「歌うことが好き」を大事にしながら
中学年の歌唱活動の出発点は、ここにある。
児童が「歌うことが好き」と思えるようにすることを大事にしながら,意欲をもって主体的に取り組むことができる歌唱の活動を進めることが重要となる。
技術を身に付けることも大切だが、その前に歌うことが好きという気持ちがなければ、学びは始まらない。低学年で培った「歌う楽しさ」を基盤にしながら、中学年では曲の特徴を捉えた表現を工夫する段階に入る。
3つのねらい
中学年の歌唱活動では、3つの資質・能力を育てる。
ア 思考力——曲の特徴を捉えた表現の工夫
歌唱表現についての知識や技能を得たり生かしたりしながら,曲の特徴を捉えた表現を工夫し,どのように歌うかについて思いや意図をもつこと。
低学年の「思い」から中学年の「思いや意図」へ。
具体的に言えば、「2羽の鳥が呼びかけ合いながら遠ざかっていく感じが伝わるように、強く、やや弱く、やや強く、弱く歌おう」——こうした思いや意図をもつことが、中学年の歌唱で目指す姿だ。
歌唱表現を工夫する手掛かりを曲の特徴に求める。スタッカートやスラーなどの表現方法、強弱や速度の違いを実際に試しながら、表現を磨いていく。
イ 知識——曲想と音楽の構造や歌詞の内容との関わり
曲想と音楽の構造や歌詞の内容との関わりについて気付くこと。
曲想とは、音楽に固有の雰囲気や表情、味わいのこと。
たとえば、「のびやかで明るい感じになっているのは、同じリズムが繰り返されたり、となり合った音が続いている旋律の中で、時々上下に音が跳んでいて動きがあったりするから。また、歌詞に紅葉で色づいた木や山の様子が描かれているから」——こうした気付きを促す。
曲の雰囲気は、音楽の構造(リズムや旋律の特徴)と歌詞の内容の両方から生まれる。この関わりに、児童自身が気付くことが大切だ。
ウ 技能——3つの技能
中学年で身に付ける歌唱の技能は3つある。
技能① ハ長調の楽譜を見て歌う
範唱を聴いたり,ハ長調の楽譜を見たりして歌う技能
中学年で新しく加わるのが、ハ長調の楽譜を見て歌う技能だ。
低学年では、範唱を聴いて歌う(聴唱)が中心だった。中学年では、聴唱に加えて視唱——楽譜を見て歌うことに慣れ親しむ段階に入る。
具体的には:
- ハ長調の楽譜を見て階名唱をする
- 手や体で音の高低を表しながら歌う
- 音楽を形づくっている要素や音符・休符・記号の指導と合わせて、音楽の流れを感じながら読譜する
ただし、この段階での視唱は「慣れ親しむ」ことが目標だ。正確に読譜できなければならないという段階ではない。楽譜と音の関連を意識しながら、少しずつ読譜の力を育てていく。
技能② 自然で無理のない歌い方
呼吸及び発音の仕方に気を付けて,自然で無理のない歌い方で歌う技能
自然で無理のない歌い方——力んで声帯を締め付けることなく、曲想に合った自然な歌い方で歌うことだ。
中学年の児童は、歌詞の内容にふさわしい表現への意欲が高まるとともに、高学年の響きのある歌い方へのあこがれも強くなる時期だ。
指導のポイントは:
- 母音、子音、濁音、鼻濁音など日本語のよさを生かした発音
- 呼吸を意識した歌い方
- 児童が歌い方を試す過程で自分の声の特徴に気付くこと
「正しい歌い方」を一方的に教えるのではなく、児童が自分の声を探る過程を大切にする。
技能③ 副次的な旋律——声を合わせて歌う
互いの歌声や副次的な旋律,伴奏を聴いて,声を合わせて歌う技能
中学年の歌唱で大きく変わるのが、副次的な旋律の登場だ。
副次的な旋律とは、主旋律に加えて演奏される別の旋律のこと。音の高さやリズムが異なる旋律だ。
低学年では斉唱と輪唱だった。中学年では:
- 曲の一部分が二部合唱になっている曲
- 曲全体が簡単な二部合唱になっている曲
こうした曲を取り上げ、互いの歌声が一つになったり、重なり合ってきれいに響き合ったりすることに気付かせる。
自分の歌声だけでなく、友達の歌声や伴奏を聴きながら歌う——この「聴きながら歌う」ことが、声を合わせる力の核心だ。
共通教材を歌う
3年生の共通教材4曲は全て扱う。
| 曲名 | 特徴 |
|---|---|
| うさぎ | 日本古謡。日本の音楽の響きに親しむ |
| 茶つみ | 手遊びとともに歌える。リズムの楽しさ |
| 春の小川 | 情景描写の歌詞。自然で穏やかな旋律 |
| ふじ山 | 雄大な情景。声を伸ばして歌う楽しさ |
共通教材は、日本の音楽文化を継承する役割を担っている。歌詞の内容と旋律の特徴を関わらせながら歌うことで、曲想と音楽の構造との気付きが生まれる。
教師の役割——価値付けと共有
解説が繰り返し強調している教師の役割がある。
児童の表現の変容を捉えて,例えば,呼びかけ合いながら遠ざかっていく様子を,強弱の表現を工夫して見事に表していることを教師が具体的に伝えるなど,児童が思いや意図をもって歌唱の活動に取り組むことによって,歌唱表現が高まったことを価値付け,全体で共有していくこと
児童の表現が変わった瞬間を捉えて、具体的に言語化して伝える。「今の強弱の変化で、遠ざかっていく感じがよく伝わったね」——この教師の一言が、児童の「思いや意図」をさらに深める。
他教科・他領域との連動
- 国語:歌詞の音読、言葉のリズムやイントネーションの理解
- 体育(表現運動):リズムに乗って体を動かす活動との連動
- 道徳科:「伝統と文化の尊重」——共通教材を通じて日本の音楽文化に触れる
- 外国語活動:英語の歌を通じた音のリズムや抑揚への気付き
教師として残しておきたいこと
農業をしていたとき、作業中に鼻歌を歌うことが多かった。黙々と手を動かすとき、歌は気分を整えてくれた。収穫の喜びを歌にのせることもあった。歌は、人の気持ちと自然につながっている。
Web開発のチームでは、コードレビューの場面で「なぜこう書いたのか」を説明する力が求められた。意図を言語化すること——これは音楽科の「思いや意図をもつ」ことと同じ構造だ。「なんとなくこう歌いたい」ではなく、「この旋律が繰り返されるから、だんだん盛り上げたい」と言えること。感覚を言葉にする力は、あらゆる場面で生きる。
歌唱の授業で私が大切にしたいのは、「歌うことが好き」を壊さないことだ。技術を教えることは大事だが、技術の前に歌う喜びがある。声を合わせたとき、きれいに響き合ったとき——あの「ぞくっ」とする瞬間を、全ての子どもに届けたい。
指導のポイント
- 「歌うことが好き」を大事にしながら、曲の特徴を捉えた表現を工夫させる
- 「思いや意図」は音楽的な根拠をもった表現——「なぜそう歌いたいか」を考える
- ハ長調の楽譜を見て歌う技能は「慣れ親しむ」段階——手や体で音の高低を表しながら
- 自然で無理のない歌い方——児童が歌い方を試す過程で自分の声に気付かせる
- 副次的な旋律と二部合唱が新登場——互いの歌声を聴きながら歌う力を育てる
- 共通教材4曲は全て扱う——歌詞の内容と旋律の特徴を関わらせる
- 児童の表現の変容を具体的に価値付け、全体で共有する
まとめ——歌声が重なる喜び
歌唱は、曲の特徴を捉えた表現を工夫し、思いや意図をもって歌う活動だ。
- 曲想と音楽の構造、歌詞の内容との関わりに気付く
- ハ長調の楽譜を見て歌う技能が加わる
- 副次的な旋律と二部合唱で、声を合わせる喜びが広がる
- 自然で無理のない歌い方で、自分の声の特徴を生かす
- 共通教材4曲で日本の音楽文化に親しむ
友達と声を合わせたとき、旋律が重なり合ってきれいに響く。あの瞬間の喜びを知った子どもは、歌うことがもっと好きになる。
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この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 音楽編(文部科学省, 2017)の第3章第2節を基に執筆しています。

