「キャリア教育」は職業調べではない
「キャリア教育」と聞くと、「将来なりたい職業を調べる」活動を思い浮かべるかもしれない。しかし、学習指導要領が求めるキャリア教育は、そこに留まらない。
キャリア教育は,教育活動全体の中で基礎的・汎用的能力を育むものであることから,夢をもつことや職業調べなどの固定的な活動だけにならないようにすることが大切である。
固定的な活動だけにならないように——この一文が、小学校のキャリア教育の方向性を示している。職業調べも一つの活動だが、キャリア形成の本質はもっと広い。
学級活動(3)の位置づけ
学級活動(3)「一人一人のキャリア形成と自己実現」は、今回の改訂で新しく設けられた柱だ。
今回の改訂においては,特別活動を要として,学校の教育活動全体を通してキャリア教育を適切に行うことが示された。
特別活動がキャリア教育の「要」——学校教育全体で行うキャリア教育の中で、特に学級活動(3)がその中核を担う。
キャリア教育の要としての役割を担うこととは,キャリア教育が学校教育全体を通して行うものであるという前提のもと,これからの学びや自己の生き方を見通し,これまでの活動を振り返るなど,教育活動全体の取組を自己の将来や社会づくりにつなげていくための役割を果たすということである。
各教科で学んだこと、行事で経験したこと、友達との関わりで感じたこと——それらを自分の将来や生き方とつなげて考える場が、学級活動(3)だ。
(3)ア 現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度の形成
学級や学校での生活づくりに主体的に関わり,自己を生かそうとするとともに,希望や目標をもち,その実現に向けて日常の生活をよりよくしようとすること。
自分を知り、目標を立て、行動する
この内容の核心は3つだ。
- 自己理解——自分の興味・関心、よさ、個性に気付く
- 目標設定——実現可能で具体的な目標を立てる
- 実践——目標に向かって日常の生活をよりよくする
具体的な活動例
- 学年の始めに「1年間の目標を立てよう」
- 学期の節目に「ここまでの自分を振り返り、次の目標を決めよう」
- 学級目標の実現に向けて「自分にできることは何か」を意思決定する
- 不安や悩みの解決に向けた個人の目標を設定する
小学校段階の「希望や目標」
夢や希望は,明日を生きていく原動力となるものである。児童が現在や将来に夢や希望を抱き,その実現を目指して物事に取り組むことは,「今の自分」に価値や意味を見いだすことにつながる。
小学校段階では、遠い将来の職業選択ではなく、「今の自分」と向き合い、身近な目標に向かって努力することが中心になる。「勉強が苦手だけど、毎日10分は自主学習をしよう」「友達と揉めやすいけど、まず相手の話を聞いてみよう」——こうした今の生活の中での目標が、キャリア形成の第一歩だ。
(3)イ 社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解
清掃などの当番活動や係活動等の自己の役割を自覚して協働することの意義を理解し,社会の一員として役割を果たすために必要となることについて主体的に考えて行動すること。
「働く」は教室から始まる
小学校でのキャリア教育は、教室の中の「働く」体験から始まる。
学級全員で分担する清掃や給食,交替しながら行う日直,飼育,栽培等の当番活動や学級活動(1)での係活動,学校内外でのボランティア活動など,学級,学校や地域のために一生懸命働く活動を取り上げる。
清掃、給食当番、日直、係活動——これらの日常的な「仕事」を通して、働くことの意義を実感する。
社会参画の芽
児童にとって学級は最も身近な社会であり,学級での集団活動に主体的に参画することは,地域や社会への参画,社会貢献につながる。
学級は「社会の練習場」だ。自分の役割を果たし、みんなのために働く。この小さな経験が、将来の社会参画意識の芽になる。
学級活動(1)イとの関連
係活動は(1)イで扱うが、(3)イでは「働くことの意義」という視点で捉え直す。
- (1)イ:主体的に組織をつくり、役割を自覚して実践する(活動そのもの)
- (3)イ:働くことの意義を理解し、社会の一員としての自覚を深める(意義の理解)
同じ活動でも、どの視点で指導するかで学びが変わる。
(3)ウ 主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用
学ぶことの意義や現在及び将来の学習と自己実現とのつながりを考えたり,自主的に学習する場としての学校図書館等を活用したりしながら,学習の見通しを立て,振り返ること。
「なぜ勉強するのか」に答える
「なぜ勉強しなきゃいけないの?」——子どもが一度は口にする問いだ。
(3)ウが扱うのは、まさにこの問いへの答えだ。学ぶことの意義を実感し、学び方を学ぶことで、生涯にわたって主体的に学び続ける態度を育てる。
具体的な活動例
- 各教科を学習する意義について考える
- 自分に合った学習方法を見つける
- 学校図書館の仕組みと利用の仕方を知る
- 学習の見通しを立て、振り返りを行う
学校図書館の位置づけ
自主的に学習する場としての学校図書館の効果的な活用や,日常の読書指導との関連などにも関わるものである。
学校図書館は「本を読む場所」だけではない。自主的に学習を深める場として位置づけられている。司書教諭や学校図書館司書の協力を得て、具体的な活用方法を学ぶ活動が有効だ。
キャリア・パスポート
学習指導要領解説は、学びの記録の重要性を指摘している。
活動の過程を記述し振り返ることができる教材等の作成とその活用を通して,児童自身が自己の成長や変容を把握し,主体的な学びの実現や今後の生活の改善に生かしたり,将来の生き方を考えたりする活動が求められる。
この「教材等」の具体化がキャリア・パスポートだ。各学年での目標、振り返り、成長の記録を蓄積し、自分の歩みを可視化する。小学校から高校まで引き継がれるもので、キャリア形成の軸となる。
(3)の3内容の関連
(3)のア・イ・ウは、互いに深く関連している。
(3)ア 希望と目標 ← 自分を知り、何を目指すかを決める
↕
(3)イ 社会参画 ← 役割を果たし、働くことの意義を知る
↕
(3)ウ 学び方 ← 学ぶことの意義を理解し、学び方を身に付ける
自分を知り(ア)、社会の中で役割を果たし(イ)、学び方を学ぶ(ウ)。この3つが揃うことで、キャリア形成が動き出す。
小・中・高のつながり
この内容が,キャリア教育の視点からの小・中・高等学校のつながりが明確になるよう整理することによって設けられたということである。
学級活動(3)は、小・中・高を貫く系統性を持って設計されている。
| 段階 | 重点 |
|---|---|
| 小学校 | 身近な目標と役割、学び方の基礎 |
| 中学校 | 将来の生き方の探究、職場体験 |
| 高等学校 | 進路選択、社会的・職業的自立 |
小学校段階では、日常の生活や学級での役割の中でキャリア形成の土台をつくる。「将来何になりたいか」よりも、「今の自分に何ができるか」「みんなのために何をするか」「どう学ぶか」——この問いを繰り返し考えることが、小学校のキャリア教育の核心だ。
他教科・他領域との連動
- 道徳科:「希望と勇気・努力と強い意志」「勤労・公共の精神」「個性の伸長」
- 総合的な学習の時間:探究的な学びとキャリア教育の接続
- 国語:自分の考えを表現する力。目標カードや振り返りの記述
- 社会:働く人々の学習(3年以降)との関連
- 学級活動(1)イ:係活動での役割体験が(3)イの土台になる
- 学級活動(2):生活習慣や人間関係の改善が、(3)アの目標設定の基盤になる
教師として残しておきたいこと
私自身のキャリアは、一般的な道とは違う。農業からWeb開発、そして教師へ。一見バラバラに見えるが、振り返ると一本の糸が通っている。
農業で学んだのは、「自然には逆らえない。しかし、工夫はできる」ということ。Web開発で学んだのは、「技術は手段であり、目的は人の役に立つこと」ということ。そして今、教師を目指しているのは、「次の世代の力になりたい」という願いからだ。
これらは全て、働くことの意義を自分なりに見つける過程だった。
小学校のキャリア教育は、「将来の職業を決める」ことではない。自分のよさに気付き、目標を持ち、役割を果たし、学び方を知る——この経験を積み重ねることだ。その積み重ねが、いつか「自分の道」を見つけるときの力になる。
40代で教壇を目指す私が子どもたちに伝えられることがあるとすれば、それは「道は一つではない。しかし、どの道でも、目標を持ち、役割を果たし、学び続けることが大切だ」ということだ。
指導のポイント
- キャリア教育は職業調べだけではない——固定的な活動に偏らない
- (3)アは今の生活の中での目標設定を重視する——遠い将来より今日の一歩
- (3)イは教室の中の「働く」体験から始める——当番・係活動が社会参画の芽
- (3)ウは学ぶことの意義を実感させる——「なぜ勉強するか」への答えを自分で見つける
- キャリア・パスポートで学びの記録を蓄積し、成長を可視化する
- (3)の3内容は互いに関連している——自分を知り、役割を果たし、学び方を学ぶ
- 学級活動(2)や(1)イと連動させて指導する
まとめ——キャリア形成は今日から始まる
学級活動(3)は、子どもの将来を見据えながら、今日の学級生活を充実させる内容だ。
- 希望や目標をもつ——自分を知り、身近な目標を立て、実践する
- 社会参画と働くことの意義——教室での「仕事」を通じて、社会の一員としての自覚を育てる
- 主体的な学習態度——学ぶことの意義を理解し、自分に合った学び方を見つける
- 小学校から高校まで、キャリア形成は系統的に積み上がる
「将来何になりたい?」と聞かれて答えられなくてもいい。今日の自分にできることを一つ決めて、やってみる。その積み重ねが、キャリア形成の本質だ。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動編(文部科学省, 2017)の第3章第1節を基に執筆しています。

