音楽科が育てる力
音楽科の目標は、こう示されている。
表現及び鑑賞の活動を通して,音楽的な見方・考え方を働かせ,生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
「生活や社会の中の音や音楽と豊かに関わる」——音楽科が育てるのは、演奏技術だけではない。音や音楽との関わり方そのものだ。
中学年で何が変わるか
低学年と中学年で、最も大きく変わるキーワードがある。
低学年では「思い」だった。「こう歌いたい」「こう演奏したい」という漠然とした思い。
中学年では「思いや意図」になる。
音楽表現を考えて表現に対する思いや意図をもつことや,曲や演奏のよさなどを見いだしながら音楽を味わって聴くことができるようにする。
「思い」に「意図」が加わる。「こう歌いたい。なぜなら、この旋律が繰り返されるところで盛り上がるから」——思いの背後に、音楽的な根拠が生まれる。これが中学年の音楽科の核心だ。
5つの柱
中学年の音楽は、次の5つの柱で構成される。
A 表現(3分野)
| 分野 | 内容 | 中学年の変化 |
|---|---|---|
| 歌唱 | 歌う活動 | 曲の特徴を捉えた表現の工夫、ハ長調の楽譜、副次的な旋律 |
| 器楽 | 楽器を演奏する活動 | リコーダーが新登場、音色や響きと演奏の仕方 |
| 音楽づくり | 音楽をつくる活動 | 即興的な表現から音を音楽へと構成する |
B 鑑賞
| 内容 | 中学年の変化 |
|---|---|
| 音楽を聴く活動 | 曲や演奏のよさなどを見いだし、曲全体を味わって聴く |
〔共通事項〕
| 内容 | 中学年の変化 |
|---|---|
| 音楽を形づくっている要素 | 聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりについて考える |
〔共通事項〕は、表現と鑑賞の全ての学習を支える共通の資質・能力だ。独立した単元ではなく、全ての活動の中で育てるものとして位置づけられている。
「音楽的な見方・考え方」とは
学習指導要領は、音楽科特有の「見方・考え方」を次のように示している。
音楽に対する感性を働かせ,音や音楽を,音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉え,自己のイメージや感情,生活や文化などと関連付けること
2つの視点がある。
- 音楽を形づくっている要素とその働きの視点で捉える——音色、リズム、旋律、強弱、速度などの要素を聴き取り、それらがどんな効果を生んでいるかを考える
- 自己のイメージや感情、生活や文化と関連付ける——聴き取ったことを自分の感じ方や生活と結び付ける
この2つの視点が交差するところに、音楽の学びがある。「速度が遅い」という客観的な聴き取りと、「のんびりした感じがする」という主観的な感じ取り。この聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりを考えることが、音楽的な見方・考え方を働かせるということだ。
中学年の3つの目標
知識及び技能
曲想と音楽の構造などとの関わりについて気付くとともに,表したい音楽表現をするために必要な歌唱,器楽,音楽づくりの技能を身に付けるようにする。
低学年の「理解する」ではなく、中学年では「気付く」という表現が使われる。教えられて覚えるのではなく、活動の中で児童自身が気付いていく。
思考力・判断力・表現力等
音楽表現を考えて表現に対する思いや意図をもつことや,曲や演奏のよさなどを見いだしながら音楽を味わって聴くことができるようにする。
「思いや意図をもつ」と「よさを見いだす」。表現と鑑賞の両面で、音楽的な判断力を育てる。
学びに向かう力・人間性等
進んで音楽に関わり,協働して音楽活動をする楽しさを感じながら,様々な音楽に親しむとともに,音楽経験を生かして生活を明るく潤いのあるものにしようとする態度を養う。
協働してという言葉が大切だ。声を合わせる、音を合わせる、一緒に音楽をつくる——音楽は、一人で完結しない。友達と音楽をつくる楽しさを味わうことで、協働する態度が育つ。
共通教材——日本の音楽文化を継承する
3年生の共通教材は4曲ある。
| 曲名 | 種類 |
|---|---|
| うさぎ | 日本古謡 |
| 茶つみ | 文部省唱歌 |
| 春の小川 | 文部省唱歌(高野辰之作詞・岡野貞一作曲) |
| ふじ山 | 文部省唱歌(巌谷小波作詞) |
4曲全てを扱うことが求められている。日本古謡から文部省唱歌まで、日本の音楽文化を継承する役割を共通教材が担っている。
他教科・他領域との連動
- 国語:歌詞の内容の理解、言葉のリズムやイントネーション
- 体育(表現運動):リズムに乗って踊る活動との直結
- 図画工作:イメージの表現方法——音で表すか、形で表すか
- 道徳科:「伝統と文化の尊重」——共通教材を通じて日本の音楽文化に親しむ
- 総合的な学習の時間:郷土の音楽調査との連動
教師として残しておきたいこと
農業にも音楽があった。田植え唄、草取り唄、収穫の掛け声。農作業のリズムと歌は切り離せなかった。「よいしょ、よいしょ」と声を合わせて作業するとき、声が労働のリズムをつくり、仲間との一体感を生んでいた。
Web開発でも、音の大切さを感じる場面があった。通知音一つで、ユーザーの行動が変わる。エラー音、成功音、メッセージ着信音——音は情報を伝え、感情を動かす。音のデザインは、ユーザー体験の重要な要素だった。
音楽科で育てたいのは、音や音楽との豊かな関わり方だ。演奏技術が高いことだけが目標ではない。音を聴き取り、感じ取り、自分の表現に生かす。その循環を体験することが、生涯にわたって音楽を楽しむ力の土台になる。
「思い」が「思いや意図」になる。漠然とした「好き」が、「なぜ好きか」を言える力になる。これは音楽に限った話ではない。自分の感覚に言葉を与える力——それが中学年の音楽科で育つ力だ。
指導のポイント
- 低学年の「思い」から中学年の「思いや意図」へ——音楽的な根拠をもった表現を育てる
- 表現3分野(歌唱・器楽・音楽づくり)と鑑賞は相互に関連させて指導する
- 〔共通事項〕は全ての活動を貫く——独立した単元ではなく、常に働かせる
- 聴き取ったことと感じ取ったことの関わりを考えることが音楽的な見方・考え方
- 中学年では「気付く」——活動の中で児童自身が発見する学びを大切にする
- 共通教材4曲は全て扱う——日本の音楽文化の継承
- 協働して音楽活動をする楽しさが、表現と態度の両方を育てる
まとめ——音楽を学ぶということ
中学年の音楽は、思いや意図をもって表現し、曲や演奏のよさを見いだして味わう学びだ。
- 「思い」に「意図」が加わる——音楽的な根拠のある表現へ
- 歌唱・器楽・音楽づくり・鑑賞・共通事項の5つの柱が連動する
- リコーダーとの出会い、ハ長調の楽譜、副次的な旋律——新しい技能と知識が広がる
- 聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりを考える力が育つ
- 協働して音楽をつくる楽しさを味わう
「この曲が好き」から、「この曲のここが好き、なぜなら——」へ。自分の感覚に言葉を与える力が、音楽の学びを通じて育っていく。
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歌唱——声を合わせ、曲の特徴を捉えて歌う
器楽——リコーダーと出会い、音を合わせる
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 音楽編(文部科学省, 2017)の第2章及び第3章第2節を基に執筆しています。

