2つの活動
音楽づくりは、歌唱や器楽とは異なる独自の活動だ。既存の曲を歌ったり演奏したりするのではなく、自分たちで音楽をつくる。
中学年の音楽づくりには、2つの活動がある。
| 活動 | 内容 |
|---|---|
| 即興的に表現する | その場で音を選択したり組み合わせたりして表現する |
| 音を音楽へと構成する | 音楽の仕組みを用いて、まとまりのある音楽をつくる |
この2つは別々の活動ではない。即興的に表現する中で発想を得て、その発想を生かして音を音楽へと構成していく。(ア)から(イ)へのつながりが大切だ。
即興的に表現する——発想を得る
即興的に表現するとは,あらかじめ楽譜などに示されているとおりに表現するのではなく,友達と関わりながら,その場でいろいろな音を選択したり組み合わせたりして表現することである。
楽譜通りに演奏するのではない。その場で音を選び、組み合わせる。
即興的な表現の例
- 児童が各自で見付けた音を使って、みんなで模倣したり、友達と交互に表現したりする
- 木、金属、皮など異なる材質の物を組み合わせて、それぞれの音の響きを生かして表現する
- 線や図形、絵などを楽譜に見立てて、声や楽器の音で表す
「線や図形を楽譜に見立てる」——この活動が面白い。五線譜を読めなくても、自分なりの記号で音楽を表現できる。図形楽譜は、音楽づくりの入口を広げる。
設定した条件
即興的に表現するには、「条件」が必要だ。
設定した条件とは,様々な音を即興的に選択したり組み合わせたりする際の約束事である。例えば,「ソラシの三つの音を使い,一人一人が4拍で即興的に表現し,順番に旋律をつなぐ」といったことである。
何でも自由にやっていいわけではない。適切な条件(約束事)を設定することで、児童は音楽づくりの発想を得やすくなる。条件がなければ、何をしたらいいかわからず途方に暮れる。条件が厳しすぎれば、創造の余地がなくなる。
教師が設定する条件の適切さが、音楽づくりの活動の成否を左右する。
音を音楽へと構成する——まとまりを意識する
音を音楽へと構成するとは,反復,呼びかけとこたえ,変化,音楽の縦と横との関係などの「音楽の仕組み」を用いながら,音やフレーズを関連付けてまとまりのある音楽にしていくことである。
即興的に「面白い」と感じた音の組み合わせを、音楽の仕組みを使って構成していく。
音楽の仕組み
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| 反復 | 同じ音やフレーズを繰り返す |
| 呼びかけとこたえ | 一方が音を出し、他方が応答する |
| 変化 | リズムや旋律を少しずつ変える |
| 音楽の縦と横との関係 | 同時に鳴る音の組み合わせ(縦)と、時間の流れの中での音のつながり(横) |
たとえば、「友達との会話がはずんでいくような音楽にしたいので、リズムを徐々に変化させて表現したい」——こうした思いや意図をもってまとまりのある音楽をつくることが目標だ。
知識——よさや面白さと関わらせた気付き
音楽づくりの知識は、単なる情報ではない。
音楽づくりの活動では,「この音の響きや組合せにはこのようなよさがある」,「このつなげ方や重ね方はこのようなところが面白い」といった,実感を伴った気付きを求めている。
音の響きやその組合せの特徴
「ウッドブロックとトライアングルを組み合わせると、音の高さや長さが違って面白い」——木の乾いた音と金属の澄んだ音。異なる材質の音を組み合わせたとき、何が生まれるかを実感的に気付く。
音やフレーズのつなげ方や重ね方の特徴
「短い旋律を、呼びかけ合うようにつないでいくと面白さが生まれる」——つなげ方一つで、音楽の印象が変わる。反復、呼びかけとこたえ、変化——音楽の仕組みを意識してつなげることで、まとまりのある音楽が生まれる。
低学年からの変化
低学年では「音遊び」だった。声や身の回りの音で遊ぶ段階。
中学年では、低学年での音遊びの経験を基に、次のステップへ進む。
- 各楽器の音の響きのよさや面白さに気付くようになる
- 自分が表したい音の響きやそれらの組合せを試そうとする
- 音楽の仕組みを用いて、まとまりのある音楽をつくる
「遊び」から「つくる」へ。偶然の面白さから、意図的な構成へ。この変化が中学年の音楽づくりの特徴だ。
教師の役割——面白さを価値付ける
児童の表現の変容を捉えて,例えば,異なる音の響きで会話をすることで,音の響きの組合せが面白くなり,よい雰囲気になったことを教師が具体的に伝えるなど,児童の表現のよさや面白さを価値付け,全体で共有するなどしながら,友達の表現を自分の表現に生かすように導くこと
音楽づくりの活動では、正解がない。だからこそ、教師が「今の組み合わせは面白かったね」「呼びかけとこたえのリズムが徐々に細かくなって、会話がはずんでいく感じがしたよ」と具体的に価値付けることが重要だ。
教師の言葉が、児童の「面白い」を「面白い、なぜなら——」に変える。
他教科・他領域との連動
- 図画工作:形や色の組み合わせの工夫と、音の組み合わせの工夫は同じ構造
- 算数:パターンの認識(反復・変化)、拍の数え方
- 国語:言葉のリズム——俳句や短歌のリズムと音楽のリズム
- 道徳科:「個性の伸長」——自分らしい表現を大切にする
- 体育(表現運動):即興的に表現する活動との共通点
教師として残しておきたいこと
農業には即興的な判断が常にあった。天候が急変したとき、害虫が発生したとき、予定通りにいかないとき——その場で判断し、手を動かす。これは音楽づくりの「即興的に表現する」ことと構造が似ている。
Web開発でのプロトタイピングも同じだ。まず試作品をつくり、動かしてみて、修正する。最初から完璧なものをつくろうとしない。試行錯誤しながらつくっていくプロセスこそが、よいものを生み出す。音楽づくりの「音を試しながら構成していく」過程は、プロトタイピングそのものだ。
音楽づくりが面白いのは、「正解がないこと」そのものだ。歌唱には楽譜がある。器楽にも楽譜がある。しかし音楽づくりには、白紙の状態から始まる自由がある。その自由の中で、条件を設定し、音の仕組みを使い、まとまりのある音楽をつくっていく。
「何もないところから何かをつくる」——この体験は、子どもにとって大きな自信になる。
指導のポイント
- 即興的な表現と音を音楽へと構成する活動の2つのつながりを意識する
- 即興には適切な条件(約束事)が不可欠——教師が設定する条件の質が鍵
- 音楽の仕組み(反復・呼びかけとこたえ・変化・音楽の縦と横)を使って構成する
- 知識は実感を伴った気付き——「面白い」を「面白い、なぜなら」に変える
- 試行錯誤のプロセスを大切にする——最初から完成を求めない
- 児童の表現のよさや面白さを具体的に価値付け、全体で共有する
- 図形楽譜など五線譜以外の記譜法も活用して入口を広げる
まとめ——音から音楽へ
音楽づくりは、即興的に表現して発想を得て、音楽の仕組みを使ってまとまりのある音楽をつくる活動だ。
- 即興的に音を選択・組み合わせして発想を得る
- 反復・呼びかけとこたえ・変化などの音楽の仕組みで音を構成する
- いろいろな音の響きや、つなげ方・重ね方の特徴に実感的に気付く
- 条件を設定することで、即興の面白さが生まれる
- 試行錯誤しながらつくるプロセスが学びの核心
バラバラだった音が、つなげ方一つでまとまりのある音楽になる。その瞬間の「できた!」が、音楽をつくることの原体験だ。
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この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 音楽編(文部科学省, 2017)の第3章第2節を基に執筆しています。

