引き付ける力と極の秘密——3年理科・磁石の性質

棒磁石を持ちクリップを引き寄せる3年生男児、N-S引き合う・N-N退け合う2組の磁石、くっつく/くっつかない分類表を描いたアニメ風イラスト。「引き付ける物がある、異極は引き合う、同極は退け合う」のテキスト入り
目次

「なんで冷蔵庫にくっつくの?」

冷蔵庫のドアにマグネットを貼る。当たり前の光景だ。しかし3年生に「なんで冷蔵庫にくっつくの?」と聞くと、多くの子が答えに詰まる。「磁石だから」とは言える。では「なぜ冷蔵庫にはくっつくのに、木のテーブルにはくっつかないの?」と聞くと、もう少し考え込む。

磁石は身近だが、その性質は案外知られていない。何がくっついて何がくっつかないのか、なぜ引き合ったり退け合ったりするのか——日常の「当たり前」を実験で解き明かすのが、この単元の面白さだ。


学習指導要領のねらい

磁石の性質について,磁石を身の回りの物に近付けたときの様子に着目して,それらを比較しながら調べる活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。

知識・技能として理解させるのは2点。

(ア) 磁石に引き付けられる物と引き付けられない物があること。また,磁石に近付けると磁石になる物があること。
(イ) 磁石の異極は引き合い,同極は退け合うこと。

加えて、内容の取扱いとして以下が指定されている。

磁石が物を引き付ける力は,磁石と物の距離によって変わることにも触れること。

(ア) は磁石と物の関係、(イ) は磁石同士の関係。2段階で磁石の性質に迫る構成だ。


3観点で見る学びの姿

知識・技能

磁石に引き付けられる物と引き付けられない物があること、磁石に近付けると磁石になる物があること、異極は引き合い同極は退け合うことを理解している。棒磁石やU字型磁石を正しく扱える。

思考・判断・表現

磁石を身の回りの物に近付けたときの様子について追究する中で,差異点や共通点を基に,磁石の性質についての問題を見いだし,表現すること。

教室のいろいろな物に磁石を近付けて、「くっつく物とくっつかない物は何が違うのか」と問いを立てられるか。結果を分類して、共通する特徴を見つけられるか。

主体的に学習に取り組む態度

身の回りのいろいろな物に磁石を近付けて調べようとしている。予想と結果を照らし合わせて考えている。


この単元の位置付け——5年「電流がつくる磁力」への土台

本内容は,「エネルギー」についての基本的な概念等を柱とした内容のうちの「エネルギーの捉え方」,「エネルギーの変換と保存」に関わるものであり,第5学年「A(3)電流がつくる磁力」の学習につながるものである。

5年では、コイルに電流を流すと磁力が生じることを学ぶ。電気と磁石の関係、すなわち電磁気学の入口だ。3年で磁石の基本的な性質——極の性質、引き付ける力——を体験的に理解しておくことが、5年の学習の前提になる。


指導の重点

1. 「くっつく物・くっつかない物」を徹底的に調べる

(ア) の学習では、教室中のものに磁石を近付けて回る活動が有効だ。

  • はさみ(金属部分はくっつく、プラスチック部分はくっつかない)
  • 一円玉(アルミニウム——くっつかない)
  • 十円玉(銅——くっつかない)
  • クリップ(鉄——くっつく)
  • 鉛筆(木——くっつかない)

子どもの予想は「金属はくっつく」であることが多い。しかし、一円玉(アルミニウム)や十円玉(銅)は磁石に引き付けられない。「金属でもくっつかない物がある」という発見が、この単元の大きな驚きだ。

結果を表に分類・整理し、「くっつく物の共通点は何か」を話し合う。ここに思考・判断・表現の見取りポイントがある。

2. 「磁石になる物がある」を体験する

磁石に近付けたクリップが、別のクリップを引き付ける。「磁石を離してもしばらくくっついている」。これは、鉄が磁石に近付けると一時的に磁石になる(磁化する)現象だ。

3年生は「磁石の力が移った!」と表現することが多い。この素朴な理解で十分だ。専門的な「磁化」の用語は不要。「磁石が別の物を磁石にすることがある」という事実を体験として残す。

3. 極の性質——引き合う・退け合う

(イ) では、2つの磁石を近付けて、引き合う組み合わせと退け合う組み合わせを調べる。

  • N極とS極 → 引き合う
  • N極とN極 → 退け合う
  • S極とS極 → 退け合う

異極は引き合い、同極は退け合う。この法則は、手で感じる「ぐっと引き寄せられる感覚」と「ぐいっと押し返される感覚」で体感できる。

さらに、磁石を自由に動けるようにすると、常に南北を指して止まることも扱う。北を指す端がN極、南を指す端がS極。方位磁針の仕組みにも触れられる。

4. 距離と力の関係

磁石が物を引き付ける力は,磁石と物の距離によって変わることにも触れること。

磁石をクリップに近付けるとき、遠い位置から少しずつ近付けていく。ある距離まで来ると、クリップが「ぱっ」と飛び付く。距離が近いほど力が強い——この体験は、力の性質を感覚的に理解させる。


他教科・他領域との連動

  • 社会科:方位磁針の使い方。3年社会では地図の方位を学ぶ。磁石の性質が方位磁針の仕組みの理解に繋がる。
  • 算数:結果の表・グラフへの整理。
  • 生活科(低学年からの接続):磁石遊びの経験。

教師として残しておきたいこと

農業をしていた頃、目に見えない力の存在を何度も感じた。植物が光に向かって伸びる力。根が水を求めて地中に広がる力。重力に逆らって茎が上に向かう力。見えないけれど、確かにそこにある。

磁石の力も同じだ。目に見えない。しかし、クリップが引き寄せられる瞬間、手に力を感じる。見えない力が「ある」と知ること——これは3年生にとって、世界の見え方が変わる体験だ。

教室にいると、子どもたちが磁石を持って嬉々としていろんな物にくっつけようとする光景に出会うだろう。あの好奇心を大切にしたい。「くっつくかな?」と試す行為そのものが、仮説を立てて検証する科学の営みだ。


指導のポイント(実習用メモ)

  1. 教室中のものに磁石を近付けて徹底的に調べさせる
  2. 金属でもくっつかない物がある」という驚きを大切にする
  3. 結果を表に分類・整理して共通点を考えさせる
  4. 磁化(磁石になる物がある)の体験を組み込む
  5. 異極は引き合い同極は退け合うを手の感覚で体感させる
  6. 距離と力の関係にも触れる
  7. 方位磁針との接続で社会科と連動させる
  8. 磁気カード等への影響に注意し、適切な取扱いを指導する

まとめ——見えない力がそこにある

3年理科「磁石の性質」は、目に見えない力の存在を知る単元だ。

  • くっつく物とくっつかない物がある——「金属なら全部くっつく」は間違い
  • 磁石に近付けると磁石になる物がある
  • 異極は引き合い、同極は退け合う
  • 距離が近いほど力は強い

「あれ、一円玉はくっつかないの?」——この素朴な驚きが、科学的な分類と法則の発見に繋がる。磁石は子どもにとって「遊び道具」だが、その遊びの中に科学の本質が詰まっている。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編(文部科学省, 2017)の第3章第1節を基に執筆しています。

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