「聴く」とは何をすることか
音楽を「聴く」——日常生活で誰もがしていることだ。しかし、音楽科の鑑賞で求められる「聴く」は、BGMとして流すこととは違う。
曲や演奏のよさなどを見いだし,曲全体を味わって聴くこと。
2つのことが求められている。
- よさなどを見いだす——音楽的な理由を伴って、曲や演奏のよさについて考えをもつ
- 曲全体を味わって聴く——部分的なよさだけでなく、曲全体を聴き深める
「この曲は面白い」で終わらない。なぜ面白いのかを考え、曲全体の中でどこが特に面白いのかを見いだし、全体を通して味わう。
低学年からの変化
低学年では「楽しさを感じ取る」ことが中心だった。中学年では、さらに踏み込む。
いろいろな種類の音楽に親しむようにし,児童の発達の段階に応じて適切な教材を選択する
中学年の児童は、音楽の特徴を捉え、旋律やリズムの反復及びその変化に興味をもって聴こうとする傾向がある。この発達段階を踏まえた鑑賞の学びが求められる。
曲想及びその変化と音楽の構造
曲想及びその変化と,音楽の構造との関わりについて気付くこと。
鑑賞の知識として、中学年で育てたい気付きはこれだ。
曲想とは、音楽に固有の雰囲気や表情、味わい。曲想及びその変化とは、曲全体の雰囲気や表情とその移りゆく変化を指す。
解説が示す具体例が分かりやすい。
堂々と行進する感じから,軽やかに踊っている感じに変わったのは,低い音の弦楽器の旋律と,高い音のフルートの旋律が交替で出てきたり,重なったりしているから
「堂々とした感じ」が「軽やかな感じ」に変わった——これは曲想の変化を感じ取ること。「弦楽器とフルートの旋律が交替で出てくるから」——これは音楽の構造を聴き取ること。この2つを関わらせて考えることが、中学年の鑑賞の核心だ。
曲全体を見通す
児童の意識が曲や演奏の部分的なよさなどを見いだすことに留まることなく,音楽の流れを感じながら聴くことができるように留意する。
部分的なよさだけでなく、曲全体を見通しながら聴く力を育てる。
たとえば、「この曲の一番面白いところは、真ん中で、たくさんの楽器が大きな音で激しい感じの旋律を演奏し、それが急に止まって最初に戻るところ」——曲全体の中で、どこが最も印象的で、なぜそう感じるのかを言える力だ。
これは「木を見て森も見る」ということだ。一つ一つの音楽的な出来事を聴き取りながら、全体の構成の中でそれがどのような役割を果たしているかを感じ取る。
鑑賞の手立て
解説は、効果的な手立てをいくつか示している。
- 手で拍を取りながら聴く——音楽の流れを体で感じる
- 感じ取ったことや気付いたことを伝え合う——言葉にすることで気付きが深まる
- 音楽の構造を可視化する——図や色で曲の構成を表す
- 特徴的な部分を取り上げて確かめる——全体の中から部分を取り出して注意深く聴く
特に「音楽の構造を可視化する」は重要な手立てだ。音楽は時間の中で流れていくので、構造が見えにくい。三部形式の曲ならA-B-Aの構造を色分けして示すなど、目で見える形にすることで、音楽の構造への気付きが促される。
鑑賞教材——いろいろな種類の音楽
中学年の鑑賞教材は、3つの観点から選択する。
ア いろいろな種類の曲
和楽器の音楽を含めた我が国の音楽,郷土の音楽,諸外国に伝わる民謡など生活との関わりを捉えやすい音楽,劇の音楽,人々に長く親しまれている音楽など
具体的には:
- 箏や和太鼓の音楽など和楽器の音楽
- わらべうたや民謡、祭り囃子など郷土の音楽
- 諸外国で親しまれている民謡
- オペラやミュージカルの一場面などの劇の音楽
- 人々に長く親しまれている音楽
「生活との関わりを捉えやすい音楽」が選択の重要な基準だ。クラシックの名曲だけではない。児童の生活に近い音楽、地域に根ざした音楽を取り上げることで、音楽と生活のつながりを実感させる。
イ 音楽を形づくっている要素の働きを感じ取りやすい曲
三部形式の曲など、反復と変化の働きが生み出すよさや美しさを感じ取りやすい曲。
ウ いろいろな演奏形態による曲
- 管楽器、弦楽器、打楽器などによる独奏曲や重奏曲
- いろいろな声域や歌い方による独唱曲や重唱曲
楽器や人の声の特徴を捉え、演奏への興味を深められる曲を選ぶ。
聴き方の起点
児童が学習の初期に抱いた,例えば,「この曲は面白い」などの曲の印象を起点として,アの事項とイの事項との関連を図った学習を通して,聴き深めていくようにすることが大切である。
最初の印象を大切にする。「面白い」「かっこいい」「怖い感じがする」——児童の素朴な感想から出発し、なぜそう感じたのかを音楽の構造と結び付けながら掘り下げていく。
初めの「面白い」と、学習後の「面白い」は、同じ言葉でも中身が違う。音楽的な根拠を伴った「面白い」へと変わっていく。
他教科・他領域との連動
- 音楽(表現):表現活動で学んだ音楽の仕組みが、鑑賞の聴き方を深める
- 社会:地域の文化や歴史と郷土の音楽の関わり
- 国語:感じたことを言葉で表現する力
- 道徳科:「伝統と文化の尊重」——和楽器の音楽や郷土の音楽への親しみ
- 総合的な学習の時間:地域の祭りや伝統芸能の調査
教師として残しておきたいこと
農業をしていたとき、自然の音に囲まれて暮らしていた。鳥の声、虫の音、風の音、雨の音。季節ごとに音風景が変わる。その変化に気付くとき、音を「聴く」力が働いていたのだと、今になって思う。
Web開発では、ユーザーテストで「使いやすい」「使いにくい」という感想を聴くことが多かった。大切なのは、「なぜ使いやすいのか」を構造的に分析すること。「ボタンの配置がこうだから、こう感じる」——感覚的な印象を構造と結び付けて理解する。鑑賞で育てたい力も、まさにこれだ。
鑑賞の授業で大切にしたいのは、児童の「好き」を否定しないことだ。どんな感想も、音楽との出会いの入口になる。「怖い感じがする」という感想も、「なぜ怖い感じがするのだろう?」と掘り下げれば、音楽の構造への気付きにつながる。
指導のポイント
- 鑑賞は「よさを見いだし、曲全体を味わって聴く」——BGMとは違う能動的な聴き方
- 曲想及びその変化と音楽の構造との関わりに気付かせる
- 部分的なよさだけでなく、曲全体を見通しながら聴く力を育てる
- 音楽の構造を可視化する(色分け、図示)——見えない音楽を見える形にする
- 児童の最初の印象を起点に、音楽的な根拠を伴った聴き方へ深める
- 和楽器の音楽、郷土の音楽、諸外国の民謡など多様な音楽に親しませる
- 感じ取ったことを伝え合う活動を効果的に取り入れる
まとめ——聴くことは考えること
鑑賞は、曲や演奏のよさを見いだし、曲全体を味わって聴く活動だ。
- 曲想及びその変化を音楽の構造と結び付けて捉える
- 部分のよさを見いだしながら、曲全体を見通して聴く
- 和楽器の音楽や郷土の音楽を含む多様な音楽に親しむ
- 「面白い」から「面白い、なぜなら」へ——音楽的な根拠のある聴き方を育てる
- 感じ取ったことを言葉にし、伝え合うことで気付きが深まる
「この曲のここが好き」と言えること。そして、なぜ好きかを自分の言葉で説明できること。その力は、音楽の授業を超えて、自分の感覚を大切にしながら世界と関わる力になる。
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