理科が始まる年
3年生は、理科が始まる学年だ。
1・2年生では「生活科」として、自然と関わってきた。虫を捕まえる。花を育てる。風で遊ぶ。水で遊ぶ。しかしそこでは「なぜ?」を突き詰めることは求められていなかった。体験と気付きが中心だった。
3年生からは違う。「なぜ?」を追いかけ、観察し、実験し、結果を比べ、自分なりの答えを見つける。問題解決の学習が始まる。
学習指導要領はこう述べている。
理科の学習が,小学校第3学年から開始されることを踏まえ,生活科の学習との関連を考慮し,体験的な活動を多く取り入れるとともに,問題解決の過程の中で,「理科の見方・考え方」を働かせ,問題を追究していくという理科の学習の仕方を身に付けることができるよう配慮する。
生活科の体験から、理科の問題解決へ。遊びから科学へ——この橋を架けるのが3年理科の仕事だ。
3観点で見る3年理科
3年理科全体を、観点別評価の3観点で捉えるとこうなる。
知識・技能
物の性質,風とゴムの力の働き,光と音の性質,磁石の性質及び電気の回路についての理解を図り,観察,実験などに関する基本的な技能を身に付けるようにする。
7つの単元それぞれの自然事象を理解し、観察・実験の基本的な技能(てんびんの使い方、温度計の読み方、虫眼鏡の扱い方、記録の仕方など)を身に付ける。
思考・判断・表現
3年理科で育てる思考力の中核は、はっきりしている。
主に差異点や共通点を基に,問題を見いだす力を養う。
「比較する」ことで「問いを立てる」。これが3年の重点能力だ。4年は「関係付け」、5年は「条件制御」、6年は「多面的に考える」へと発展していく。3年の「比較」はその出発点にある。
主体的に学習に取り組む態度
主体的に問題解決しようとする態度を養う。
加えて、B領域(生命・地球)では生物を愛護する態度も求められる。自然を調べるだけでなく、大切にする心も育てる。
2つの領域と4つの概念の柱
3年理科の内容は、2つの領域に分かれている。
| 領域 | 概念の柱 | 見方(捉える視点) |
|---|---|---|
| A 物質・エネルギー | 粒子・エネルギー | 量的・関係的、質的・実体的 |
| B 生命・地球 | 生命・地球 | 共通性・多様性、時間的・空間的 |
さらに、学習指導要領は理科の内容を4つの概念の柱で体系化している。
- 粒子:物の重さや性質に関わる(A(1) 物と重さ)
- エネルギー:力・光・音・磁石・電気に関わる(A(2)〜A(5))
- 生命:生物の体や育ち方に関わる(B(1) 身の回りの生物)
- 地球:太陽と地面の関係に関わる(B(2) 太陽と地面の様子)
この4つの柱は、3年から6年まで系統的に積み上がっていく。3年で扱う内容は、すべて上位学年の学習の土台になっている。
7つの単元——1年の地図
3年理科は全7単元で構成されている。
| # | 単元名 | 概念の柱 | 上位学年との接続 |
|---|---|---|---|
| A(1) | 物と重さ | 粒子 | → 5年「物の溶け方」 |
| A(2) | 風とゴムの力の働き | エネルギー | → 5年「振り子の運動」 |
| A(3) | 光と音の性質 | エネルギー | → 中学「光と音」 |
| A(4) | 磁石の性質 | エネルギー | → 5年「電流がつくる磁力」 |
| A(5) | 電気の通り道 | エネルギー | → 4年「電流の働き」 |
| B(1) | 身の回りの生物 | 生命 | → 4年「人の体のつくりと運動」「季節と生物」 |
| B(2) | 太陽と地面の様子 | 地球 | → 4年「天気の様子」「月と星」 |
なぜ「比較」が3年の核か
3年理科の全単元に共通する思考の型は「比較」だ。
- 物と重さ:形を変えた粘土と変えない粘土を比べる
- 風とゴムの力:強い風と弱い風で車の動く距離を比べる
- 光と音:鏡1枚と3枚で明るさや暖かさを比べる
- 磁石:引き付けられる物と引き付けられない物を比べる
- 電気の通り道:つなぎ方Aとつなぎ方Bで豆電球が点くかを比べる
- 身の回りの生物:この虫とあの虫の体のつくりを比べる
- 太陽と地面:日なたと日陰の温度を比べる
学習指導要領解説はこう述べる。
「比較する」とは,複数の自然の事物・現象を対応させ比べることである。
比較して、「あれ、違うぞ」「ここは同じだ」と気付く。その気付きが「なぜだろう」という問いになる。問いが生まれれば、調べたくなる。比較は問題解決の起動装置だ。
3年生が初めて理科に出会うとき、最も自然に使える思考の型が「比較」である。二つのものを並べて、違いを見つけること。これなら、8歳の子どもにもできる。そして、ここから科学が始まる。
ものづくりの位置付け
A領域には、ものづくりの指定がある。
内容の「A物質・エネルギー」の指導に当たっては,3種類以上のものづくりを行うものとする。
風やゴムの力で動く車、鏡で光を集める装置、磁石の極を使った船、回路を使ったテスター。学んだ原理を使って自分で何かを作る経験が、理解を確かなものにする。
ものづくりは「お楽しみ」ではない。学んだことを応用する場であり、「わかった」を「できた」に変える仕掛けだ。
年間の見通し
教科書の配列は出版社によって異なるが、概ね以下のような流れになる。
春 : B(1) 身の回りの生物(植物の種まき・昆虫の観察開始)
1学期 : A(1) 物と重さ / A(2) 風とゴムの力の働き
夏〜秋 : B(1) 身の回りの生物(継続観察・昆虫の体のつくり)
2学期前半: A(3) 光と音の性質 / B(2) 太陽と地面の様子
2学期後半: A(4) 磁石の性質
3学期 : A(5) 電気の通り道
通年 : B(1) 身の回りの生物(植物の成長記録)
注目すべきは、B(1) 身の回りの生物が通年で走ることだ。植物は種まきから枯れるまで、昆虫は卵から成虫まで、季節の移り変わりに沿って継続的に観察する。他の単元はブロックで完結するが、B(1) だけは1年を貫く。
生活科からの橋渡し
3年理科の指導で最も大切なのは、生活科からの接続を意識することだ。
生活科では「気付き」が大切にされていた。理科では「問い」が大切にされる。しかし、その間に断絶があってはいけない。
生活科で育った「あれ、面白い」「もっと見てみたい」という気持ちを、理科の問題解決に自然につなげる。最初から「仮説を立てなさい」「実験計画を書きなさい」と型にはめすぎると、理科嫌いを生む。
体験を重視しつつ、少しずつ科学的な思考の型に導いていく。3年理科の教師に求められるのは、この塩梅だ。
農業経験から——「比較」は自然を読む技術
農業をしていた頃、比較は日常だった。
同じ品種の苗でも、日当たりのいい場所と悪い場所で育ち方が違う。去年と今年で同じ時期に蒔いても、天候が違えば芽の出方が違う。隣の畝と自分の畝で、同じことをしているのに結果が違う。
「なぜ違うんだろう」と思った瞬間、ただの作業が観察になる。比較が問いを生み、問いが工夫を生む。農業の現場で無意識にやっていたことは、まさに3年理科が子どもに教えようとしていることだった。
3年生が初めて「比べてみよう」と自分で思えた瞬間、その子の中で理科が始まる。教師の仕事は、その瞬間を逃さないことだ。
指導のポイント(実習用メモ)
- 3年は理科の出発点——生活科からの接続を大切に
- 核心は「比較」——差異点と共通点から問いを立てる
- 2領域・4つの概念の柱で内容を構造化して理解する
- 7つの単元はすべて上位学年の土台
- A領域は3種類以上のものづくりを組み込む
- B(1) 身の回りの生物は通年の継続観察
- 体験を重視しつつ、少しずつ科学的な思考の型へ導く
- 比較→問い→予想→実験→考察の問題解決の流れを身に付けさせる
まとめ——比較が問いを生み、問いが科学を始める
3年理科の全体像は、こう整理できる。
- 生活科の体験から、理科の問題解決へ
- 核心の思考力は「比較」——二つを並べて違いを見つける
- 2領域(物質・エネルギー/生命・地球)× 4つの概念の柱
- 7単元すべてが上位学年の土台になる
- B(1) は通年の継続観察、A領域はものづくりを含む
教科書の1ページ目を開くだけでは、1年は見えない。7つの単元がどう繋がり、どの思考力を繰り返し使い、子どもの中に何が積み上がっていくのか。1年の地図を持ってから教壇に立ちたい。
3年生にとって理科は新しい教科だ。そして、最初に出会う科学的思考が「比較」だ。「こっちとあっちで何が違う?」——この素朴な問いが、6年間の理科を貫く問題解決の出発点になる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(文部科学省, 2017)の第2章・第3章第1節を基に執筆しています。

