生活科から探究へ——中学年で始まる学び

虫眼鏡を手に地域を探検する児童、ノートにメモを取る児童、地域の人にインタビューする児童が描かれたアニメ風イラスト。「生活科から探究へ」のテキスト入り
目次

3年生で初めて出会う教科

小学校3年生になって、初めて登場する学習の時間がある。総合的な学習の時間だ。

1・2年生には「生活科」があった。身近な環境に関わり、自分と人や社会、自然との関係を考える学び。3年生では、生活科がなくなり、代わりに総合的な学習の時間と、社会科・理科が始まる。

総合的な学習の時間は、他のどの教科とも違う。教科書がない。学習内容が決められていない。各学校が自ら目標と内容を定める。 この自由度の高さが、この時間の最大の特質であり、同時に最大の難しさでもある。


目標——探究的な学びとは

探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

この目標に、総合的な学習の時間の本質が凝縮されている。

探究的な見方・考え方

「探究的な見方・考え方」には、2つの要素がある。

  1. 各教科等の見方・考え方を総合的に活用する——国語で学んだ言葉の力、算数で学んだ数量の見方、理科で学んだ科学的な見方を、教科の枠を超えて使う
  2. 広範な事象を多様な角度から俯瞰して捉える——一つの正解がない課題を、いろいろな角度から考える

実社会の課題は、「これは算数の問題です」とラベルが貼ってあるわけではない。どの教科の見方・考え方を使えばいいかも含めて、自分で判断する力が求められる。

横断的・総合的な学習

学習の対象が、特定の教科に留まらないことを意味する。環境問題、地域の伝統文化、福祉——これらの課題は、一つの教科の中だけでは解決できない。

よりよく課題を解決し、自己の生き方を考える

解決の道筋がすぐには明らかにならない課題に、粘り強く取り組む。そしてその過程で、自分はどう生きていくのかを考える。


3つの資質・能力

総合的な学習の時間で育成する資質・能力は、他教科と同じく3つの柱で示されている。

(1) 知識及び技能

探究的な学習の過程において,課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究的な学習のよさを理解するようにする。

探究を通じて知識を得るだけでなく、概念を形成する。個別の知識がつながり、「なるほど、こういうことか」と理解が深まる。そして、探究的な学習そのものの価値を理解する。

(2) 思考力・判断力・表現力等

実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。

これが探究のプロセスだ。与えられた課題を解くのではなく、自分で問いを見いだし、自分で課題を立てる。ここが他教科との大きな違いだ。

(3) 学びに向かう力・人間性等

探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。

社会に参画しようとする態度——総合的な学習の時間の学びは、教室の中で完結しない。地域社会と関わり、社会に働きかける力を育てる。


生活科からの接続

3年生で総合的な学習の時間に初めて取り組む際、最も大切なのは生活科との接続だ。

総合的な学習の時間に初めて取り組む第3学年の場合は,生活科など低学年における学習経験について把握するとともに,生活科等の学習活動とこれから行う総合的な学習の時間の学習活動の関連性についてもあらかじめ確認しておくことが大切である。

生活科で、子どもたちは何を経験したか。地域探検で何を見つけたか。地域の人とどう関わったか。その経験を土台にして、総合的な学習の時間の探究活動が始まる。

生活科は「気付き」を大切にした。総合的な学習の時間は、その気付きを「問い」に変え、探究へと発展させる。


探究のプロセス——4つの段階

探究的な学習は、次の4つの段階が発展的に繰り返される。

段階内容
① 課題の設定日常生活や社会に目を向け、自ら課題を見付ける
② 情報の収集課題に関する情報を収集する
③ 整理・分析情報を整理・分析し、考えを出し合いながら問題の解決に取り組む
④ まとめ・表現考えや意見をまとめ・表現し、新たな課題を見付ける

④で終わりではない。まとめ・表現することで新たな課題が見付かり、また①に戻る。このスパイラルな繰り返しが、探究的な学習の本質だ。

ただし、この4段階を固定的に捉える必要はないと解説は述べている。活動の順序が入れ替わったり、ある活動が重点的に行われたりすることは当然起こりうる。


各教科等との往還

総合的な学習の時間は、各教科で学んだ力を総合的に活用する場だ。

教科総合での活用例
国語レポートの書き方、案内状や礼状の作成
算数データの活用、情報の整理
社会資料活用の方法を生かした情報収集
理科生物と環境の学習を生かした考察

逆に、総合的な学習の時間での体験が、各教科の学習を動機付ける素材にもなる。教科の学習と総合の学習が往還する——この双方向の関係が、総合的な学習の時間の独自の価値だ。


教師として残しておきたいこと

農業は、まさに探究的な営みだった。土を観察し、天候を読み、作物の育ち具合を見て、次の手を打つ。一つの正解がない中で、試行錯誤しながら最善を探る。

Web開発でも同じだった。ユーザーの課題を見つけ、情報を集め、分析し、プロトタイプをつくって検証する。課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現——探究のプロセスは、あらゆる仕事に共通する構造だ。

総合的な学習の時間が育てる力は、「教科の知識」ではない。問いを立て、情報を集め、考え、まとめ、また問う——この一連の営みを自分でできる力だ。これこそが、どんな仕事にも、どんな人生にも必要な力だと、農業とWeb開発を経験した私は実感している。

もう一つ大切なのは、「自己の生き方を考える」ということだ。地域の人に話を聞き、環境問題を調べ、福祉施設を訪問する。そうした体験の中で、「自分はどう生きていくのか」という問いが生まれる。教科の学習だけでは出会えない問いに出会えるのが、総合的な学習の時間の真骨頂だ。


指導のポイント

  1. 3年生で初めて出会う——生活科との接続を丁寧に行う
  2. 探究のプロセス(課題設定→情報収集→整理分析→まとめ表現)がスパイラルに繰り返される
  3. 各教科の見方・考え方を総合的に活用する——教科の枠を超えた学び
  4. 一つの正解がない課題に粘り強く取り組む力を育てる
  5. 知識を得るだけでなく概念を形成する——個別の知識がつながる
  6. 自己の生き方を考えることが最終的な目標
  7. 教科の学習と総合の学習が往還する関係を意識する

まとめ——探究する力は生きる力

総合的な学習の時間は、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を通して、自己の生き方を考える力を育てる。

  • 3年生で生活科から移行し、初めて「探究」の学びに出会う
  • 課題設定→情報収集→整理分析→まとめ表現の4段階がスパイラルに繰り返される
  • 各教科で学んだ力を総合的に活用する場
  • 一つの正解がない課題に、粘り強く取り組む
  • 探究を通じて、自己の生き方を考える

「なぜだろう?」から始まり、調べ、考え、まとめ、また「なぜだろう?」に戻る。この繰り返しそのものが、探究する力であり、生きる力だ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 総合的な学習の時間編(文部科学省, 2017)の第1章〜第3章を基に執筆しています。

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