テストがない教科の評価
教科書がない。テストもない。では、総合的な学習の時間の学びを、どう評価するのか。
児童のよい点や進歩の状況などを踏まえて評価するものとする。
通知表では、数値的な評価は行わない。「3・2・1」や「A・B・C」のような評定ではなく、所見による記述で評価する。
これは「評価しなくてよい」ということではない。むしろ、数値に頼れない分、教師の見取りの力が試される。
観点別学習状況の評価
評価の観点については,各学校において定める目標及び内容に基づいて別に定めるものとする。
他教科は全国共通の3観点(知識・技能、思考・判断・表現、主体的に学習に取り組む態度)で評価する。総合的な学習の時間も3つの柱を踏まえるが、具体的な評価の観点は各学校が定める。
たとえば、ある学校の評価の観点は次のようになるかもしれない。
| 柱 | 評価の観点の例 |
|---|---|
| 知識及び技能 | 探究課題に関する概念を理解し、探究的な学習のよさを理解している |
| 思考力・判断力・表現力等 | 課題を見付け、情報を集め、整理・分析し、まとめ・表現している |
| 学びに向かう力・人間性等 | 主体的・協働的に探究に取り組み、社会に参画しようとしている |
各観点に対する評価規準も、学校が設定する。「何ができていればよいか」を具体的に定めることが、評価の第一歩だ。
評価の3原則
解説は、総合的な学習の時間の評価において大切にすべき3つの原則を示している。
① 信頼される評価
適正な評価を行うためには,あらかじめ教師の間で評価規準や評価方法等を明確にしておくことが重要である。
評価が教師個人の「なんとなくの印象」で左右されてはいけない。評価規準を事前に定め、共有することで、誰が評価しても同様の判断ができるようにする。
学年団や校内研修で評価規準を検討し、教師間で共通理解をつくることが大切だ。
② 多面的な評価
教師や児童によって多様な評価を行うことが考えられる。
一つの方法だけでは、児童の学びの全体像は見えない。多様な方法を組み合わせることで、多面的に捉える。
| 評価方法 | 特徴 |
|---|---|
| ポートフォリオ | 学習の過程を記録した資料を蓄積する |
| 発表・プレゼンテーション | まとめ・表現の力を直接見る |
| レポート・新聞 | 思考・判断・表現の過程を読み取る |
| ワークシート | 各活動段階での思考の変化を記録する |
| 観察記録 | 活動中の姿を教師が記録する |
| 児童の自己評価 | 自分の学びを振り返る力を育てる |
| 児童の相互評価 | 友達の発表や作品についてコメントし合う |
特にポートフォリオは、総合的な学習の時間の評価に有効だ。探究の過程で集めた資料、書いたメモ、作成したレポート、撮影した写真——これらを蓄積していくことで、学びの過程と成長の軌跡が見える。
③ 過程の評価
学習の結果だけでなく,学習の過程を評価することが大切である。
探究のゴール(まとめ・表現)の出来栄えだけを評価するのではない。課題を設定する過程、情報を収集する過程、整理・分析する過程——一つひとつの段階での児童の姿を見取る。
たとえば、最終発表は上手にできなかったけれど、情報収集の段階で粘り強く地域の人にインタビューを重ねた児童がいる。発表だけを見れば評価は低いが、過程を見れば豊かな学びがあったことが分かる。
児童の自己評価
児童が自ら学習の進め方を振り返り,よりよい探究活動につなげていけるようにするためにも,自己評価の場面を適切に位置付けることが大切である。
自己評価は「教師のための評価資料」ではない。児童自身が自分の学びを振り返り、次の探究につなげるための営みだ。
「私はインタビューで、最初は緊張して質問ができなかったけれど、だんだん聞きたいことが聞けるようになった」——このような振り返りは、児童自身の成長の自覚を促す。
自己評価を通じて、児童は自分の探究のプロセスをメタ認知的に捉える力を育てていく。
所見の書き方
通知表の総合的な学習の時間の欄は、所見記述だ。限られたスペースで、児童の学びの姿を具体的に伝える必要がある。
効果的な所見のポイントは:
- 探究課題に対する具体的な取り組みを書く(「環境問題について」ではなく「地域の川の水質調査を通じて」)
- 児童の変容を書く(「最初は〜だったが、〜するようになった」)
- 資質・能力の育ちを具体的なエピソードで伝える
- 探究のよさを実感している姿を書く
「地域の川の水質調査を通じて、上流と下流で水質が異なる理由を粘り強く調べ、地域の方への聞き取りと自分の調査結果を関連付けて考えることができました」——このように、何をし、どう考え、何が育ったかが伝わる所見を書く。
カリキュラム・マネジメントの視点からの評価
総合的な学習の時間を中核としたカリキュラム・マネジメントの視点から教育課程を評価・改善することが求められる。
評価には、もう一つの視点がある。児童の学びの評価だけでなく、教育課程そのものの評価だ。
- この探究課題は、児童にとって切実感のあるものだったか
- 年間指導計画の時間配分は適切だったか
- 外部人材との連携は効果的だったか
- 各教科との関連は機能したか
これらを振り返り、次年度の計画を改善する。児童の学びの評価と教育課程の評価が、一体となって機能する。
教師として残しておきたいこと
農業では、収量だけが評価ではなかった。味、見た目、栽培にかかったコスト、土壌の変化——多面的に評価しなければ、次の年の改善につながらない。そして何より、過程の記録が命だった。「今年は施肥を変えてみた→結果はこうだった→だから来年はこうしよう」という過程の蓄積が、農業経営そのものだった。
Web開発では、ユーザー満足度を数値だけでは測れない場面がたくさんあった。NPS(推奨度)のような定量データに加えて、ユーザーインタビューの定性データ、行動ログの分析——多面的なデータを組み合わせることで、初めて全体像が見えた。
総合的な学習の時間の評価も同じだ。一つの方法では見えないものが、複数の方法を組み合わせることで見えてくる。そして、最も大切なのは過程を記録し続けることだ。ポートフォリオは、その記録の仕組みそのものだ。
指導のポイント
- 数値的な評価は行わない——所見による記述で評価する
- 評価の観点と評価規準は各学校が定める——事前に教師間で共通理解をつくる
- 信頼される評価——評価規準を明確にし、印象だけに頼らない
- 多面的な評価——ポートフォリオ、発表、レポート、観察記録、自己評価を組み合わせる
- 過程の評価——結果だけでなく、探究の各段階での児童の姿を見取る
- 自己評価は児童自身の成長の自覚を促す営み——教師のための資料ではない
- カリキュラム・マネジメントの視点——教育課程そのものの評価・改善にもつなげる
まとめ——見えにくいものを見取る力
総合的な学習の時間の評価は、数値によらず、児童の探究の過程と成長を多面的に見取る営みだ。
- 数値的な評価は行わず、所見記述で児童の学びを伝える
- 評価の観点と規準を各学校が定め、教師間で共通理解をつくる
- 信頼される評価・多面的な評価・過程の評価の3つを大切にする
- ポートフォリオを中心に、多様な方法を組み合わせる
- 児童の自己評価が、メタ認知的な力を育てる
- 教育課程そのものの評価・改善にもつなげる
テストの点数では測れない力がある。問いを立てる力、粘り強く調べる力、仲間と協働する力、自分の考えをまとめて伝える力——これらを見取ることができるのは、児童の探究の過程に寄り添い続けた教師だけだ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編(文部科学省, 2017)の第8章を基に執筆しています。

