「1秒」ってどのくらい?
「1秒、数えてみて」と言うと、子どもによってテンポがまるで違う。早口で「いち」と言う子もいれば、ゆっくり「いーち」と伸ばす子もいる。
時間は、長さ・かさ・重さ以上に「見えない量」だ。手で触れることも、目盛りで直接見ることもできない。3年生の「時刻と時間」単元は、その見えない量の中でも最小の単位——秒——を扱う。
学習指導要領のねらい
学習指導要領(C(2)時刻と時間):
知識及び技能
- ア 秒について知ること
- イ 日常生活に必要な時刻や時間を求めること
思考力、判断力、表現力等
- ア 時間の単位に着目し、時刻や時間の求め方について考察し、日常生活に生かすこと
2年生までに「時刻を読む」「単位の関係(日・時・分)」を学んできている。3年生では秒という新しい単位が加わり、さらに時刻・時間の計算ができるようになることがねらいだ。
秒という最も捉えにくい単位
学習指導要領の記述は、時間のもつ独特な難しさを的確に表現している。
時間(秒)という量は、長さ、かさ、広さと違って、直接目で見ることができないために捉えにくく、基準の大きさを決めて、それを単位にして測るという操作を直接行うことは難しい。
長さならものさしで測る。かさなら1Lますに水を入れる。重さならはかりに乗せる。しかし時間は——経過するものであり、留まらない。単位を「そこに置いて」眺めることができない。
だから秒の指導は、身体に直接刻むしかない。
身体で秒を覚える
学習指導要領は、秒を体感させる具体的な活動を示している。
時計の秒針の動きや、♩=60に設定したメトロノームに合わせて手をたたいたり、数を数えたりする
何秒間、目を閉じて片足で立っていられるか、10秒間で平仮名を何文字書けるか、60秒間で何回呼吸するかなどを測定させ、ストップウォッチに親しませながら「秒」を実感を伴うように体験する
メトロノーム♩=60は、まさに「1拍 = 1秒」。音楽と算数がここでつながる。
片足立ち、平仮名書き、呼吸——自分の身体を秒という単位で切り取る活動は、時間感覚を育てる決定的な経験になる。
農業をやっていた頃、種まきのタイミングや水やりの時間を「だいたい30秒」「1分くらい」と身体で覚えていた。スマホのタイマーに頼らなくても、身体が時間を知っている——これは時間感覚の土台だ。
1分 = 60秒
学習指導要領は単位関係も明記している。
1分間が60秒という関係を指導し、それを用いることができるようにする
秒と分の関係は、60進法だ。長さ(10進法)や重さ(1000進法)とは違う。
- 長さ:1km = 1000m = 10000dm = …(10進法)
- 重さ:1kg = 1000g(1000進法)
- 時間:1分 = 60秒、1時間 = 60分(60進法)
この進法の違いは、時間計算を特殊にする。「2分30秒 + 1分40秒」を計算するとき、秒が60を超えたら分に繰り上がる。十進法に慣れた子どもには、ここが大きな壁になる。
IT的に言えば、時間は「60進法でエンコードされたデータ」。加減算のロジックが他の量とは違う——これを早めに意識させたい。
時刻と時間——似ているが違う
「時刻」と「時間」は、日常語では混同されがちだが、算数では明確に区別する。
- 時刻:ある一点(10時30分、14時15分、など)
- 時間:ある幅・長さ(30分間、2時間、など)
時刻は点、時間は長さ——これは数直線で表すと分かりやすい。
9:00 —— 10:00 —— 11:00
点 点 点 ← これが時刻
← 1時間 → ← これが時間
学習指導要領も数直線の活用を勧めている。
数直線上に表された時刻や時間を読んだり、数直線上に表したりする
時刻と時間の区別は、5年生の「速さ」の学習にもつながる重要な概念だ。
正午をまたぐ時刻の計算
時刻計算の難所のひとつが、正午をまたぐ時刻だ。
「午前11時30分に家を出て、午後1時15分に着いた。かかった時間は?」
これは、
- 11:30 → 12:00(30分)
- 12:00 → 13:15(1時間15分)
- 合計:1時間45分
こうした計算は、模型の時計の針を動かすという操作が不可欠。学習指導要領も強調している。
模型の時計の針の動きを観察したり、数直線上の目盛りやその間について観察させたりすることを通して考えさせる
頭の中だけでは難しい。針を実際に回す——これが3年生の時間計算の基本だ。
日常生活との結びつき
学習指導要領は、いたずらに複雑な単位の換算は避けると明記している。
計算によって求める場合には、日常生活で必要となる場面で指導するようにし、いたずらに複雑な単位の換算は避けるようにする
3年生の時間指導は、日常生活で使える範囲にとどめる。家から学校までの通学時間、読書時間、休み時間の残り——生活の中の時間を扱うのが基本だ。
これは他の単位と同じ発想。生活に根ざした量として教えることで、子どもは「算数=生活の道具」として時間を捉える。
5年「速さ」への布石
学習指導要領は最後にこう書いている。
ここで育成する資質・能力は、日常生活に必要な時刻や時間を求めることや第5学年の速さの考察に生かされるものである
3年生の秒・時間指導は、5年生の速さ(距離÷時間)の基礎になる。「時速60km」「秒速5m」——こうした複合単位を理解するには、秒・分・時の感覚がしっかり身についている必要がある。
いま植える種が、2年後の花になる——単元のつながりを見通した指導が求められる。
指導のポイント(実習用メモ)
- 1秒の体感を身体活動で育てる(メトロノーム、片足立ちなど)
- 1分=60秒の60進法を意識させる
- 時刻と時間の区別を数直線で示す
- 模型の時計を使った操作活動
- 正午をまたぐ計算を段階的に
- 日常生活の場面に即して扱う
- ストップウォッチで測る楽しさを体験させる
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まとめ——見えない時間を身体で捉える
3年生の「時刻と時間」単元は、最も捉えにくい量を扱う単元だ。
- 秒という最小単位の登場
- 60進法という特殊な単位系
- 時刻と時間の区別
- 身体化された時間感覚の育成
- 5年「速さ」への布石
時間は目に見えないが、身体は時間を知っている。呼吸、心拍、歩数——生きていること自体が時間経過の体験だ。3年生では、その身体感覚と数値の世界を結びつけていく。
実習で教えるなら、ストップウォッチを一人1つ持たせたい。「10秒でどこまで行けるか」「1分間で何回ジャンプできるか」——身体を動かしながら秒を体感する授業が、子どもの時間感覚を作る。抽象的な数字を生きた感覚に変える、それが算数の仕事だ。
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編(文部科学省, 2018)の第3章第3節「第3学年の目標及び内容 C(2)時刻と時間」を基に執筆しています。


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