「調子よく」が鍵
「走る」「跳ぶ」は、人間の最も基本的な動きだ。しかし、ただ速く走ればいい、ただ遠く跳べばいい、というわけではない。
中学年の走・跳の運動で繰り返し出てくる言葉がある。「調子よく」だ。
調子よく走ったり,バトンの受渡しをしたり,小型ハードルを走り越えたりする楽しさや喜びに触れることができる運動である。
「調子よく」とは、リズミカルに、一定のペースで、体のバランスを保ちながら動くこと。速さや距離だけではない、動きの質を大切にする。これが中学年の走・跳の運動の核心だ。
低学年からの変化
低学年では「走・跳の運動遊び」だった。中学年では「走・跳の運動」になる。
最大の違いは、運動が4つに分化すること。
| 運動 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| かけっこ・リレー | 30〜50mのかけっこ、周回リレー | 調子よく最後まで走る、バトンの受渡し |
| 小型ハードル走 | 一定間隔のハードルを走り越える | 自己に合ったリズムで走り越える |
| 幅跳び | 短い助走から踏み切って跳ぶ | 5〜7歩の助走、強い踏切り |
| 高跳び | 短い助走から踏み切って跳ぶ | 3〜5歩の助走、上方への踏切り |
低学年の「いろいろな走り方・跳び方で遊ぶ」から、それぞれの運動の行い方を知り、基本的な動きを身に付ける段階へと移行する。
かけっこ・リレー——最後まで走り抜く
かけっこ
30〜50m程度のかけっこでは、次のような動きを身に付ける。
- いろいろな走り出しの姿勢から、素早く走り始める
- 真っ直ぐ前を見て、腕を前後に大きく振って走る
スタートの姿勢はさまざまだ。立った姿勢だけでなく、座った状態、後ろ向きなど、いろいろな姿勢からのスタートに取り組むことで、素早い反応力を育てる。
周回リレー
リレーでは、一人が走る距離は30〜50m程度。ここで新しく学ぶのがバトンの受渡しだ。
- 走りながら、タイミングよくバトンの受渡しをする
- コーナーの内側に体を軽く傾けて走る
バトンの受渡しは、中学年で初めて本格的に取り組む技能だ。走りながら渡す、走りながら受け取る——この動きの連続が、リレーの醍醐味であり、チームで走る楽しさを生む。
小型ハードル走——リズムで走り越える
小型ハードル走で最も大切なのは、一定のリズムで走り越えることだ。
- インターバル(ハードル間の距離)や高さに応じたいろいろなリズムで走り越える
- 30〜40m程度の距離で、一定のリズムを保って走り越える
高く跳び越える必要はない。むしろ、走りの流れを止めずにスムーズに走り越えることが目標だ。
解説が示す「リズム」という言葉が重要だ。「トン・トン・トン」と等間隔のリズムで走れること。これが「調子よく走り越える」ということだ。
インターバルの工夫
苦手な児童への配慮として、解説は次のような工夫を示している。
- インターバルの異なる複数のレーンを設定し、自分に合ったレーンを選べるようにする
- ゴムを張った小型ハードルや段ボールのハードルなど、いろいろな材質を使う
当たっても痛くないハードルを使うことで、恐怖心を取り除く。リズムよく走ることに集中できる場をつくることが大切だ。
幅跳び——前方に強く踏み切る
幅跳びでは、短い助走から踏み切って遠くへ跳ぶことを学ぶ。
- 5〜7歩程度の助走から踏切り足を決めて、前方に強く踏み切る
- 膝を柔らかく曲げて、両足で着地する
助走の歩数が示されていることに注目してほしい。低学年の「走って跳ぶ」から、中学年では「何歩の助走で、どちらの足で踏み切るか」を意識する段階に入る。
苦手な児童への配慮
踏切り足が定まらず,強く前方へ跳ぶことが苦手な児童には,3~5歩など,短い助走による幅跳びをしたり,「トン・トン・ト・ト・トン」など,一定のリズムの助走からの幅跳びを行ったりする場を設定する
ここでも「リズム」だ。「トン・トン・ト・ト・トン」——このリズムの言葉が、助走のリズムを体に覚えさせる。
高跳び——上方に強く踏み切る
高跳びでは、短い助走から踏み切って高く跳ぶことを学ぶ。
- 3〜5歩程度の短い助走から踏切り足を決めて、上方に強く踏み切る
- 膝を柔らかく曲げて、足から着地する
幅跳びとの違いは、踏切りの方向だ。幅跳びは前方、高跳びは上方。この違いを児童が意識できるように指導することが大切だ。
恐怖心への対応
高跳びのスタンドやバーが当たることへの恐怖心がある児童には,友達が持つゴムひもを跳ぶようにするなどの配慮をする。
バーの代わりにゴムひもを使う。これだけで、恐怖心は大きく減る。場の工夫一つで、挑戦する気持ちが変わる。
思考力——自己の課題を見付ける
自己の能力に適した課題を見付け,動きを身に付けるための活動や競争の仕方を工夫するとともに,考えたことを友達に伝えること。
走・跳の運動での思考力は、2つの方向がある。
1. 自己の課題を見付ける
- ICT機器を活用して自分の走りや跳びの様子を確認し、動きのポイントと照らし合わせる
- 踏切り位置に輪を置くなど、目印を使って動きを視覚的に確認する
2. 競争の仕方を工夫する
- 個人の記録を得点化してチーム対抗戦にする
- チームの目標得点を設定して競争する
記録を単純に比べるのではなく、一人一人の伸びを得点化することで、全員が達成感を味わえる競争の仕方を工夫する。
勝敗を受け入れる
走・跳の運動は、記録や順位が明確に出る領域だ。学習指導要領は、態度の目標として次のように示している。
かけっこやリレーなどの勝敗を受け入れること。
勝っても負けても、相手の健闘を認める。自分の記録を伸ばすことに目を向ける。勝敗を受け入れる力は、スポーツだけでなく、社会生活全般で必要な力だ。
他教科・他領域との連動
- 体つくり運動:走・跳の基礎となる多様な動きを育てる
- 算数:距離の測定、記録の整理、得点の計算
- 道徳科:「公正・公平」——勝敗を受け入れ、きまりを守る
- 学級活動:リレーのチーム編成、友達との協力
教師として残しておきたいこと
農業では、「リズム」が全ての作業を支えていた。種まきのリズム、草取りのリズム、収穫のリズム。一定のペースで体を動かし続けることが、長時間の農作業を可能にした。リズムが崩れると疲労が一気に来る。
走・跳の運動で言う「調子よく」も、同じことだ。速さだけを追い求めるのではなく、自分に合ったリズムで走り、跳ぶ。その心地よさを体で覚えることが、運動を続ける力になる。
もう一つ、リレーの指導で大切にしたいのは、チームで走る楽しさだ。自分一人では出せない結果を、仲間と力を合わせて出す。バトンをつなぐ——この経験は、「人と協力する」ことの原体験になる。
指導のポイント
- 「調子よく」がキーワード——速さだけでなく、動きのリズムと質を大切にする
- 4つの運動(かけっこ・リレー、小型ハードル走、幅跳び、高跳び)の特性の違いを理解して指導する
- 小型ハードル走は「跳ぶ」ではなく「走り越える」——走りの流れを止めない
- 幅跳びは前方、高跳びは上方——踏切りの方向の違いを意識させる
- 助走の歩数を意識させる(幅跳び5〜7歩、高跳び3〜5歩)
- 恐怖心のある児童には場の工夫(ゴムひも、段ボールハードル)で対応する
- 記録の伸びを得点化するなど、全員が達成感を味わえる競争の仕方を工夫する
まとめ——リズムよく走り、力強く跳ぶ
走・跳の運動は、調子よく走り、踏み切って跳ぶ楽しさや喜びに触れる領域だ。
- かけっこ・リレーでは調子よく走り、バトンをつなぐ
- 小型ハードル走では一定のリズムで走り越える
- 幅跳び・高跳びでは短い助走から強く踏み切る
- 「トン・トン・ト・ト・トン」——リズムの言葉が動きをつくる
- 勝敗を受け入れ、自分の記録の伸びに目を向ける
走ること、跳ぶこと。この最も基本的な動きの中に、リズムの心地よさと記録への挑戦がある。「もっと遠くへ」「もっとスムーズに」——その気持ちが、子どもを成長させる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編(文部科学省, 2017)の第2章第2節を基に執筆しています。

