「小さくしたら軽くなる」と思っている
粘土を丸めて、てんびんに載せる。釣り合う。次に、その粘土を細かくちぎって載せる。「軽くなった!」と言う子が、必ずいる。
3年生の素朴概念では、形が変わると重さも変わると思っている子が多い。平たくすれば軽くなる。小さくちぎれば軽くなる。大きければ重い。小さければ軽い。見た目が変われば重さも変わるはずだ——これは、日常経験から自然に生まれる直感だ。
この直感を、実験で揺さぶる。「あれ、変わらない?」という驚きが、この単元の出発点になる。
学習指導要領のねらい
物の性質について,形や体積に着目して,重さを比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
知識・技能として理解させるのは2点。
(ア) 物は,形が変わっても重さは変わらないこと。
(イ) 物は,体積が同じでも重さは違うことがあること。
(ア) は形と重さの関係——形を変えても重さは保存される。
(イ) は体積と重さの関係——同じ大きさでも材質が違えば重さが違う。
この2つは対になっている。「変えても変わらないもの」と「同じに見えても違うもの」。比較を通して、物の性質の本質に迫る構成だ。
3観点で見る学びの姿
知識・技能
物は形が変わっても重さは変わらないこと、体積が同じでも重さが違う物があることを理解している。てんびんや自動上皿はかりを正しく使い、重さを比較・測定できる。
思考・判断・表現
物の形や体積と重さとの関係について追究する中で,差異点や共通点を基に,物の性質についての問題を見いだし,表現すること。
形を変えた粘土と変えない粘土を比べて「重さは変わるだろうか」と問いを立てられるか。体積を揃えた異なる材質の物を比べて「なぜ重さが違うのか」と考えられるか。
主体的に学習に取り組む態度
進んでいろいろな物の重さを調べようとしている。予想と結果が違ったとき、なぜ違うのかを考えようとしている。
この単元の位置付け——「粒子の保存性」の入口
学習指導要領解説はこう述べている。
本内容は,「粒子」についての基本的な概念等を柱とした内容のうちの「粒子の保存性」に関わるものであり,第5学年「A(1)物の溶け方」の学習につながるものである。
3年生で「粒子」という言葉は使わない。しかし、「形を変えても重さが変わらない」という事実の背後にあるのは、物は目に見えない小さな粒でできていて、形を変えても粒の数は変わらないという概念だ。
5年の「物の溶け方」では、砂糖を水に溶かしても全体の重さは変わらないことを学ぶ。見えなくなっても、粒は消えていない。3年の「物と重さ」は、この理解への最初の一歩である。
子どもの素朴概念と向き合う
3年生がこの単元に入るとき、多くの子が持っている素朴概念がある。
- 平たくすると軽くなる(広がると薄くなるから)
- 細かくちぎると軽くなる(小さくなるから)
- 大きい物は重い(見た目で判断)
- 小さい物は軽い
これらは「間違い」ではない。日常生活の経験から、合理的に導かれた推論だ。教師がすべきは、この素朴概念を否定することではなく、実験で検証する機会を与えることだ。
「本当にそうかな? 調べてみよう」。この一言で、子どもは実験に向かう。そして、てんびんが釣り合ったとき、「あれ?」という驚きが生まれる。素朴概念が揺さぶられる瞬間こそが、この単元の最も大切な場面だ。
指導の重点
1. 体感→計測の順序で
解説はこう述べている。
手ごたえなどの体感を基に,てんびんを用いたり,自動上皿はかりを用いて重さを数値化したりして,重さを比較しながら調べる。
まず手で持って体感する。「うーん、どっちが重いかな」「同じかな」。次にてんびんで比べる。さらに自動上皿はかりで数値化する。
体感→比較→数値化——この順序が大切だ。最初から数値を出すと、「はかりが示した数字」で終わる。体感から入ると、「自分の手の感覚」と「はかりの数値」を照らし合わせる体験になる。
2. 「形を変える」の多様さ
(ア) の実験では、粘土やアルミニウム箔を使う。形の変え方を多様にすると、理解が深まる。
- 丸い粘土を平たくする
- 細かくちぎる
- 棒状に伸ばす
- 複数に分ける
どんなに形を変えても重さが変わらない。1回の実験で「変わらないんだ」と分かる子もいるが、何度も形を変えて繰り返し確認する中で「本当に変わらないんだ」と確信に変わる。
3. 体積を揃えて比べる
(イ) では、同じ体積の異なる材質の物を比べる。砂糖と食塩、木と金属など。
ここで3年生が驚くのは、「同じ大きさなのに重さが違う」という事実だ。(ア) で「形が変わっても重さは変わらない」と学んだ直後に、「同じ形・同じ大きさでも重さは違う」と知る。
この対比が、「物にはそれぞれ固有の性質がある」という理解の始まりになる。
4. 算数科との連動
解説は算数との関連を明示している。
これらの機器の使用や重さの単位については,算数科の学習との関連を図るようにする。
3年算数では「g」「kg」の単位を学ぶ。はかりの読み方も算数で扱う。理科と算数で同時期に扱えると、技能の定着が早い。年間計画を立てる際に、意識的に連動させたい。
他教科・他領域との連動
- 算数:重さの単位(g・kg)、はかりの読み方。最も直接的な連動。
- 生活科(低学年からの接続):砂遊び・粘土遊びでの「重い」「軽い」の体感。
- 家庭科(高学年への接続):調理での計量。5年で「物の溶け方」にも繋がる。
教師として残しておきたいこと
農業をしていた頃、重さの感覚は体に染み付いていた。
米袋30kgを持ち上げたとき、「これは米じゃなくて土だ」と一瞬で分かる。同じ袋でも中身が違えば、重さの感じ方が違う。もみ殻は体積の割に軽い。同じ体積でも、中身が違えば重さが違う——3年理科の(イ)そのものだ。
Web開発でも、保存の概念は重要だった。データの形式を変換しても、情報量は変わらない。JSONをCSVに変えても、データの中身は同じ。見た目が変わっても本質は保存される——これはプログラミングでも、物理でも、同じ原理が働いている。
3年生に教えたいのは、「見た目に惑わされない目」だ。形が変わっても、重さは変わらない。この発見は、科学の世界への最初の扉を開く鍵になる。
指導のポイント(実習用メモ)
- 子どもの素朴概念(形が変われば重さも変わる)を把握して授業に臨む
- 体感→てんびん→はかりの順序で、計測の意味を実感させる
- 形の変え方を多様にして、保存性の確信を深める
- (ア) と (イ) の対比で「物にはそれぞれ固有の性質がある」ことに気付かせる
- 算数科との連動で、単位と計測技能を同時に育てる
- 「粒子の保存性」の入口であることを意識する
まとめ——見た目に惑わされない目を育てる
3年理科「物と重さ」は、科学の目を開く最初の単元だ。
- 形が変わっても重さは保存される——素朴概念を実験で揺さぶる
- 同じ体積でも重さは違う——物にはそれぞれ固有の性質がある
- 体感→比較→数値化の順序で、計測の意味を実感する
- 「粒子の保存性」という概念の最初の一歩
「あれ、変わらない?」——この驚きが生まれた瞬間、3年生の中で科学が動き始める。教師の仕事は、この驚きを生む実験を丁寧に組み立てることだ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(文部科学省, 2017)の第3章第1節を基に執筆しています。

