沿わせるように指導するものではなく,児童が活動する中で自分のイメージに気付いて,活動の展開を図ることのできるようにすることが重要
「こうしなさい」ではなく、「どう感じた?」「何を思い浮かべた?」と問いかけることで、児童自身がイメージに気付けるようにする。
イメージをもてない児童への配慮
児童によっては,自分のイメージをもつことができず,友人のイメージなどを助けに造形的な活動に取り組むこともある。その児童が安心して授業に参加できるように配慮することも必要である。
全員が同じタイミングでイメージをもてるわけではない。友人の活動を見て、そこからイメージを得ることも、立派な学びだ。安心して参加できる場をつくることが、何より大切だ。
他教科との関連
形や色の感じは、図画工作科だけのものではない。
- 算数:形の特徴(角が多い、丸い)を造形的な感じと結び付ける
- 理科:自然の形や色(葉の形、花の色、石の模様)を造形的に捉える
- 国語:比喩表現(「燃えるような赤」「氷のような青」)と色の感じの対応
- 音楽:音の感じと形や色の感じの対応——「明るい音色」「暖かい音」
- 生活全般:服の色の組み合わせ、部屋の飾り方、食事の盛り付け
図画工作科の学習だけではなく,学校や家庭などの他の場面でも,形や色などの感じに着目して関わるようになる。
造形的な視点は、生活全体を豊かにする力だ。
教師として残しておきたいこと
農業では、「感じ」で判断することが多かった。土の色の感じ、作物の葉の形の感じ——データ化できない微妙な違いを、手で触り、目で見て感じ取る。これは「自分の感覚や行為を通して分かる知識」そのものだった。
Web開発では、UIの「感じ」を言語化することに苦心した。「このボタンは押しやすい感じがする」——その「感じ」を、角の丸み、色の明るさ、大きさなどの要素に分解して説明する。形や色の感じを言語化できる力は、デザインの現場で直接役に立つ。
〔共通事項〕は、一見地味な指導事項に見える。しかし、ここで育てている力は形や色を通じて世界を感じ取り、自分のイメージを持つ力だ。それは、図画工作の授業を超えて、生活のあらゆる場面で働く力だ。
指導のポイント
- 〔共通事項〕は独立した題材ではない——全ての活動の中で働かせる
- 形や色などの感じが分かる(知識)——自分の感覚や行為を通して体験的に
- 自分のイメージをもつ(思考力)——形や色の感じを基に心の中につくりだす
- アとイは相互に行き来する関係——一方通行ではない
- 中学年の児童は理由を付けて説明できるようになる——でも直感も大切
- 「教える」のではなく「気付かせる」——体験と問いかけで
- イメージをもてない児童が安心して参加できる場をつくる
まとめ——感じる力が全てを支える
〔共通事項〕は、形や色などの感じが分かることと、自分のイメージをもつことで構成される。
- 形や色の感じは、自分の感覚や行為を通して体験的に分かる
- 形や色の感じを基に、自分のイメージが生まれる
- アとイは相互に行き来しながら、造形活動を豊かにする
- 中学年では、考えと理由を関係付けて説明できるようになる
- 生活のあらゆる場面で形や色の感じに着目して関わるようになる
「丸い形は優しい感じがする」——この気付きは小さなものに見える。しかし、この気付きが積み重なることで、子どもたちは形や色を通じて世界を豊かに感じ取れるようになる。それは、一生涯にわたって働き続ける力だ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 図画工作編(文部科学省, 2017)の第3章第2節を基に執筆しています。

