□は何の記号か
「おはじきが何個かあります。5個もらったので、合わせて12個になりました。はじめに何個あったでしょう?」
2年生までの子どもなら、12 − 5 = 7 と解いてしまうだろう。答えは合っている。しかし 3年生では、この問題を次のように式に表す訓練をする。
□ + 5 = 12
□ は「まだ分からない数」を表す記号だ。
学習指導要領のねらい
学習指導要領(A(7)数量の関係を表す式):
知識及び技能
- ア 数量の関係を表す式について理解するとともに、数量を□などを用いて表し、その関係を式に表したり、□などに数を当てはめて調べたりすること
思考力、判断力、表現力等
- ア 数量の関係に着目し、数量の関係を図や式を用いて簡潔に表したり、式と図を関連付けて式を読んだりすること
この単元のポイントは、未知数(まだ分からない数)を記号で表すこと、そして逆思考の問題を式で扱えるようにすることだ。
逆思考の問題とは
学習指導要領はこう述べている。
第3学年では、逆思考になるような問題の解決において、未知の数量を□として式に表したり、□に当てはまる数の求め方を図に表したりして考察させる。
逆思考の問題とは、「結果」から「始まり」を推測する問題のこと。
順思考:「りんごが7個あります。5個もらうと何個?」→ 7 + 5 = 12
逆思考:「りんごを何個か持っていて、5個もらったら12個になった。はじめは何個?」→ □ + 5 = 12
順思考は、左から右に時間が流れる。逆思考は、右(結果)から左(始まり)へ時間を遡って考える必要がある。
この「時間を遡る思考」は、子どもにとって意外と難しい。まず問題文通りに立式してから、逆算で□を求めるというステップが、逆思考を整理する手立てになる。
□は「変数」への入口
数学的に見れば、□は未知数を表す記号だ。つまり、中学で本格的に学ぶ文字式(x、yなど)の前段階にあたる。
学習指導要領はこう述べる。
□などの記号については、未知の数量を表す記号として用いる場合と変量を表す記号として用いる場合とに大きく分けられる。第3学年では、未知の数量を表す記号として用いる場合を中心に指導し、□などの記号を用いて立式することができるようにする。
「未知数」と「変数」は似て非なるもの。
| 記号の役割 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 未知数 | まだ分からない特定の値 | □ + 5 = 12 の □ は 7 |
| 変数 | 変化する値 | □ × 2 = △ で □ が変われば △ も変わる |
3年生では主に未知数として□を使う。4年生以降、□ → △ → a、b → x、y と、記号が徐々に抽象化されていく。
3年生の□は、「中学の x」の遠い祖先だ。
□を求める3つの方法
学習指導要領は、□を求める方法を3つ示している。
□に当てはまる数を調べることについては、例えば、□+8=17という式について、□の中に1、2、3、…と順に数を当てはめていく方法、およその見当を付けて8、9と当てはめていく方法などがある。さらに、手際のよい方法として、四則計算の相互の関係を基に逆算で求める方法がある。
方法①:総当たり
□ + 8 = 17 の□に、1、2、3、…と順に入れて試す。9を入れたときに成立する。
これはプログラミングで言うブルートフォース(総当たり探索)だ。確実だが非効率。
方法②:見当をつけて当てはめる
「8に何かを足して17になる。たぶん9あたりだろう」と予測する。
これは二分探索や経験則による推定に近い。見積りと関連する思考だ。
方法③:逆算
□ + 8 = 17 → □ = 17 − 8 → □ = 9
これが最も効率的。四則の相互関係を使って、一発で□を求める。
四則の相互関係
3年生の□を使った式の学習では、たし算とひき算、かけ算とわり算の相互関係を深める。
| 元の式 | 逆算 |
|---|---|
| □ + 8 = 17 | □ = 17 − 8 = 9 |
| □ − 5 = 12 | □ = 12 + 5 = 17 |
| □ × 4 = 24 | □ = 24 ÷ 4 = 6 |
| □ ÷ 3 = 7 | □ = 7 × 3 = 21 |
たし算の逆はひき算、かけ算の逆はわり算——四則の相互関係だ。
これは3年生で初めて出会う「わり算はかけ算の逆算」という見方とも深くつながっている。□を求める作業を通して、四則の構造的な関係が体感的に理解される。
式と図の関連付け
学習指導要領は、式と図を関連付けることを重視している。
図に表された数量の関係を読み取ってそれを式に表したり、式に表された数量の関係を読み取ってそれを図に表したりする数学的活動を通して、式と図を関連付けることができるようにすることが大切である。
テープ図や線分図を使うと、逆思考の問題が視覚化される。
「□ + 5 = 12」のテープ図:
┌──────────┬─────┐
│ □ │ 5 │ ← 合計 12
└──────────┴─────┘
図を見れば「12から5を引けば□が分かる」ことが一目瞭然。抽象的な式と具体的な図を往復することで、数量関係の理解が深まる。
□は「一つの数量」を表す
学習指導要領の重要な記述:
このような活動に十分に取り組ませていく中で、□の表す数が9であるということだけでなく、□+8という式そのものが17という一つの数量を表しているとみることができるようにすることが大切である。
つまり、「□ + 8」という式全体が、一つの数(17)を表しているという見方を育てる。
これは、代数への大きな一歩だ。式を「計算手順」としてだけでなく、「一つの量」として見る——中学の文字式ではこれが当たり前になる(「2x + 3」が一つの式=一つの量)。
3年生の□を使った式は、この「式を量として見る」感覚の原点になる。
指導のポイント(実習用メモ)
- 逆思考の問題文を丁寧に読み解く(順思考との違いを意識)
- 問題文のとおりに立式する(□+5=12 など)
- テープ図・線分図で式を視覚化する
- 総当たり→見当→逆算の3段階で□の求め方を身につける
- 四則の相互関係を繰り返し確認する
- 式全体を一つの量として見る感覚を育てる
- 逆算で答えを求めた後、元の式に当てはめて確かめる


まとめ——□は代数への入り口
3年生の「□を使った式」は、算数から数学への橋渡しの単元だ。
- 未知数を記号で表すという発想
- 逆思考の問題を式で扱う力
- 四則の相互関係の深化
- 式を一つの量として見る感覚
これらは、4年生の○や△、5年生の公式、6年生の文字を用いた式、そして中学の一次方程式——すべての代数的思考の原点になる。
□というただの四角い記号の裏には、「まだ分からないものに名前をつけて、関係を考える」という数学の根本的な発想が隠れている。
実習で教えるなら、「□ってなんだろう?」「なぜ□に数を入れられるんだろう?」という問いの時間を大切にしたい。記号の使い方を覚えさせるのではなく、記号に意味を与える瞬間を子どもに経験させたい。
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編(文部科学省, 2018)の第3章第3節「第3学年の目標及び内容 A(7)数量の関係を表す式」を基に執筆しています。


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