教室の中の「外国」
教室の机の上に、児童が広げた給食の献立表がある。「今日のスープに入っているじゃがいも、どこから来たか知ってる?」と聞くと、ある児童が「北海道」と答え、別の児童が「外国かもしれない」と言う。スーパーの野菜売り場にもラベルには「アメリカ」「メキシコ」「中国」と書かれている。
3年生になると、社会科で「わたしたちの市」を学び始める。商店街を歩けば外国人観光客に出会い、家の冷蔵庫を開ければ輸入食品が並んでいる。「外国」は教科書の中の遠い世界ではなく、自分たちの暮らしの中に確かにある——この実感が、3年生のどこかで芽生える。
道徳の「国際理解、国際親善」は、この生活の中の発見を、知的な関心へとつないでいく内容項目である。
学習指導要領のねらい——低・中・高の3段階
道徳科 内容項目 C 〔第3・4学年〕の文言は次の通り。
他国の人々や文化に親しみ,関心をもつこと。
低学年・中学年・高学年で、ねらいは次のように発展する。
- 低学年:他国の人々や文化に親しむこと
- 中学年:他国の人々や文化に親しみ、関心をもつこと
- 高学年:他国の人々や文化について理解し、日本人としての自覚をもって国際親善に努めること
「親しむ」は感覚的な近さ。「関心をもつ」は知ろうとする態度。「理解する」は知識と判断。中学年は、感覚から知性への橋渡しの時期である。「あの国、なんか好き」から「あの国は、どんな暮らしをしているんだろう」へと、関心の向きが変わっていく。
道徳科の評価で見る学びの姿
道徳科では、他教科のように数値で到達度を測る評価は行わない。学習指導要領解説でも、道徳科の評価について次のように示されている。
数値などによる評価は行わない
その代わりに、授業の中で子どもの考えがどう動いたかを見取る。特に大切なのは、次の二つである。
一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか
道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか
この内容項目の中学年のねらいは、次の文言に表れている。
他国の人々や文化に親しみ,関心をもつこと。
この授業では、次の姿を見取りたい。
- 多面的・多角的に考える姿:自国と他国の共通点や違い、文化の背景、人々の生活を複数の視点から考えている。
- 自分との関わりで考える姿:他国の文化に出会ったときの自分の感じ方を振り返り、関心をもって関わる姿を考えている。
違いを珍しがるだけでなく、他国の人々や文化に親しみ関心を広げる学びにする。
中学年の発達特質——「我が国と他国のつながり」への気付き
学習指導要領解説はこう示す。
我が国が様々な国々と関わりをもっていることに気付くようになる。また,自分たちの身の回りには我が国以外の多様な文化があることやそれらの文化の特徴などについて少しずつ理解や関心が高まってくる。
3年生は、社会科で身近な地域や市の様子を学ぶ中で、輸入食材、観光客、外国製品など、「日本と他国がつながっている事実」に気付き始める時期である。低学年までは「外国=遠い場所」だった世界観が、中学年で「外国=つながっている場所」へと変わる。
具体的な児童の姿としては、次のようなものがある。
- 「給食のキウイ、ニュージーランドって書いてある」と気付く
- 「○○さんのお父さん、英語と日本語が話せるんだよ」と教え合う
- 「ハロウィンって、もとは外国の行事なんでしょ?」と質問する
- カタカナ言葉が外来語であることに気付く
こうした素朴な気付きを、教師が「いいところに気付いたね」と価値づけることで、関心の芽が育つ。
指導の重点
1. 「共通点」と「相違点」の両方に目を向ける
解説の核心はここにある。
郷土や自国の文化と他国の文化との共通点や相違点などにも目を向けられるようにすることが大切である。その上で,それぞれのよさを感じ取らせることが求められる。
違いだけを強調すると「他国は変わっている」という印象になりやすい。共通点だけを強調すると「結局みんな同じ」と独自性が見えなくなる。両方を扱って、はじめて「違うけれど、それぞれにいいところがある」という認識に至る。
- 共通点の例:家族を大切にする、子どもの成長を祝う、季節の行事を楽しむ、食事を分かち合う
- 相違点の例:主食、あいさつの仕方、年中行事、住まいの形、衣服
授業では、まず共通点を引き出してから相違点を扱うと、児童は安心して違いに目を向けることができる。
2. 「自国の文化への愛着」と並行で扱う
解説は次のように示す。
他国の人々もそれぞれの文化に愛着をもって生活していることを理解させるなどして,更に他国の文化に関心や理解を深めさせ,親しませることが大切である。
他国の人々が自分たちの文化を大切にしているのと同じように、自分たちも日本の文化を大切にしている——この相互の鏡像が国際理解の基盤になる。「伝統と文化の尊重」と「国際理解、国際親善」は、本来セットで扱う内容項目である。自国愛が排他的にならず、他国尊重につながる回路を、中学年で作っておきたい。
3. 「身の回りの外国」を起点にする
地球儀を回して遠い国の話をする前に、自分たちの暮らしの中にすでにある他国を探す活動を入れたい。これは、国際理解を抽象論にしないための工夫だ。
- 食卓のもの:パン、パスタ、キムチ、餃子、チョコレート
- 道具・服装:ジーンズ、家電、文房具
- 言葉:カタカナ語の多くは外来語
- 行事:クリスマス、ハロウィン
- スポーツや音楽:サッカー、ピアノ
「もう、外国とつながっている」という実感が湧いてから、「その国の人たちはどんな暮らしをしているのだろう」と問いを広げる。
4. 「人」を主語にして語る
国際理解は、「国」だけを主語にすると遠い話になる。「その国に住んでいる人」を主語にすると、近い話になる。同じ年齢の子どもがその国にもいて、家族と暮らし、学校に通っている——この具体性が、関心を育てる。
関連する内容項目
- 伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度(C⑰):自国理解の土台。自国を知らずに他国は理解できない
- 公正、公平、社会正義(C⑭):国籍や文化で分け隔てしない態度の延長
- 相互理解、寛容(B⑪):自分と異なる意見・立場を受け入れる姿勢
- 生命の尊さ(D⑲):すべての人の生命の尊さは国境を越える
- 親切、思いやり(B⑥):言葉が通じなくても伝わる態度
国際理解は単独で完結する内容項目ではなく、これらの内容項目と織り合わせて指導するときに深まる。
授業のヒント
具体的な発問例を挙げる。
- 「自分の家の中で、外国から来たものはあるかな?」
- 「同じ『おはよう』でも、違う言葉があるって知ってる?」
- 「外国の友達ができたら、何を伝えたい?」
- 「日本のことを知らない人に紹介するなら、何を選ぶ?」
- 「違うところと、同じところ、どっちが多かった?」
活動例としては次のようなものがある。
- ワールド調べ学習:給食や家にあるものから、原産国を一つ選んで調べる
- あいさつコレクション:世界のあいさつを集めて掲示する
- 食の地図:世界の主食を地図に貼る
- 文化交流の手紙:架空の友達への手紙を書く(自分の好きな日本のものを紹介)
- 絵本・ドキュメンタリーの視聴:外国の子どもの一日を追う
教材選びでは、ステレオタイプを補強しないことに注意する。「○○国=××」という単純な図式ではなく、その国にも多様な暮らしがあることが分かる教材を選ぶ。
多文化的背景を持つ子への配慮
教室には、外国にルーツを持つ児童がいるかもしれない。「外国」を遠いどこかとして扱うと、その子が外側に置かれてしまう。「わたしたちのクラスにも、いろんなルーツがある」という前提で授業を組み立てたい。
- 当事者の子の文化を、本人が望まない形で取り上げない
- 通訳や代表のような役を、本人の同意なしに振らない
- 「ふつうは日本人は……」という言い方を避ける
- 教室の前提として、多様性が当たり前の風景になっている状態を作る
無理に取り上げて当事者性を背負わせるのではなく、当たり前の風景の一部として共有する——これが配慮の具体である。
「宗教」への配慮
学習指導要領解説には、宗教に関する但し書きがある。
宗教について,宗教が社会で果たしている役割や宗教に関する寛容の態度などに関しては,教育基本法第15条の規定を踏まえた配慮を行うとともに…
公立学校では、特定の宗教を支持・否定しない。一方で、世界の多くの人々の暮らしに宗教が深く関わっていることは、事実として伝えてよい。「いろんな祈りの形がある」「それぞれの大切な習慣がある」——尊重の姿勢で扱えば、児童は自然に受け止める。
教室には、無宗教の家庭も、特定の信仰を持つ家庭もある。どの家庭も否定されない言葉で語ることが、教師の役目である。
他教科・領域との連動
国際理解は、道徳の時間だけで完結する内容ではない。他教科・他領域と織り合わせて、年間の中で重ねて出会わせたい。
- 社会:身近な地域、世界の国々との結びつき、地図帳の使用
- 国語:外国の物語、外来語、世界の昔話
- 音楽:世界の歌、民族楽器
- 図画工作:世界の美術、伝統的な造形
- 外国語活動:あいさつ、簡単なやりとり、文化への興味
- 給食指導:世界の食文化、食材の原産地
- 特別活動:国際理解集会、ペンパル交流
- 学級経営:教室掲示に世界地図、外国にルーツを持つ友達がいる前提
特に外国語活動との連動は強い。英語の授業で出会う「あいさつ」「色」「数」を、道徳の時間に「その国にも、君と同じくらいの子が暮らしているんだよ」と語り直すと、外国語活動の意味も深まる。
教師として残しておきたいこと
私はこれまで、農業とWeb開発を通じて、国境を越えた人や物の流れに触れてきた。種子も技術も、国を超えてつながっている。野菜の品種は世界中で交換され、ソフトウェアは英語をベースに世界の開発者が手を加える。仕事の現場には、もう国境はほとんどない。
46歳で教員を目指す立場から見ると、3年生の児童たちが大人になる頃、世界はさらに近くなっているはずだ。だからこそ、「英語ができないとダメ」「外国に行かないとダメ」という方向ではなく、「自分の場所にいながら、世界に関心を持つ感覚」を育てたい。
世界は思っているよりずっと近い。その近さを楽しむ感覚と、違いを面白がる態度——この二つを、3年生のうちに育てておきたい。
指導のポイント(実習用メモ)
- 低・中・高の3段階のねらいを意識し、中学年では「関心をもつ」を軸に据える
- 共通点と相違点の両方を扱う。共通点を先に出すと安心して違いに目を向けられる
- 自国の文化への愛着と並行して扱い、「お互いの愛着」を相互理解の基盤にする
- 身の回りの外国から出発する。地球儀よりも、給食の献立表が入口になる
- 外国にルーツを持つ児童への配慮——教材・発問・教室掲示で、当たり前の風景に
- 宗教は教育基本法第15条を踏まえ、特定の信仰を支持・否定せず、尊重の姿勢で
- 「国」ではなく「人」を主語にして語る
- 外国語活動・社会・音楽との連動を年間計画に組み込む



まとめ——「親しみ」と「関心」を結ぶ時期
3年道徳の「国際理解、国際親善」は、暮らしの中の他国を、知的な関心に結ぶ時期の内容項目である。
- 低学年の「親しむ」から、中学年の「親しみ+関心」へ
- 共通点と相違点の両方を扱い、それぞれのよさを感じ取らせる
- 自国愛と他国尊重を、対立ではなく並行で扱う
- 身の回りの外国を起点に、生活の延長として国際理解を育てる
- 外国にルーツを持つ児童・宗教・家庭背景への配慮を欠かさない
- 国ではなく「人」を主語にして語る
中学年の児童は、目の前の世界を一度ぐっと広げてみる時期にある。その広げ方の最初の角度が、ここで決まる。違いを面白がり、共通点に安心し、その国にも自分と同じ子がいることに気付く——この感覚を、年間の中で繰り返し育てていきたい。
実習でこの単元を扱うなら、教科書の物語に入る前に、教室の中の「もうつながっている」を一つ見つけるところから始めたい。それだけで、児童の世界はぐっと近くなる。
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編(文部科学省, 2017)の第3章第2節、および第5章「道徳科の評価」を基に執筆しています。

