「自分と違う意見も大切にする」——3年道徳・相互理解、寛容

3年生の男子と女子が向き合い、氷山型の吹き出しで言葉(ちがうよ/えっなんで?)と水面下の経験・気持ちを対比したアニメ風イラスト。「自分と異なる/意見も大切に/違いは学びの贈り物」のテキスト入り
目次

「えっ、なんで?」が増える教室

3年生の話し合いの場面で、よく聞こえてくる声がある。「えっ、なんで?」「ちがうよ、ぼくはこう思う」。低学年では「うん、そうだね」で流れていた話し合いが、中学年になると意見の食い違いが表に出てくる。

ある算数の時間、前の時間に習った筆算の手順を子どもたちで説明し合っていた。一人が「この計算は十の位から書くんだよ」と言うと、別の子が「違うよ、一の位からだよ」と即座に返した。本当はどちらの順番でも答えは同じになるが、子どもたちは「正しい / 間違い」の対立に入ってしまい、しばらく言い合いになった。

これは中学年の話し合いの典型的な姿である。違いに気付けるようになった分、違いを受け止めきれずに感情がぶつかる。「相互理解、寛容」の内容項目は、まさにこの時期の子どもたちのために中学年から設けられている。


中学年から登場する、新しい内容項目

「相互理解、寛容」は、低学年(1・2年)の内容項目には設定されていない。中学年から初めて登場する。

これは偶然ではない。低学年の子どもたちは、まだ自分と相手の違いを十分には認識できていない。「違いを大切にする」という指導は、違いを認識できる発達段階に入ってから初めて意味を持つ。中学年は、自他の違いをおおむね理解できるようになる時期である。だからこそ、この時期にこの内容項目が始まる。

3年生はこの価値と正面から向き合う最初の学年だ。なぜ低学年では扱わず、中学年から扱うのか——そこに、この項目の発達的な意味が凝縮している。


学習指導要領のねらい——低中高で何が変わるか

中学年〔第3・4学年〕の文言はこうである。

自分の考えや意見を相手に伝えるとともに,相手のことを理解し,自分と異なる意見も大切にすること。

低中高の比較で見ておきたい。

  • 低学年:(設定なし)
  • 中学年:「自分の考えや意見を相手に伝えるとともに,相手のことを理解し,自分と異なる意見も大切にすること。」
  • 高学年:「自分の考えや意見を相手に伝えるとともに,謙虚な心をもち,広い心で自分と異なる意見や立場を尊重すること。」

中学年のポイントは2つある。

  1. 自分の考えを伝えること(発信)
  2. 相手と違う意見を大切にすること(受信)

双方向であることが、この項目の特徴だ。聞くだけでも、話すだけでもない。互いに伝え合いながら理解を深める——これが相互理解の核である。

高学年になると「謙虚な心」「広い心」「立場を尊重」が加わり、より深いレベルでの寛容が求められる。中学年は、その入口にあたる。


道徳科の評価で見る学びの姿

道徳科では、他教科のように数値で到達度を測る評価は行わない。学習指導要領解説でも、道徳科の評価について次のように示されている。

数値などによる評価は行わない

その代わりに、授業の中で子どもの考えがどう動いたかを見取る。特に大切なのは、次の二つである。

一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか

道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか

この内容項目の中学年のねらいは、次の文言に表れている。

自分の考えや意見を相手に伝えるとともに,相手のことを理解し,自分と異なる意見も大切にすること。

この授業では、次の姿を見取りたい。

  • 多面的・多角的に考える姿:自分の考え、相手の考え、背景にある思いや経験を分けて捉え、多面的に考えている。
  • 自分との関わりで考える姿:自分と違う意見に出会ったときの反応を振り返り、大切に聞く姿を具体的に考えている。

違う意見を我慢するだけでなく、伝え合いながら相手を理解する力として扱う。


中学年の発達特質——「違いから対立へ」

学習指導要領解説は、中学年の特性をこう示している。

自他の立場や感じ方,考え方などの違いをおおむね理解できるようになるが,ともすると違いを受け止められずに感情的になったり,それらの違いから対立が生じたりすることも少なくない。

この記述は、現場の感覚と一致する。中学年は、違いを認識できるようになる時期。だからこそ、違いに反応してしまう時期でもある。

意見の違いがすぐに「正しい / 間違い」の対立に転じる。「あの子はおかしい」と決めつけてしまう。これが中学年の落とし穴だ。教室で次のような声を聞くことが増える。

  • 「○○ちゃんはずるい」
  • 「△△くんの考え方はへん」
  • 「××さんとはぜんぜん合わない」

低学年では「ちがう」で済んでいたものが、中学年では「あの人はおかしい」という人格評価へと滑りやすい。ここに教師の介入の余地がある。


指導の重点

1. 「相手の言葉の裏側にある思い」を聴く力を育てる

学習指導要領解説の核心はここにある。

相手の言葉の裏側にある思いを知り,相手への理解を深め,自分も更に相手からの理解が得られるように思いを伝える相互理解の大切さに気付くようにすることが大切である。

これは中学年で扱う、極めて重要な視点だ。「こう言った」の表面ではなく、「なぜそう言ったのか」を想像する。意見の違いの背後には、経験の違いがあり、価値観の違いがある。それを聴き取る力が、寛容の土台になる。

授業では、教材の登場人物の言葉だけでなく、その言葉を発した背景に目を向けさせたい。「この子がこう言ったのは、どんな気持ちからだろう」「家でどんなことがあったから、こう感じたのだろう」と問いを重ねる。

2. 「立場を入れ替えて聴く」活動を取り入れる

中学年の相互理解の授業で有効なのは、立場を入れ替えて考える活動だ。

教材の登場人物について、最初は自分の立場から意見を書く。次に、反対の立場の人物になりきって、その人物の心情を書く。「あの子はわるい」と決めつけていた子が、相手の立場で書いてみると「そういう気持ちだったんだ」と気付くことがある。

この体験を、話し合いではなく書くことを通じて積み重ねたい。書くことは、自分の中で立場を切り替える時間を確保する。話し合いの即応性では届かない深さに到達できる。

3. 「謙虚さ」の芽を育てる

高学年の同項目では「謙虚な心をもち」が加わる。中学年はその準備段階である。

「自分も間違うことがある」と認める姿勢は、寛容さの源だ。教師自身が「先生もこの考え方は知らなかった、ありがとう」と言える教室であれば、子どもも自然に謙虚さを学んでいく。

逆に、教師が「正しい答え」を持っているように振る舞う教室では、子どもは謙虚になれない。教師の姿勢が、相互理解の土台を作る。

4. いじめ未然防止と接続させる

学習指導要領解説は、この内容項目といじめの問題を明確に結び付けている。

今日の重要な教育課題の一つであるいじめの未然防止に対応するとともに,いじめを生まない雰囲気や環境を醸成するためにも,互いの違いを認め合い理解しながら,自分と同じように他者を尊重する態度を育てることが重要…

いじめは、違いを許せない心から始まる。中学年で「相互理解、寛容」を扱う最大の理由は、いじめが本格化しやすい時期だからである。

教室の中で、違いが摩擦ではなく豊かさとして受け止められる文化を、3年生のうちに育てたい。


関連する内容項目

  • 個性の伸長(A④):互いの違いが個性であると認める基盤になる。自分の個性を肯定できる子は、他者の個性も肯定できる
  • 親切、思いやり(B⑦):相手の状況を理解しようとする姿勢が、相互理解とつながる
  • 友情、信頼(B⑩):違いを乗り越えてこそ友情は深まる。表面的な仲よしでは越えられない壁を、相互理解が越える
  • 公正、公平、社会正義(C⑬):差別や偏見と向き合う視点。「違いを大切にする」と「分け隔てしない」は、表裏の関係にある

授業のヒント

発問例

  • 「この人がこう言ったのは、どんな気持ちからだろう」
  • 「自分と違う意見を聞いた時、どんな気持ちになる?」
  • 「『違う』と『間違っている』は、何が違うだろう」
  • 「相手の話を最後まで聞けた時と、途中でさえぎってしまった時、何が違ったか」
  • 「自分が知らない考え方を教えてもらった経験はある?」

活動例

  • 役割演技:意見が対立する場面を演じ、相手の立場でも考えてみる
  • 「もう一つの視点」カード:教材の登場人物以外の視点を考えてみる
  • 違いを大切にする発言ベスト3:話し合いで「いいなと思った相手の意見」を記録する

教材選びの注意点

意見の違いから対立に進む場面、そして対立を乗り越えて理解に至る場面の両方を含む教材を選びたい。一方的に「相手を理解しよう」と言うだけでは届かない。葛藤と気付きの過程が描かれている教材ほど、子どもは自分のこととして考える。


他教科・領域との連動

  • 国語:物語教材の登場人物の心情を読み取る学習と直結する。「ごんぎつね」のような相手の思いに気付く話は、相互理解の格好の素材になる
  • 社会:地域の人々や異なる立場の人の暮らしを学ぶことが、違いを認める下地を作る
  • 学級活動:話し合い活動全体が相互理解の場である。ルールを決めるとき、行事を計画するとき、意見が分かれた時の進め方そのものが学びになる
  • 特別活動・委員会活動:異学年と関わる経験は、自分とは異なる立場の人を理解する機会になる

道徳の45分だけで相互理解は育たない。日常の話し合いの質が、子どもの寛容さを決める。


教師として残しておきたいこと

私はこれまで、自分とまったく違う背景を持つ人と仕事をしてきた。農業を始めた頃、長く農業をしてきた近所の人に教わることが多かった。最初は「自分のやり方」を主張したくなることもあったが、相手の話を最後まで聴くと、その背景にある何十年もの経験が見えてきた。

Web開発の現場でも同じだった。技術的な議論で意見が分かれた時、相手の選択の背後には、過去のプロジェクトでの失敗や、ユーザーの声を聞いた経験があった。意見の違いは、経験の違いの表現だと気付いた。

3年生に伝えたいのは、「あなたと違う考えの友達は、あなたが知らない世界を持っているよ」ということ。違いは、自分を広げてくれる贈り物なのだ。

46歳で教師を目指す立場から見ると、子どもたちが3年生でこの感覚を獲得できれば、その後の人生の幅が大きく変わると思う。意見の違いに身構える人と、違いから学ぼうとする人では、出会える人の数が違う。中学年でこの内容項目に出会うことの意味は、大人になってから振り返ると、本当に大きい。


指導のポイント(実習用メモ)

  1. 中学年から登場する内容項目であることの意味を意識する
  2. 違いを認識できる発達段階だからこそ、対立にも転じやすい
  3. 「相手の言葉の裏側にある思い」を聴く力を育てる
  4. 立場を入れ替えて考える活動を取り入れる
  5. 書く活動で自分の中の立場切り替えの時間を確保する
  6. 謙虚さの芽を育てる教師の姿勢が土台になる
  7. いじめ未然防止と接続させて指導する
  8. 日常の話し合いの質が、相互理解の本当の学習場面である

まとめ——違いを豊かさとして受け止める教室へ

3年道徳の「相互理解、寛容」は、違いを認識できるようになった子どもたちが、その違いを対立ではなく豊かさとして受け止める力を育てる単元である。

  • 中学年から登場する内容項目で、低学年にはない
  • 違いの認識と、違いへの感情的反応が同時に起きる時期
  • 「相手の言葉の裏側にある思い」を聴く力が核心
  • 立場を入れ替える活動と書く活動が有効
  • いじめ未然防止と直結する重要な学び

3年生のこの時期に違いを大切にする経験を積ませることが、高学年で扱う「謙虚な心」「広い心」へと育っていく。教師は、教室で起きる小さな意見の食い違いを、避けるのではなく学びの素材として丁寧に扱うことが求められる。

実習でこの単元を扱うなら、教材だけで終わらせず、学級内で実際に起きた意見の違いの場面を振り返る時間を持ちたい。子どもにとって、「自分たちの教室で起きたこと」を題材にできることが、最も深い学びになる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編(文部科学省, 2017)の第3章第2節、および第5章「道徳科の評価」を基に執筆しています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次