「自分の特徴に気付き、長所を伸ばす」——3年道徳・個性の伸長

「わたしの取扱説明書」を書く3年生女子のアニメ風イラスト。3人の友達が「絵が上手」「やさしい」などのカードを添え、横の鏡には「のんびり屋(短所)」と「丁寧(長所)」が虹の橋で繋がっている。「自分の特徴に気付く/長所を伸ばす/短所と長所は表裏一体」のテキスト入り
目次

「自分のいいところ、書いてみよう」が難しい3年生

3年生に「自分のよいところを3つ書こう」と促すと、半分以上の子の手が止まる。とくに男子は「えー、ない」「思いつかない」と顔を見合わせ、女子は周りの様子をうかがいながら鉛筆をさまよわせる。

これは、書く力の問題ではない。中学年は、他者と自分を比べ始める時期だからだ。比較した結果、「自分には特別なものなんかない」と思い込み、書ける手前で止まってしまう。

道徳の「個性の伸長」は、この立ち止まりを、自分を多面的に見つめ直す気付きの機会へと転換する内容項目である。低学年の「自分の特徴に気付くこと」から、中学年では「長所を伸ばす」へと、自己形成の能動性が一段上がる。


学習指導要領のねらい

中学年〔第3・4学年〕の文言。

自分の特徴に気付き,長所を伸ばすこと。

低・中・高の3段階を並べると、発達の階段が見える。

  • 低学年:自分の特徴に気付くこと
  • 中学年:自分の特徴に気付き、長所を伸ばすこと
  • 高学年:自分の特徴を知って、短所を改め長所を伸ばすこと

中学年は、前向きな自己形成にフォーカスする段階だ。短所の修正よりもまず、長所をどう自覚し、どう伸ばすかにエネルギーを向ける。短所と本格的に向き合うのは高学年からで、中学年は「長所を伸ばす中で結果として短所も整う」というアプローチをとる。


道徳科の評価で見る学びの姿

道徳科では、他教科のように数値で到達度を測る評価は行わない。学習指導要領解説でも、道徳科の評価について次のように示されている。

数値などによる評価は行わない

その代わりに、授業の中で子どもの考えがどう動いたかを見取る。特に大切なのは、次の二つである。

一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか

道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか

この内容項目の中学年のねらいは、次の文言に表れている。

自分の特徴に気付き,長所を伸ばすこと。

この授業では、次の姿を見取りたい。

  • 多面的・多角的に考える姿:長所と短所、得意と苦手、友達から見える自分など、複数の見方から自分の特徴を考えている。
  • 自分との関わりで考える姿:比較や優劣ではなく、自分のよさをどう伸ばしたいかを自分の生活と結び付けている。

長所探しを褒め合いで終わらせず、自分の特徴を多面的に受け止めて伸ばす学びにする。


中学年の発達特質——「特徴を多面的に捉える」

学習指導要領解説は、中学年の児童の姿をこう描く。

この段階における自分の特徴に気付くということは,自分の長所だけでなく短所についても気付くことであり,特徴を多面的に捉えることである。その上で,自分の特徴である長所の部分を更に伸ばしていきながら,自分の個性に気付くようにすることが求められる。

ここで重要なのは、短所も含めて「自分の特徴」として捉える視点である。

「うっかり者」「のんびり屋」「すぐに泣いてしまう」——こうした特徴は、低学年では「直しなさい」と言われがちだ。しかし中学年では、これらを「あなたらしさの一部」として受け止める姿勢が求められる。短所は単独で存在するのではなく、長所と表裏をなしている。「のんびり屋」は「丁寧」と裏返せるし、「すぐに泣く」は「感受性が豊か」と裏返せる。

3年生の子に必要なのは、特徴を取り除く視線ではなく、特徴を活かす視線である。


指導の重点

1. 長所と短所を「両面」として捉える

授業では、以下のような問いを軸にする。

  • 自分の好きなところは何か
  • 自分が直したいと思っているところは何か
  • その「直したいところ」は、見方を変えるとどんな長所になるか

短所だけを取り上げると自己肯定感を下げる。長所だけを取り上げると現実感を失う。両面をセットで扱うことが、中学年の鉄則である。

2. 「他者の目」を借りて自分を見つめる

解説のもう一つの軸は、他者との交流である。

友達など他者との交流の中で互いを認め合い,自己を高め合える場を設定したりして,長所を伸ばそうとする意欲を引き出すことが大切である。

中学年で「自分のいいところ」を一人で考えても、見つかりにくい。「友達はあなたのこういうところがいいと言っているよ」——他者の目を借りて自分を見つめる経験が、確かな気付きを生む。

ペアやグループで「お互いのいいところ」を伝え合う活動は、書いてもらったメモを子どもが大事に持ち帰る姿に表れるように、心の深い部分に届く。教師がいくら言葉を尽くすより、同じ教室の友達からの一言が効くことがある。

3. 「比較」から「多様」へ視点を切り替える

中学年は、ともすれば「速さ・上手さ・点数」で互いを序列化し始める時期でもある。だからこそ、「個性は比較するものではなく、味わうもの」という観点を意識的に伝えたい。

足が速い子もいれば、絵が緻密な子もいる。声が大きい子もいれば、観察が鋭い子もいる。「いる」ことそのものが多様であり、序列の問題ではない。この感覚を、3年生のうちに教室の文化として根付かせたい。

4. 「伸ばす」を行動化する

「長所を伸ばす」は、気持ちだけでは終わらない。

  • 得意な計算を、もう少し難しい問題でやってみる
  • 絵が好きなら、家で1日10分続けてみる
  • 話を聞くのが上手な子は、係活動で生かす

長所は使うほど伸びる。気付いた長所を、日常の小さな行動につなぐ仕掛けが必要だ。学級活動や係活動と連動させると、伸ばす場が自然に確保できる。


関連する内容項目

  • 希望と勇気、努力と強い意志(A⑤):長所を伸ばすには、続ける力が必要。気付きが行動に変わるための支え。
  • 相互理解、寛容(B⑪):互いの違いを認め合う関係が、個性を伸ばす土壌になる。
  • 友情、信頼(B⑩):友達からの肯定的なフィードバックが個性の気付きを支える。
  • 節度、節制(A③):自分を知ることは、自分の限界を知ることでもある。

特に相互理解と個性の伸長は、中学年で最も連動しやすい組み合わせだ。「自分が認められる」経験と「他者を認める」経験は、教室の中で同じ瞬間に起こる。


授業のヒント——「自分の取扱説明書」を書く

中学年の発達特質に合う活動として、「自分の取扱説明書」がある。

  • わたしの好きなこと
  • わたしが得意なこと
  • わたしが苦手だと思っていること
  • わたしと仲よくするコツ
  • わたしを元気にする言葉

子どもは「短所」と書くと身構えるが、「苦手」「コツ」という言葉なら自然に書ける。書き上げたら友達と交換して、「ここ、すごいね」「こういうところがあるよ」と互いに付け足してもらう。

自分が知らなかった自分が、教室の中から返ってくる。これが個性の伸長の出発点になる。

授業の発問例も挙げておく。

  • 「あなたが自分を好きだなと思う瞬間は、どんなときですか」
  • 「あなたの苦手なところは、どんなときに長所として働きそうですか」
  • 「友達の○○さんのよいところは、どんなところですか」

他教科・他領域との連動

  • 国語:自己紹介の文を書く活動、伝記教材で「あの人の長所」を分析する活動。
  • 特別活動:係活動・委員会活動で、自分の得意を生かす場を確保する。
  • 体育・図工・音楽:それぞれの教科で「得意」が異なる児童が輝く場を、意識的に評価する。
  • 学級経営:教室の壁面に「友達のいいところ」を残す掲示を作ると、肯定的な相互評価の文化が継続する。

道徳の授業だけで個性は伸びない。日常の評価と声かけが、長所を伸ばす土壌である。


教師として残しておきたいこと

私はこれまで、農業・Web開発・通信制大学での学び直しと、異なる分野を渡ってきた。そのどの場面でも、自分の中の同じ特徴がある時は短所として、ある時は長所として働くことを何度も経験した。

たとえば「思い込みやすさ」は、新しい分野で粘り強く取り組むときの推進力にもなれば、視野を狭める落とし穴にもなる。特徴は、状況によって長所にも短所にもなる——これは中学年にも伝わる、大切な真理だ。

46歳でこれから教壇に立つ私自身、「年齢的に遅い」という短所にも見える特徴を、「人生経験が厚い」という長所として活かしていくしかない。子どもたちにも、自分の特徴を否定するのではなく、活かす道を一緒に探していく姿勢で関わりたい。

「あなたの特徴は、これから何度もあなたを助けてくれるよ」——3年生の子に、そう語りかけたい。


指導のポイント(実習用メモ)

  1. 長所と短所の両面を一緒に扱う——どちらか一方に偏らない
  2. 他者の目」を借りる活動を必ず入れる
  3. 比較・序列化を避け、多様性を価値として位置付ける
  4. 短所を直す指導ではなく、長所を伸ばす指導に重心を置く
  5. 気付きを行動につなぐ仕掛けを学級活動と連動させる
  6. 教師自身が全員の長所を語れる準備をしておく
  7. 自己肯定感が低い子に対しては、教師から先に具体的な肯定を渡す
  8. 高学年での「短所を改める」段階への橋渡しを意識する

まとめ——個性は「伸ばすもの」になる

3年道徳の「個性の伸長」は、自分という存在を多面的に見つめ直す時間だ。

  • 長所と短所は表裏一体——両面で捉える
  • 自分一人では気付けない——他者の目を借りる
  • 比較ではなく多様の視点で——序列化を避ける
  • 気付きで終わらせず、行動につなげる
  • 学級全体の文化として、認め合う関係を作る

中学年は、他者と比較して自分を値踏みする視線と、自分の固有性を信じる視線が、せめぎ合う時期だ。教師の役割は、後者の視線をそっと支えることに尽きる。「あなたはあなたでいい」だけでは弱い。「あなたのこの長所は、こう伸ばせる」と具体的に手渡せる教師でいたい。

実習でこの単元を扱うなら、事前に学級の児童一人一人のよいところを書き出しておくことを勧めたい。授業の中で迷ったとき、教師の手元にあるその一覧が、子どもへの確かな声かけを支えてくれる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編(文部科学省, 2017)の第3章第2節、および第5章「道徳科の評価」を基に執筆しています。

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