「不思議だ」と思う心が、まだ生きている
3年生は、まだ「不思議だ」と素直に言える。セミの抜け殻を拾ってじっと見る。雨の日に水たまりを覗き込む。雲の形を追いかけて空を見上げる。雨上がりの虹に歓声を上げる。落ち葉の色のグラデーションを並べてみる。
この感性は、4年・5年・6年と進むにつれて少しずつ薄れていく。「そんなの普通じゃん」「もう知ってる」と、世界の不思議さに鈍感になっていくのも成長の一面ではある。3年生は、自然への感受性がまだしっかり生きている時期だ。だからこそ今のうちに、自然との関わり方を意識的に育てておきたい。
道徳の「自然愛護」は、子どもの中にまだ残っている「不思議だ」「きれいだ」「すごい」という感性を、意識的に大切にする態度へと結び付ける内容項目だ。感じる心と守る行動をつなぐ時間である。
学習指導要領のねらい
中学年〔第3・4学年〕の文言。
自然のすばらしさや不思議さを感じ取り,自然や動植物を大切にすること。
低・中・高を並べると、関わり方の変化が見える。
- 低学年:身近な自然に親しみ、動植物に優しい心で接すること
- 中学年:自然のすばらしさや不思議さを感じ取り、自然や動植物を大切にすること
- 高学年:自然の偉大さを知り、自然環境を大切にすること
低学年は「親しむ」「優しく接する」と受動的・情緒的な言葉が並ぶ。中学年では「感じ取り」「大切にする」と能動的な動詞に変わる。高学年では「偉大さを知る」と認識的な言葉に深まり、対象も「自然環境」全体へと広がる。
中学年の核は、「すばらしさ・不思議さを感じ取る」感性と、「大切にする」という能動的な選択を一緒に育てることだ。感性だけでも行動だけでも、自然愛護は育たない。
道徳科の評価で見る学びの姿
道徳科では、他教科のように数値で到達度を測る評価は行わない。
数値などによる評価は行わない
授業の中で子どもの考えがどう動いたかを見取る。大切な視点は二つ。
一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか
道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか
この授業では、次の姿を見取りたい。
- 多面的・多角的に考える姿:自然の美しさ、動植物の生命、人間の生活との関わりを結び付けて考えている。
- 自分との関わりで考える姿:身近な自然との関わりを振り返り、自分にできる「大切にする行動」を考えている。
自然を「守るべき対象」として教えるだけでなく、すばらしさや不思議さを感じ取る経験から出発する授業にしたい。
中学年の発達特質——「自分の生命と自然の繋がり」への気付き
学習指導要領解説にはこうある。
自然やその中に生きる動植物を大切にする心を更に深めていくことが求められる。自然を大切にすることで,自分たちの生命も守られることに気付くようになる。また,環境保全についても関心をもち,その必要性について考えることができるようになる。
中学年には大きな認識の転換がある。
低学年では「自然は楽しいから大切」だった。虫がかわいいから守る。花がきれいだから摘まない。自分の感情が動機だった。
中学年では「自然を守ることは、自分を守ることでもある」という循環の理解が始まる。空気・水・食べ物・気候。自分が生きていること自体が、自然に支えられている。だから自然を壊すことは、自分の生きる場所を壊すことになる。
この循環的な思考は3年生にとって難しい部分もあるが、社会科の地域学習や理科の生き物の学習と組み合わせると、徐々に実感として持てるようになる。
「感得」から「実行」への意欲
解説の核心はここにある。
自然に親しみながら自然のもつ美しさやすばらしさを感得できるようにする必要がある。それらを踏まえて,身近なところから少しずつ自分たちなりにできることを,動植物と自然環境との関わりを考え実行しようとする意欲を高めることも大切である。
中学年の自然愛護のキーワードは「自分たちなりにできること」だ。
地球規模の環境問題——気候変動・海洋プラスチック・森林破壊——は、3年生には大きすぎる。テレビのニュースで聞いたことはあっても、自分が何をすればいいかは分からない。スケールが大きすぎると、無力感だけが残ることもある。
だから中学年では、「自分の手の届く範囲で、何ができるか」に絞って考える。
- ペットボトルや空き缶を分別する
- 給食の食べ残しを減らす
- 学校の植物に水をやる
- 公園のゴミを拾う
- 水を出しっぱなしにしない
- 紙を無駄遣いしない
地味だが、これらの身近な実践が未来の環境意識の土台になる。「自分にもできることがある」という小さな自信が、やがて大きな行動につながっていく。
「自然と人間は切り離せない」という視点
解説には見逃せない一文がある。
古来日本人は,自然から受ける様々な恩恵に感謝し,自然との調和を図りながら生活を営んできた。
自然は搾取の対象でも保護される弱者でもない。共に生きる相手だ。この視点を中学年で育てたい。
「人間 vs 自然」ではなく「人間 in 自然」。人間は自然の中で生かされているという感覚は、農業や林業、漁業を営んできた日本の文化的基盤でもある。
都市化が進んだ現代の子どもにとって、この感覚は自動的には育たない。コンビニで物が買え、エアコンで温度が調整され、蛇口をひねれば水が出る。自然との直接の接点がほとんどない生活では、自然は「観察対象」になりがちだ。だからこそ意識的に取り戻す機会として、道徳の時間が役に立つ。
指導の重点
1. 「学校の自然」から始める
中学年の自然愛護で最も有効なのが、「学校の自然」を見直す活動だ。遠くの自然ではなく、今いる場所の自然から始める。
- 校庭の木は、何年生きているだろう
- 飼育小屋の動物は、誰がどう世話しているか
- 学校のメダカは、なぜ元気でいられるのか
- 落ち葉はどこへ行くのか
- 雨の日、水はどこを通って流れていくのか
身近な学校の中にも、気付いていなかった自然の循環がある。これを発見することが、「自分の身の回りで自然を支える」第一歩になる。
毎日通っている学校に、こんなに自然があったのかと子どもは気付く。当たり前を不思議として見直す。3年生が得意とする見方だ。
2. 「不思議さ」を言葉にする
中学年は、感じたことを言語化する力が育ち始める時期だ。「すごい」「きれい」で終わらせず、何がどうすごいのか、どこがどう不思議なのかを言葉にさせたい。
- セミは、なぜ7年も土の中で過ごすのか
- 木は、なぜ何百年も同じ場所で生きていられるのか
- 渡り鳥は、なぜ迷わずに何千キロも飛べるのか
- 種は、なぜ小さいのに大きな木になれるのか
問いを立てることが、自然との関わりを深くする。「不思議さ」を言葉にすることは、自然を尊重する第一歩だ。
3. 「自分にできること」を行動につなげる
「大切にしたい」という気持ちは、行動に移して初めて態度になる。授業の終盤で、必ず「自分にできることを一つ宣言する」時間を作りたい。
- 給食を残さない
- 教室の植物に水をやる
- 帰り道のゴミを1つ拾う
- 水を出しっぱなしにしない
宣言は学級に掲示し、1週間後に振り返る。「やれたか」より「意識できたか」を評価する。意識が行動につながり、行動が習慣になる。この長い道のりの最初の一歩を、3年生で踏み出させたい。
4. 「持続可能性」の入口を作る
解説には持続可能な社会というキーワードが繰り返し登場する。
自然や動植物を愛し,自然環境を大切にしようとする態度は,地球全体の環境の悪化が懸念され,持続可能な社会の実現が求められている中で,特に身に付けなければならないものである。
3年生で「持続可能性」「SDGs」という言葉を直接使う必要はない。けれど、「自分たちの代で全部使い切らない」「次の人にも残しておく」という感覚を、具体的な行動の中で育てておきたい。
「いまの自分が便利だから」だけで判断しない感覚。これが高学年・中学校での持続可能性教育につながる種になる。
関連する内容項目
- 生命の尊さ(D⑲):自然界のすべての生命の尊さ。動植物の生命も人間と同じ。
- 感謝(B⑧):自然からの恩恵への感謝。当たり前を当たり前で済ませない。
- 感動、畏敬の念(D㉑):自然の美しさへの感動。畏れを伴う敬意。
- 伝統と文化の尊重(C⑰):日本の自然と伝統文化の繋がり。風土が文化を作る。
特に「生命の尊さ」と「自然愛護」は、中学年で並行して扱うと効果的だ。人間の生命も自然の生命も同じ「生命」として尊い。この理解が、両方の内容項目の基盤になる。
授業のヒント——「自然との対話日記」
中学年で取り組みやすい活動として、「1週間の自然観察日記」を提案したい。
毎日1つ、自然に関する気付きを書く。
- 今日見つけた虫
- 今日見上げた空
- 今日触った植物
- 今日聞こえた音
- 今日感じた風
書く量は少なくていい。1行でも構わない。毎日書くこと自体が自然への意識を育てる。1週間続けると、子どもは「自分は自然をこんなに見ていなかった」と気付く。意識すれば、自然は身の回りにあふれている。この発見が自然愛護の入口になる。
発問例。
- 「あなたが『自然のすごいな』と思った瞬間は?」
- 「もし、あなたの町の木がぜんぶなくなったら、何が変わる?」
- 「自分が大人になったとき、子どもに残しておきたい自然は?」
3つ目の問いは、未来世代への責任感の入口になる。
他教科・他領域との連動
- 理科:3年生の理科は自然愛護の実体験の場そのもの。昆虫・植物の観察と飼育、季節と生き物の変化。
- 社会科:地域の自然・環境を扱う単元と連動。地域の川・山・公園との関わり。
- 国語:自然を題材にした物語・詩・説明文との連動。
- 生活科(低学年からの接続):生活科で育てた自然観を、中学年でさらに深める。
- 総合的な学習の時間:環境学習・地域の自然調査との連動。
- 特別活動:飼育・栽培委員会、地域の清掃活動。
理科で「生き物としての特徴」を学び、道徳で「それを大切にする心」を育てる。この連動を年間計画の中で意図的に組み立てたい。「理科で学んだことを、道徳で語り直す」。中学年の自然愛護を深める鍵はここにある。
教師として残しておきたいこと
私は農業をしていた時期に、自然と対話するということを学んだ。土の状態、天気の変化、虫の動き、雑草の出方。人間の都合だけでは進められない世界がある。「今日、種を蒔きたい」と思っても、土が乾いていなければ蒔けない。「今日、収穫したい」と思っても、雨が降っていれば作物は傷む。自然のリズムにこちらが合わせるしかない場面が、いくつもあった。
その経験を通して身に染みたのは、「人間は自然をコントロールしているように見えて、実はずっと支えられている」ということだ。蛇口をひねれば水が出るのは、川と森と地下水があるから。スーパーに食べ物があるのは、土と日光と虫と雨があるから。自分が立っている場所そのものが、自然の上にある。
3年生に伝えたいのは、「自然は、いつもあなたを支えている。あなたも、自然を支える側に回れる」ということだ。その関係は一方的な恩恵ではなく、お互いに支え合う関係であることを感じてほしい。
これから教壇に立つ私自身、子どもと一緒に自然を見上げる教師でありたい。教師が空を見上げて「きれいだね」と言える。虫を見つけて「不思議だね」と言える。教師の感性が、子どもの感性を呼び起こす。これは農業の現場でも、Web開発の現場でも、人を育てる場面で何度も実感したことだ。
指導のポイント(実習用メモ)
- 中学年は「不思議さ」を素直に言える最後の時期——感性を尊重する
- 「自然 → 自分の生命 → 自然」の循環の理解を育てる
- 「自分たちなりにできること」にスケールを絞る
- 「学校の自然」から始める——遠くではなく身近に
- 「不思議さ」を言葉にする活動で観察を深める
- 行動宣言で、感性を実行につなげる
- 理科と道徳の連動を年間計画で組む
- 持続可能性の入口として位置付ける
まとめ——感じる心と、守る行動
3年道徳の「自然愛護」は、感じる心と守る行動を結び付ける時間だ。
- 「不思議だ」と素直に言える3年生の感性を大切に
- 自然を守ることは、自分を守ること——循環の理解
- 「自分たちなりにできること」にスケールを絞る
- 学校の自然から始めて、身近な実践へ
- 持続可能性教育の入口として位置付ける
中学年は、子どもが自然の不思議さを感じ取る感性と自分の行動で自然を支える意識の両方が芽生え始める稀有な時期だ。教師の役割は、この両方をていねいに育てること。「すごいね」「きれいだね」だけで終わらせない。「じゃあ、自分たちには何ができるかな」とそっと問いかけて、次の一歩を一緒に考える。
実習でこの単元を扱うなら、自分自身が学校や地域の自然をどれだけ知っているかを点検しておきたい。教師が自然を見ていない学級では、子どもの自然への目は開かない。教師が空を見上げる回数だけ、子どもも空を見上げる。
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この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編(文部科学省, 2017)の第3章第2節、および第5章「道徳科の評価」を基に執筆しています。

