「多数決で決めましょう」の落とし穴
学級会で意見が分かれたとき、「じゃあ多数決で」となることがある。手を挙げて数える。多いほうに決まる。少数派は黙る。
これは学習指導要領が求める「合意形成」ではない。
特に,自分と異なる意見や少数の意見も尊重し,安易に多数決で決定することなく,折り合いを付けて集団としての意見をまとめることの大切さを理解したり,合意形成を図っていくための手順や方法を身に付けたりすることができるようにする。
安易に多数決で決定することなく。この一文に、学級会の本質がある。多数決は最後の手段であって、最初の手段ではない。まず折り合いを付けることを目指す。それが合意形成だ。
学習指導要領のねらい
学級活動(1)アは、こう示されている。
学級や学校における生活をよりよくするための課題を見いだし,解決するために話し合い,合意形成を図り,実践すること。
ここには4つのステップが含まれている。
- 課題を見いだす——児童が自分たちの生活から問題を見つける
- 話し合う——全員が意見を出し合い、比べ合う
- 合意形成を図る——折り合いを付けて学級としての決定をする
- 実践する——決めたことを全員で行う
この4つが揃って初めて「学級会」になる。話し合うだけで終わる学級会は、半分しか機能していない。
学習過程——問題発見から振り返りまで
学級会の学習過程は、5つのステップで構成される。
①問題の発見・確認
児童が学級や学校の生活から、みんなで取り組むべき課題を見いだす。
学級や学校における生活上の諸問題から課題を見いだし,議題を学級全員で決定する。
議題箱に日常の気付きを入れる。児童のつぶやきや作文から教師が拾い上げる。「教室の使い方で困っていること」「みんなで楽しくできること」——生活の中から課題が生まれる。
ここで教師が一方的に議題を決めてしまうと、「やらされる学級会」になる。児童の発意・発想を大切にすることが、自発的・自治的な活動の出発点だ。
②解決方法等の話合い
提案理由を基に、一人一人の思いや願いを出し合う。
話し合いの技術として大切なのは3つ。
- 共通点や相違点を確認する——「AさんとBさんの意見は、ここが同じだね」
- 共通の視点をもって比べ合う——「時間のことを考えると、どっちがいいかな」
- よりよいものを選んだり、意見の違いを生かしたりする——「両方のいいところを合わせられないかな」
③解決方法の決定(合意形成)
多様な意見をまとめ、学級としての考えを決める。
合意形成とは、全員が納得する地点を探すことだ。全員が第一希望を叶えることは難しい。しかし、「自分の意見は通らなかったけど、理由は分かるし、決まったことには賛成できる」——この状態が合意形成だ。
④決めたことの実践
決まったことを、役割を分担して全員で実行する。
話し合って決めたのに実践しなければ、「話し合っても意味がない」と子どもは学ぶ。決めたことは必ず実践する。この約束が、次の学級会への信頼を生む。
⑤振り返り
実践の成果と課題を確認し、次の課題解決につなげる。
「やってみてどうだった?」「もっとこうすればよかった」——この振り返りが、次の問題発見につながり、学級会のサイクルが回り始める。
議題選びの視点
どんな課題でも学級会に出していいわけではない。学習指導要領解説は、学級会にふさわしい課題の条件を示している。
ふさわしい課題:
- 学級の児童全員が協働して取り組まなければ解決できないもの
- 児童の発達の段階に応じて、自分たちで解決できるもの
- 教育的に望ましいと認められるもの
ふさわしくない課題:
- 一人一人が心掛ければ解決するもの(例:静かに話を聞く)
- 個人情報やプライバシーの問題
- 相手を傷付ける結果が予想される問題
- 教育課程の変更に関わる問題
- 金銭の徴収に関わる問題
- 健康・安全に関わる問題
「静かに話を聞こう」は一人一人の問題であり、学級会の議題ではない。「休み時間の遊びで困っていることを解決しよう」は学級全体の問題であり、議題になる。この線引きを教師が理解していることが大切だ。
学級会を支える仕組み
計画委員会(司会グループ)
学級会は児童が運営する。司会・副司会・記録・黒板書記などの役割を、輪番制で経験させる。
等しく合意形成に関わり役割を担うようにすることを重視すること。
全員が何らかの役割を経験する。「自分もみんなから必要とされている」という実感が、学級への所属感を育てる。
議題箱
日常の気付きを蓄積する仕組み。「こんなことで困っている」「こんなことをやってみたい」を児童が自由に書いて入れる。教師は定期的に確認し、議題として取り上げられるかを児童と一緒に判断する。
板書の型
学級会の板書には型がある。議題・提案理由・出された意見・決まったこと。この型を繰り返し使うことで、話し合いの見通しが持てるようになる。
「話し合って終わり」にしない
解説は繰り返しこう述べている。
話し合うこと自体が目的となってしまわないよう,話し合って決めたことに時機を逸せずに取り組むことができるように,適切な授業時数を確保する必要がある。
学級会は「話し合う→実践する→振り返る」までがセットだ。実践の時間を確保しなければ、学級会は空論になる。
例えば「お楽しみ会をしよう」と話し合って決めたら、準備の時間と本番の時間を確保する。「教室のきまりを見直そう」と決めたら、新しいきまりで過ごしてみて、1週間後に振り返る。
決めたことを実践する時間の確保が、学級会の価値を高める最も重要な条件だ。
他教科・他領域との連動
- 国語:「話すこと・聞くこと」の技能。学級会は国語の実践の場になる
- 道徳科:「相互理解・寛容」「規則の尊重」「公正・公平・社会正義」との連動
- 児童会活動:学級会での合意形成が、代表委員会での発言の基盤になる
- 学校行事:(1)ウを通じて、行事への学級としての提案・取組につながる
教師として残しておきたいこと
Web開発のチームミーティングで、「多数決で決めよう」と言った瞬間、チームの空気が変わったことがある。少数派のメンバーが黙り込み、その後の実装で積極性を失った。
逆に、時間をかけて全員の意見を聞き、折り合いを付けて決めたプロジェクトは、実装のスピードが速かった。全員が「自分も関わって決めた」と思えるから、実践に力が入る。
合意形成の質が、実践の質を決める。これはチーム運営でも学級経営でも同じだ。
学級会で大切なのは、決定の結果よりも決定の過程だ。子どもたちが「自分たちで話し合って、自分たちで決めた」と思えること。その経験が、社会に出てからの合意形成の力の土台になる。
指導のポイント
- 合意形成は多数決ではない——折り合いを付けて全員が納得する地点を探す
- 議題は児童から——教師が一方的に決めない。発意・発想を大切にする
- 議題にふさわしい課題の条件を理解しておく
- 話し合いの型(共通点の確認→比較→統合)を段階的に指導する
- 実践の時間を確保する——話し合って終わりにしない
- 司会・記録などの役割を全員が経験できるよう輪番制にする
- 振り返りを必ず行い、次の学級会につなげる
まとめ——話し合いは実践で完結する
学級会は、合意形成の学びの場だ。
- 課題を見いだし、話し合い、折り合いを付けて決め、全員で実践する
- 多数決に頼らず、少数意見を大切にしながら学級としての決定をつくる
- 話し合って終わりではない——実践と振り返りまでがセット
- 全員が役割を担い、自分たちで学級をつくる経験を積む
「多数決で決めましょう」ではなく、「みんなが納得できる方法を考えよう」。この一言が、学級会の質を変える。
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この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動編(文部科学省, 2017)の第3章第1節を基に執筆しています。

