「水遊び」から「水泳運動」へ
1・2年生では「水遊び」だった。水に慣れ、水の中で動く楽しさを味わう段階だった。
3年生からは「水泳運動」になる。名前が変わるだけではない。学ぶ内容が大きく変わる。
け伸びや初歩的な泳ぎ,もぐる・浮くことなどの基本的な動きや技能を身に付けるようにし,高学年の水泳運動の学習につなげていくことが求められる。
水に慣れる段階から、水の中で体をコントロールする段階へ。け伸びで進み、初歩的な泳ぎで呼吸しながら進む。水泳の技能を本格的に学び始めるのが中学年だ。
2つの柱
中学年の水泳運動は、「浮いて進む運動」と「もぐる・浮く運動」で構成される。
浮いて進む運動
プールの底や壁を蹴った勢いを利用して進むけ伸びをしたり,浮いて呼吸をしながら手や足を使って進む初歩的な泳ぎをしたりすること。
け伸び
け伸びは、全ての泳ぎの基礎だ。
- 友達に手を引かれたり足を押されたりした勢いを利用して、伏し浮きの姿勢で続けて進む
- プールの底を両足で蹴り、体を一直線に伸ばした姿勢で進む
- プールの壁に両足を揃えて、力強く蹴り出した勢いで、顎を引いて腕で頭を挟んで体を一直線に伸ばした姿勢で進む
「体を一直線に伸ばす」——この姿勢がけ伸びの核心だ。腕で頭を挟み、顎を引き、つま先まで真っ直ぐ伸ばす。この姿勢ができれば、壁を蹴った勢いだけでかなりの距離を進める。
初歩的な泳ぎ
初歩的な泳ぎとは,呼吸しながらのばた足泳ぎやかえる足泳ぎなど,近代泳法の前段階となる泳ぎのことである。
ここで重要なのは、「近代泳法の手や足の動かし方などの泳形にこだわる必要がない」という一文だ。
クロールや平泳ぎの正しいフォームを教えるのではない。浮いて呼吸をしながら手や足を使って進むことができればよい。泳形よりも、水の中で呼吸しながら進む経験を積むことが大切だ。
具体的には:
- 補助具を用いて浮き、呼吸をしながら手や足を動かして進む
- 補助具を用いて仰向けの姿勢で浮き、呼吸をしながら進む
- ばた足泳ぎやかえる足泳ぎで、手や足をバランスよく動かし、呼吸をしながら進む
もぐる・浮く運動
呼吸を調整しながらいろいろなもぐり方をしたり,背浮きの姿勢で浮いたり,簡単な浮き沈みをしたりすること。
いろいろなもぐり方
- プールの底にタッチするようにもぐる
- 友達の股の下やプールの底の輪をくぐり抜ける
- 座った姿勢でもぐってから大の字に変わるなど、水の中で姿勢を変える
いろいろな浮き方
- 補助具を抱えて、浮力を生かしたいろいろな浮き方をする
- 大きく息を吸い込み全身の力を抜いて、背浮きやだるま浮きをする
- 伏し浮きから大の字浮き、背浮きから伏し浮きなど、ゆっくりと浮いた姿勢を変える変身浮き
簡単な浮き沈み(ボビング)
- 息を大きく吸った状態でもぐり、体が浮いてくる動きを体験する
- 浮いた姿勢から息を吐き、体が沈んでいく動きを体験する
- ボビングを連続して行う——呼吸のリズムを身に付ける
ボビングは、水泳における呼吸の基本だ。「吸う→もぐる→吐く→浮く」のリズムを繰り返すことで、水中での呼吸調整が自然に身に付く。
運動が苦手な児童への配慮
水泳運動は、恐怖心との戦いでもある。解説は具体的な配慮例を多数示している。
け伸びが苦手な児童
- 体を一直線に伸ばすことが苦手→補助具や友達の手につかまり、大きく息を吸って伏し浮きの姿勢になるまで待つ
- 壁を力強く蹴ることが苦手→体を十分に沈め、膝を曲げて小さく縮めてから蹴るように助言する
初歩的な泳ぎが苦手な児童
手や足の動きと呼吸のタイミングを合わすことが苦手な児童には,陸上で動きのイメージができる言葉「伸びて,イーチ・ニィー・サーン(手で水をかいたり,足を動かしたりして),ブハ!(息をまとめて吐く),伸びて」とともにタイミングを確認する
「伸びて、イーチ・ニィー・サーン、ブハ!、伸びて」——このリズムの言葉が、手足の動きと呼吸のタイミングを同期させる。走・跳の運動の「トン・トン・ト・ト・トン」と同じように、言葉がリズムをつくるのだ。
もぐる・浮くが苦手な児童
- だるま浮きで体を縮めることが苦手→両膝を抱え込まずに持つ程度の簡単な方法から始める
- 背浮きで腰が沈む→補助具をしっかり抱えて浮くように助言する
- 変身浮きが苦手→「つぼみがだんだん開いて、またしぼんでいく」などお話づくりで変身のイメージを持たせる
水に対する恐怖心がある児童
水に対する恐怖心や違和感を抱く児童には,低学年での水遊びを単元や授業の始めに取り入れたり,ゲーム的な要素のある運動をしたりする
器械運動と同じだ。低学年の学びに立ち戻ることで、安心感をつくる。
安全——水泳運動の心得
水泳運動は、安全管理が最も重要な領域だ。
準備運動や整理運動を正しく行う,バディで互いを確認しながら活動する,シャワーを浴びてからゆっくりと水の中に入る,プールに飛び込まないなど,水泳運動の心得を守って安全を確かめること。
- 準備運動・整理運動を正しく行う
- バディで互いを確認しながら活動する
- シャワーを浴びてからゆっくりと水に入る
- プールに飛び込まない
バディシステムは、水泳運動の安全を支える仕組みだ。2人1組で互いの安全を確認し合う。この仕組み自体が、友達と協力する態度を育てる学びにもなる。
思考力——自己の課題を見付ける
進んだ距離やできた回数を確かめて自己の課題を見付ける
- け伸びで進んだ距離、連続ボビングの回数などを記録し、自分の課題を見付ける
- 補助具を活用して体を伸ばした時間を長くとる練習や、友達に引っ張ってもらう練習など、自己の課題に適した練習の仕方を選ぶ
- 友達のよい動きや課題を言葉や動作で伝える
既にできる児童への配慮
水泳運動には、既にスイミングスクール等でクロールや平泳ぎができる児童もいる。解説はこうした児童への配慮も示している。
既にクロールや平泳ぎができる児童には,け伸びの距離をより伸ばすことを助言したり,いろいろなもぐり方をする場面で腹や背中をプールの底に付けたり逆立ちや連続回転をしたりすることを助言したりする
泳げる児童にも、新しい挑戦を提示する。全員が「自分の課題」を持って取り組める授業をつくることが大切だ。
他教科・他領域との連動
- 体つくり運動:バランスをとる運動、体を移動する運動が水泳の基礎になる
- 理科:水の浮力への関心、体の仕組みへの理解
- 保健:健康な生活と水泳の関連
- 道徳科:「友情・信頼」——バディシステムでの協力、友達への声かけ
教師として残しておきたいこと
農業での「水」は、命の源だった。田んぼに水を引く。畑に水をやる。水がなければ作物は育たない。水の力を借りて食べ物をつくる。
水泳運動で子どもが学ぶのも、水の力を借りることだ。浮力を利用して浮く。水の抵抗を利用して進む。水と戦うのではなく、水と友達になる。
もう一つ大切なのは、呼吸の調整だ。水の中では、陸上のように自由に息ができない。いつ吸い、いつ吐くかを意識的にコントロールする。この「呼吸を意識する」体験は、水泳だけでなく、緊張する場面で呼吸を整える力にもつながる。
水泳運動の季節は限られている。だからこそ、限られた時間の中で、全ての児童が水の中での心地よさを体験できるように、授業を組み立てたい。
指導のポイント
- け伸びは全ての泳ぎの基礎——「体を一直線に伸ばす」姿勢を丁寧に指導する
- 初歩的な泳ぎは近代泳法の泳形にこだわらない——浮いて呼吸しながら進めればよい
- もぐる・浮く運動で呼吸の調整を身に付ける——ボビングのリズムが鍵
- 「伸びて、イーチ・ニィー・サーン、ブハ!」——リズムの言葉で動きと呼吸を同期させる
- 恐怖心がある児童には低学年の水遊びに立ち戻る
- 既にできる児童にも新しい課題を提示する
- 安全管理を最優先——バディシステム、プールへの飛び込み禁止、心得の徹底
まとめ——水と友達になる
水泳運動は、水に浮いて進んだり、もぐったり浮いたりする楽しさや喜びに触れる領域だ。
- 浮いて進む運動:け伸びと初歩的な泳ぎで、水の中で進む力を身に付ける
- もぐる・浮く運動:いろいろなもぐり方・浮き方で、水中での体のコントロールを学ぶ
- 呼吸の調整が核心——ボビングのリズムが全ての泳ぎにつながる
- 恐怖心には低学年の遊びへの回帰、できる児童には新たな挑戦を
- 安全管理は水泳運動の大前提
水の中で体の力を抜いたとき、ふわりと体が浮く。あの感覚を知った子どもは、水が好きになる。水と友達になること——それが、水泳運動の出発点であり、到達点だ。
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この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編(文部科学省, 2017)の第2章第2節を基に執筆しています。

