発問はクエリである——算数の「問い方」が思考の質を決める

目次

「3+5はいくつ?」は何を引き出しているか

「3+5はいくつ?」

教室でよく聞く発問だ。子どもは「8!」と答える。正解。次の問題へ進む。

しかし、この発問が子どもの頭の中で実行した処理は何だったのか。記憶の中から「3+5=8」を検索し、返した。それだけだ。データベースで言えば、SELECT answer FROM memory WHERE question = '3+5' というクエリを投げ、一行のレコードが返ってきた。

これは検索であって、思考ではない。

では、同じ足し算について、こう聞いたらどうなるか。

「3+5が8になるのは、どうしてだと思う?」

子どもは止まる。「どうしてって……3と5を合わせたから」。でも、その先を考え始める子もいる。「3つと5つを並べて数えたら8だったから」「5の次から3つ数えたら8になるから」「10から2を引いても8だから」。

同じ「3+5=8」でも、発問が変われば、返ってくるデータの構造がまったく違う。最初の発問は答えという単一値を返す。二番目の発問は考え方という構造データを返す。

発問は、子どもの思考に投げるクエリだ。そして、クエリの書き方が、返ってくるデータの質を決める。


学習指導要領が求めている「問い」

学習指導要領(算数編)を読むと、算数の授業が目指しているのは「答えが出せること」ではないことがわかる。

日常の事象を数理的に捉え,算数の問題を見いだし,問題を自立的,協働的に解決し,学習の過程を振り返り,概念を形成するなどの学習の充実を図ること。
——小学校学習指導要領解説 算数編(平成29年告示)

ここには「答えを出す」とは書かれていない。「問題を見いだす」「振り返る」「概念を形成する」と書かれている。

つまり、学習指導要領が描く算数の授業は、こういう流れだ。

  1. 日常の事象から問題を見つける
  2. 見通しをもって自分で解決に取り組む
  3. 解決の過程を仲間と共有し、比較する
  4. 学習を振り返り、概念として整理する

この4つのステップのすべてで、教師の発問が鍵を握る。しかし、必要な発問の「型」はステップごとにまったく違う。


4つのクエリ型

データベースの世界には、用途の異なるクエリがある。データを取り出すSELECT、新しいデータを作るINSERT、既存のデータを更新するUPDATE、データを結合するJOIN。

算数の発問も、目的に応じて4つの型に分けられると私は考えている。

① SELECT型——事実を確認する

SELECT answer FROM memory WHERE question = '7×8'

「7×8はいくつ?」「三角形の内角の和は何度?」

知識や既習事項を検索させるクエリだ。答えは一つ。処理は軽い。しかし、これだけでは思考は動かない

SELECT型は、授業の起点として使う分にはよい。「みんな、分数の足し算のやり方を覚えている?」と既習を確認してから新しい課題に入る——いわばウォーミングアップだ。問題は、授業がSELECT型の発問だけで終わることだ。

② INSERT型——新しい考えを生み出す

INSERT INTO ideas VALUES ('あなたの考え')

「この問題、どうやって解けそう?」「ほかにやり方はないかな?」

子どもの中にまだ存在しないデータを生成させるクエリだ。答えは一つとは限らない。正解・不正解の判定もすぐにはしない。

学習指導要領が「見通しをもって数学的活動に取り組む」と言っているのは、このINSERT型の発問を授業の中核に据えよということだ。子ども自身が「こうすればできそうだ」という見通しを自分で立てる。その見通しが間違っていてもいい。「見通しを立てる」という行為そのものが、主体的な学びの出発点だ。

③ UPDATE型——考えを更新する

UPDATE my_thinking SET method = 'new_method' WHERE method = 'old_method'

「さっきの考えと今の考え、何が変わった?」「○○さんの意見を聞いて、どう思った?」

すでに子どもの中にある考えを、他者の考えや新しい情報によって更新させるクエリだ。これが「対話的な学び」の核心にある発問だ。

学習指導要領は、対話的な学びについてこう述べている。

数学的な表現を柔軟に用いて表現し,それを用いて筋道を立てて説明し合うことで新しい考えを理解したり,それぞれの考えのよさや事柄の本質について話し合うことでよりよい考えに高めたりする

「よりよい考えに高める」——これはまさにUPDATE処理だ。古い考えを消すのではなく、新しい情報を取り込んで更新する。そのために、教師は子どもの考えを「比較」させる発問を投げる必要がある。

④ JOIN型——異なるデータをつなぐ

SELECT * FROM today_lesson JOIN previous_lesson ON concept

「これ、前に学んだ何かに似ていない?」「この考え方、算数以外でも使えそう?」

既知と未知をつなぐクエリだ。統合的・発展的に考える力を引き出す。

「前に習った面積の求め方と、今日の体積の求め方、似ているところはどこ?」——こう聞くと、子どもは2つの概念を頭の中で並べ、共通する構造を探し始める。これは算数で言う類推であり、学習指導要領が全学年を通じて重視している思考法だ。


発問の「実行順序」——SELECT → INSERT → UPDATE → JOIN

4つのクエリ型は、授業の中で実行する順序がある。

大学の図画工作科の授業で、砂遊びの発問計画を作ったことがある。そのとき整理したのが、「気づき → 発展 → 共有 → 再構成」という発問の流れだった。教科は違うが、この構造は算数にもそのまま当てはまる。

授業の段階発問の流れクエリ型算数での例
導入既習の確認・問題の把握SELECT「分数の足し算、どうやるんだった?」
展開前半見通しを立てる・自力解決INSERT「この問題、どうすれば解けそう?」
展開後半考えの比較・練り上げUPDATE「AさんとBさんのやり方、どこが違う?」
まとめ既習とのつながり・振り返りJOIN「今日の学びは、前に学んだ何と似ている?」

重要なのは、SELECT型だけで授業を終わらせないことだ。

「答えは何ですか?」→「8です」→「正解です」→ 次の問題。これはSELECTの無限ループであり、INSERT・UPDATE・JOINが一度も実行されていない。子どもの思考データベースに、新しいレコードが一件も追加されないまま授業が終わる。


「間違い」を引き出す発問

前回の記事で、子どもの間違いはエラーログだと書いた。エラーログを読むことで、その子の思考回路が見える。

しかし、エラーログは出力されなければ読めない。子どもが間違いを出さない授業——正解だけが飛び交う授業——では、教師は子どもの思考を見ることができない。

だからこそ、あえて間違いを引き出す発問が必要になる場面がある。

「1/2+1/3、だいたいどのくらいになると思う?」

この発問は、正確な計算を求めていない。概算——つまり数感覚を使った見積もりを求めている。子どもの反応は分かれる。

  • 「1くらい?」→ 量の感覚がある。1/2が半分、1/3が3分の1、合わせて半分より大きいという直感が働いている。
  • 「2/5?」→ 分母と分子をそれぞれ足している。ここにエラーログがある。

後者の子どもに対して、「2/5って半分より大きい? 小さい?」と返す。「半分より小さい……」「でも、1/2はすでに半分だよね。それに1/3を足したのに、半分より小さくなる?」

この問い返しが、UPDATE型のクエリだ。子どもの中にある「分母と分子をそれぞれ足す」というデータを、「量の感覚で検証する」という新しいロジックで更新する。

学習指導要領が繰り返し述べている「見通しをもって取り組む」とは、計算する前に結果を予想することでもある。概算の発問は、その見通しを子どもの中に作り出す。


「問い返し」——クエリの再帰処理

発問には、教師から子ども全体に投げる「一斉の発問」と、個別の子どもの発言を受けて返す「問い返し」がある。

問い返しは、プログラミングで言えば再帰処理だ。子どもの出力を入力として受け取り、もう一段深い処理を実行させる。

子どもの発言問い返しの例引き出したい思考
「8になった」「どうやって8になったの?」手順の言語化
「足したから」「何と何を足したの?」操作の具体化
「3と5を足した」「ほかのやり方でも8になるかな?」方法の多様性
「10から2を引いても8」「足し算と引き算で同じ答えになるのはなぜ?」構造の理解

一つの発言から、問い返しで4段階も思考を深められる。最初の「8になった」は単なるSELECTの結果だ。しかし、問い返しを重ねることで、INSERT(新しい方法を考える)→ UPDATE(足し算と引き算の関係に気づく)→ JOIN(演算の構造をつなげる)と、思考が深まっていく。

大学の図画工作科の発問計画を作ったとき、「子どもの言葉を受けて問い返すことで、自らの遊びを『言葉にする → 深める』体験につながる」 と整理した。教科は違っても、問い返しの本質は同じだ。子どもの出力を、次の入力にする。

ただし、注意点がある。問い返しすぎると、子どもは「正解を探られている」と感じる。問い返しは思考を深めるためのツールであって、尋問ではない。大学の発問計画で「問いすぎず、でも流さず」と書いたのは、この塩梅の難しさを感じていたからだ。


「沈黙」もクエリの一部

発問を投げて、子どもが黙る。教室に沈黙が流れる。

教壇に立ったことがない私でも、この沈黙が怖いだろうことは想像がつく。つい「ヒントを出そうか?」「わからない人?」と声をかけたくなる。

しかし、沈黙は処理中のサインだ。

コンピュータがクエリを実行しているとき、画面には何も表示されない。しかし内部では、データの検索、条件の照合、結果の生成が行われている。子どもの沈黙も同じだ。頭の中で、既知の情報を検索し、新しい考えを組み立て、言葉にする準備をしている。

その処理を、教師が途中でキャンセルしてしまったらどうなるか。子どもは「自分で考えなくても、待っていればヒントが来る」と学習する。次からは、発問が来ても処理を開始しなくなる。タイムアウトを待つクライアントになってしまう。

学習指導要領は「児童が見通しをもって取り組むことで主体的な学習が実現する」と述べている。見通しを立てるには時間がかかる。沈黙は、主体的な学びの処理時間だ。

もちろん、沈黙が長すぎれば助けが必要だ。しかし、その助けも「答えを教える」のではなく、「考えるための足場をかける」発問であるべきだ。

「どこまではわかっている?」「何がわかれば解けそう?」

これは、フリーズしたプログラムのデバッグと同じだ。どこまで処理が進んでいるかを確認し、止まっている箇所を特定する。


農業で学んだ「問いの質」

農業をやっていた頃、うまくいかない場面で自分に投げる問いの質が変わっていった。

最初の頃は、「なんでうまくいかないんだ?」と漠然と問うていた。これは、条件を指定しないSELECT文だ。SELECT * FROM problems ——全件返ってきて、何も絞り込めない。

経験を積むうちに、問い方が変わった。「土壌のpHはいくつだ?」「日照時間は足りているか?」「前回と今回で変えたのはどこだ?」——条件を絞ったクエリを投げるようになった。SELECT cause FROM problems WHERE category = '土壌' AND timing = '定植後2週間' ——こうすれば、原因が見えてくる。

教師の発問も同じだと思う。

「わかった人?」という発問は、条件を指定しないSELECTだ。わかった子だけが手を挙げ、わからない子は黙る。教師にとって有用な情報はほとんど返ってこない。

「この式のどこがおかしいと思う?」「Aさんのやり方とBさんのやり方、結果が同じになるのはなぜ?」——条件を絞った発問を投げれば、子どもの思考の特定の部分にアクセスできる。返ってくるデータの質が変わる。

発問の質は、授業の質を決める。


「答え」を聞く前に「予想」を聞く

大学の算数科教育法で学んだことの中に、分数や小数の指導で「なぜその計算が必要なのか」を子ども自身に気づかせるアプローチがあった。

たとえば、通分。「1/2+1/3を計算しなさい」と指示するのではなく、「1/2リットルのジュースと1/3リットルのジュースを合わせたら、どのくらいになると思う?」と聞く。

この 「どのくらいになると思う?」 が、INSERT型の発問だ。正確な計算ではなく、予想——つまり見通しを立てさせている。

子どもが「だいたい1リットルくらい?」と予想したとする。そこで通分の手順を教え、計算すると5/6。「予想と比べてどうだった?」——これがUPDATE型の発問だ。予想と結果を照合し、自分の感覚を更新させる。

学習指導要領が述べている「見通しをもって取り組み、振り返ること」とは、この予想 → 実行 → 照合のサイクルのことだ。プログラミングで言えば、テスト駆動開発(TDD)に近い。期待される結果を先に定義し、実装してから結果を検証する

発問の設計とは、このテストケースを先に書くことに似ている。子どもに何を考えさせたいか(期待される思考)を先に定義し、それを引き出す発問(テストケース)を設計する。そして、子どもの反応(実行結果)を見て、次の発問を決める。


「良い発問」は準備の中にある

ここまで書いてきて、一つ確信していることがある。

良い発問は、授業中にひらめくものではない。

「どう聞けば子どもの思考が動くか」を授業中にリアルタイムで考えるのは、経験豊富な教師でも難しいだろう。ましてや、これから初めて教壇に立つ私には不可能に近い。

しかし、事前に設計することはできる。

  • この場面では何を考えさせたいのか(クエリの目的)
  • どんな発問を投げるのか(クエリの構文)
  • 子どもはどう反応するか(想定される返り値)
  • 想定通りの反応が来たらどう返すか(正常系の処理)
  • 想定外の反応が来たらどう返すか(例外処理)

これは、まさにクエリの設計書だ。そして、大学の図画工作科で作った発問計画は、まさにこの形だった。教師の発問、児童の想定反応、教師の応答——この3列の表を事前に作っておくことで、授業中の発問が「アドリブ」から「設計」になる。

初等教科教育法(算数)のレポートで「数学的活動を充実させることが重要」と書いたとき、具体的にどうすればいいのかがまだ見えていなかった。今なら言える。数学的活動を充実させる鍵は、発問の設計にある


まだ一度も発問したことがない私が考えること

教育実習まで約2ヶ月。実際に子どもの前で発問したことは、まだ一度もない。

教科(算数)で分数の指導法を学んだ。小数のわり算の指導案を書いた。初等教科教育法で算数の意義を論じた。図画工作科で発問計画を作った。

これらの学びの中で繰り返し浮かんできたのは、「教師が何を教えるか」ではなく「子どもに何を考えさせるか」という視点だった。そして、子どもに考えさせるための道具が、発問だ。

学習指導要領は、算数科で「数学的な見方・考え方を働かせながら、数学的活動を通して、数学的に考える資質・能力を育成する」ことを目標に掲げている。この目標の中に「教師が教える」という動詞は出てこない。「働かせる」「通して」「育成する」——主語は子どもの側にある。

教師の仕事は、知識を渡すことではなく、思考を起動するクエリを投げることなのだと思う。

そして、そのクエリの精度は、準備と経験で上がっていく。最初は粗いクエリしか書けなくても、子どもの反応というログを読み、次のクエリを修正していけばいい。

農業で土壌と対話しながら問いの質を上げていったように。プログラミングでバグと向き合いながらクエリを磨いていったように。教室でも、子どもの思考と対話しながら、発問の精度を上げていきたい。


本記事は、小学校学習指導要領解説 算数編(平成29年告示)、大学での算数科教育法・初等教科教育法(算数)・図画工作科教育法の学習内容をもとに執筆した。

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