教科書がない教科
総合的な学習の時間は、他のどの教科とも決定的に違う点がある。
総合的な学習の時間では,各教科等のように,どの学年で何を指導するのかという内容を学習指導要領に明示していない。
教科書がない。学習内容が決まっていない。
各教科には、学習指導要領で具体的な内容が定められている。算数なら「3年生で割り算を学ぶ」、理科なら「4年生で月と星を学ぶ」。しかし、総合的な学習の時間には、そのような内容規定がない。
各学校が、自ら目標と内容を定める。 ここに、この時間の最大の特質がある。
目標の設定——学校教育目標との直結
各学校において定める総合的な学習の時間の目標には,第1の目標を踏まえつつ,各学校が育てたいと願う児童の姿や育成すべき資質・能力などを,各学校の創意工夫に基づき明確に示すことが期待されている。
各学校の目標は、学習指導要領の目標をそのまま写すのではない。学校教育目標と直接的につながるものとして設定する。
解説は具体的な設定例を示している。
探究的な見方・考え方を働かせ,地域の人,もの,ことに関わる総合的な学習を通して,目的や根拠を明らかにしながら課題を解決し,自己の生き方を考えることができるようにする
「地域の人,もの,こと」——この学校は、地域との関わりを軸に総合的な学習の時間を設計している。学校の立地や地域の特色が、目標に反映される。
目標設定にあたって考慮すべきことは:
- 児童の実態
- 地域の実態
- 学校の実態
- 児童の成長に寄せる保護者の願い
- 児童の成長に寄せる地域の願い
- 児童の成長に寄せる教職員の願い
内容の設定——2つの軸
各学校が定める内容は、2つの軸で構成される。
軸① 探究課題——「何について学ぶか」
目標を実現するにふさわしい探究課題とは,目標の実現に向けて学校として設定した,児童が探究的な学習に取り組む課題である。
探究課題は、探究的に関わりを深める人・もの・ことだ。
学習指導要領は、探究課題の例として3つのカテゴリーを示している。
| カテゴリー | 探究課題の例 |
|---|---|
| 現代的な諸課題 | 国際理解、情報、環境、福祉・健康 |
| 地域や学校の特色に応じた課題 | 地域の伝統や文化、地域の人々の暮らし |
| 児童の興味・関心に基づく課題 | 児童が自ら見つけた課題 |
具体的には:
- 「身近な自然環境とそこで起きている環境問題」
- 「地域の伝統や文化とその継承に力を注ぐ人々」
- 「実社会で働く人々の姿と自己の将来」
これらの課題は、一つの教科の中だけでは完結しない。教科の枠を超えて探究する価値があることが、探究課題の条件だ。
軸② 具体的な資質・能力——「何ができるようになるか」
探究課題の解決を通して育成を目指す具体的な資質・能力とは,各学校において定める目標に記された資質・能力を各探究課題に即して具体的に示したものである。
探究課題に取り組む中で、どのような力を育てるかを明示する。
この資質・能力は、3つの柱で設定する。
| 柱 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 知識及び技能 | 他教科等及び総合で習得する知識・技能が相互に関連付けられ、社会の中で生きて働くものとなる | |
| 思考力・判断力・表現力等 | 探究のプロセスにおいて発揮され、未知の状況において活用できるものとなる | |
| 学びに向かう力・人間性等 | 自分自身に関することと他者や社会との関わりの両方の視点 |
探究課題と資質・能力の関係
目標の実現に向けて,児童が「何について学ぶか」を表したものが探究課題であり,各探究課題との関わりを通して,具体的に「どのようなことができるようになるか」を明らかにしたものが具体的な資質・能力という関係になる。
この2つはセットだ。どちらか一方だけでは不十分。
たとえば、探究課題が「地域の伝統行事とその継承」であれば、その探究を通じて育てる資質・能力は:
- 知識及び技能:地域の伝統行事の歴史やよさに気付き、それが人々の工夫によって守られていることを理解する
- 思考力等:伝統行事の課題を見つけ、情報を集めて分析し、自分の考えをまとめて伝える
- 学びに向かう力等:地域の人と協働して探究に取り組み、地域社会に参画しようとする態度
カリキュラム・マネジメントの中核
総合的な学習の時間の目標が学校の教育目標を具体化し,そして総合的な学習の時間と各教科等の学習を関連付けることにより,総合的な学習の時間を軸としながら,教育課程全体において,各学校の教育目標のよりよい実現を目指していく
総合的な学習の時間は、カリキュラム・マネジメントの中核に位置付けられている。
学校教育目標 → 総合的な学習の時間の目標 → 各教科等との関連
この流れで、教育課程全体が一貫性をもって機能する。総合的な学習の時間の目標を定めることは、学校の教育活動全体を俯瞰して設計することにつながる。
他教科等との違いに留意する
他教科等の目標及び内容との違いに留意しつつ,他教科等で育成を目指す資質・能力との関連を重視すること。
総合的な学習の時間で行うことが、社会科や理科の授業の延長になってしまう——これは避けなければならない。各教科にはそれぞれの固有の目標と内容がある。
総合的な学習の時間は、教科の学びを総合的に活用する場であり、特定の教科の学びを代替する場ではない。
教師として残しておきたいこと
農業で独立したとき、最初にしたのは「自分の農場の目標を定める」ことだった。どんな作物を、誰に向けて、どのように育てるのか。地域の気候、土壌、市場の状況を踏まえて、自分で決める。
これは、各学校が総合的な学習の時間の目標と内容を定めることと同じ構造だ。正解は一つではない。 地域の実態、児童の実態、学校の特色を踏まえて、「うちの学校はこうする」と決める。
Web開発でも、プロジェクトの最初に行うのは「課題定義」だった。何を問題と捉え、何を解決すべきかを定義する。この定義が曖昧だと、どれだけ技術力があっても、よい製品はできない。
総合的な学習の時間の設計も同じだ。探究課題の設定が、学びの質を左右する。 児童にとって切実感のある課題、探究する価値のある課題を設定できるかどうかが、教師の腕の見せどころだ。
指導のポイント
- 各学校が自ら目標と内容を定める——教科書がない教科の最大の特質
- 学校教育目標と直接的につながる目標を設定する
- 内容は探究課題(何について学ぶか)と資質・能力(何ができるようになるか)の2軸
- 探究課題は教科の枠を超えた横断的・総合的な課題であること
- 資質・能力は3つの柱(知識及び技能、思考力等、学びに向かう力等)で設定する
- 総合的な学習の時間はカリキュラム・マネジメントの中核
- 他教科の代替ではなく、総合的に活用する場として設計する
まとめ——学校が設計する学び
各学校が定める目標と内容は、「何について学ぶか」の探究課題と「何ができるようになるか」の資質・能力で構成される。
- 各学校が創意工夫を生かして目標と内容を定める
- 学校教育目標と直結し、カリキュラム・マネジメントの中核になる
- 探究課題は、地域や学校の特色を生かした横断的・総合的な課題
- 資質・能力は3つの柱で具体的に設定する
- 他教科との違いを意識しつつ、関連を重視する
教科書がないからこそ、学校の意志が問われる。「この学校の子どもたちに、何を探究させたいか」——その問いに向き合うことが、総合的な学習の時間の設計の出発点だ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編(文部科学省, 2017)の第3章及び第5章を基に執筆しています。

