「うちら」が始まる時期
3年生の教室で休み時間を見ていると、いつの間にか同じ顔ぶれが集まっている。窓際の席のグループ、廊下に出て遊ぶグループ、図書室に向かうグループ。それぞれに自分たちの遊びがあり、合言葉があり、ちょっとした秘密がある。
「先生、これうちらの間だけの話だから言わないで」と耳打ちされることも増える。低学年の頃は誰とでも遊んでいた子が、急に「今日は○○ちゃんと約束してるから」と特定の友達を選びはじめる。これは決して悪い変化ではない。人間関係を主体的に作る最初の段階、いわゆるギャング・エイジの始まりである。
道徳の「友情、信頼」は、この自然に生まれる仲間集団を、閉じた群れではなく互いを理解し合える本当の友情へと育てる内容項目だ。3年生にこの単元を扱うのは、ちょうど「うちら」が立ち上がってくる時期だからこそ、意味がある。
学習指導要領のねらい——低中高で何が変わるか
中学年〔第3・4学年〕の文言はこうである。
友達と互いに理解し,信頼し,助け合うこと。
この一文の重みを、低中高の比較で見ておきたい。
- 低学年:「友達と仲よくし,助け合うこと。」
- 中学年:「友達と互いに理解し,信頼し,助け合うこと。」
- 高学年:「友達と互いに信頼し,学び合って友情を深め,異性についても理解しながら,人間関係を築いていくこと。」
低学年の「仲よく」は、いま一緒にいて楽しい関係である。中学年で加わる「互いに理解し」「信頼し」は、時間をかけて積み重ねていく関係を意味する。高学年になると、信頼の上に「学び合って友情を深め」が乗り、人間関係そのものを築いていく段階に進む。
中学年は、この「楽しい仲よし」から「理解と信頼の友情」への質的な転換期にあたる。ここを丁寧に踏ませることが、高学年でのより深い人間関係の土台になる。
道徳科の評価で見る学びの姿
道徳科では、他教科のように数値で到達度を測る評価は行わない。学習指導要領解説でも、道徳科の評価について次のように示されている。
数値などによる評価は行わない
その代わりに、授業の中で子どもの考えがどう動いたかを見取る。特に大切なのは、次の二つである。
一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展しているか
道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか
この内容項目の中学年のねらいは、次の文言に表れている。
友達と互いに理解し,信頼し,助け合うこと。
この授業では、次の姿を見取りたい。
- 多面的・多角的に考える姿:友達同士のすれ違い、助け合い、信頼を失う行動と取り戻す行動を複数の立場から考えている。
- 自分との関わりで考える姿:自分の友達関係を振り返り、相手を理解し信頼するためにできることを考えている。
仲よしでいることを超えて、互いに理解し信頼する関係を考える。
中学年の発達特質——「仲間集団とトラブル」
学習指導要領解説は、中学年の友達関係の特性をこう示している。
活動範囲が広がることで,集団との関わりも増え,友達関係も広がってくる。また,気の合う友達同士で仲間をつくって自分たちの世界を確保し,楽しもうとする傾向があり,集団での活動などがこれまでになく盛んになる。しかし,自分の利害にこだわることで,友達とトラブルを引き起こすことも少なくない。
この記述は、現場の感覚と非常によく一致している。中学年の友達関係は、密度が濃くなる分、衝突も増える。給食の準備が遅いと言って言い合いになる。ドッジボールの当たった当たらないでもめる。グループ活動の役割分担で「自分はやりたくない」と譲らない。
低学年の喧嘩は瞬間的で、休み時間が終われば忘れていることが多い。中学年の喧嘩は尾を引く。「あの時、ああ言ったから」という記憶が積み重なり、関係が崩れることもある。
トラブルそのものを悪と見るのではなく、友情を深めるための材料として教師が捉え直すこと。これが中学年の友情指導の構えだ。
指導の重点
1. 友達のよさを発見する場を意図的につくる
学習指導要領解説の核となる言葉が「友達のよさの発見」である。
友達のことを互いによく理解し,信頼し,助け合うことで,健全な仲間集団を積極的に育成していくことが大切である。そのためには,友達のよさを発見することで友達のことを理解したり,友達とのよりよい関係の在り方を考えたり,互いに助け合うことで友達の大切さを実感したりすることができるように指導することが大切である。
ギャング・エイジの仲間集団は、放っておくと閉鎖的になる。だからこそ、教師の側から仕掛ける必要がある。
- 帰りの会で「今日、友達のいいところを見つけた人」を毎日1分間だけ取り上げる
- 学期に一度「クラスのみんなのよいところカード」を交換する
- グループ活動の振り返りに「同じ班の人のよかったところ」の項目を入れる
「○○さんは絵を描くのが本当に丁寧」「△△くんは説明がわかりやすい」と言葉にする経験を、年間を通じて何度も積ませたい。
2. けんかと仲直りを学習材として扱う
中学年の友情の授業では、仲直りの場面を中心に据えるとよい。教材で扱う典型的な場面はいくつもある。
- けんかして口をきかなくなった
- 自分が悪かったと気付いたが、謝るのが恥ずかしい
- 友達から先に謝ってきた
- 仲直りはしたが、何かまだしっくりこない
子どもは「こういうこと、ある」と前のめりになる。ここで問うべき発問は、「仲直りした後、二人の関係はどう変わっただろう」である。
けんかを乗り越えた友情は、何もなかった友情よりも強くなる——この実感を、子どもの言葉で言わせたい。
3. 「閉鎖性」と「広がり」のバランスを意識する
ギャング・エイジは閉じやすい。だが、本当の友情は閉じる必要はない。「うちら」を大切にしながら、他の人にも開いていく関係を育てたい。
- 席替えやグループ替えをこまめに行う
- 普段あまり遊ばない子と協働する場面を意図的に設ける
- 「今日初めて話した人」を意識する活動を入れる
これは学級経営の話でもあるが、道徳の友情の指導と切り離せない。
4. 「助け合う」を具体の行動に落とす
「助け合う」という言葉は抽象的に響きやすい。3年生には、どんな行動が助け合いなのかを具体的に示したい。
- ノートを忘れた友達に見せてあげる
- 体調が悪そうな友達に「保健室行く」と声をかける
- 算数でつまずいている友達に教える、または一緒に考える
- 落ち込んでいる友達のそばに座る
特別なことではなく、毎日の小さな行動の積み重ねが助け合いだと理解させる。
関連する内容項目
- 善悪の判断、自律、自由と責任(A①):仲間集団の流れに対して「それは違う」と言える自律。友情を理由に悪事に巻き込まれない判断力の土台
- 正直、誠実(A②):友達に嘘をつかず、誠実に向き合う姿勢が信頼関係を支える
- 相互理解、寛容(B⑪):違いを受け入れる力が、表面的な仲よしを越えた友情を育てる
- 公正、公平、社会正義(C⑬):仲間外れを生まない友情の在り方。仲間優先の落とし穴と表裏の関係にある
特に「仲間集団 vs 公正」の緊張関係は、中学年の道徳指導の最大の課題の一つだ。友情と公正が衝突する場面(例:友達が悪いことをしているとき)こそ、子どもが本気で考える材料になる。
授業のヒント
発問例
- 「けんかしたあと、すぐに仲直りできる時とできない時の違いは何だろう」
- 「友達を助けるって、具体的にどういうことだろう」
- 「『うちら』のグループに入っていない友達のことを、自分はどれくらい知っているだろう」
- 「信頼できる友達と、ただ仲がいい友達は、何が違うだろう」
活動例
- 役割演技:けんかの場面を演じ、仲直りまでの心の動きを言葉にする
- 友達の長所カード作成:班内で交換し、自分の知らなかった一面を知る
- 「友情のものさし」:時系列で友情の深さの変化を線グラフにする
教材選びの注意点
中学年向けの教材は、仲間集団の中での葛藤を扱ったものを選びたい。「仲のいい友達と二人だけの時間を過ごしたいが、別の友達も誘うべきか」のような、複数の価値が衝突する場面のほうが、子どもの本音が出る。
他教科・領域との連動
- 国語:物語教材で登場人物同士の友情の変化を読み取る学習と接続できる。「ちいちゃんのかげおくり」のような友情を扱う作品で、関係性の変化を追う
- 学級活動:席替え、グループ決め、行事の役割分担など、子ども同士が関わる場面のすべてが友情指導の場である
- 体育:チームでのゲーム活動は、助け合いと協力を体感する絶好の機会。試合後の振り返りで「チームメイトの良かった動き」を共有する
- 総合的な学習の時間:地域の人や異年齢との関わりの中で、友情の輪が広がる経験を積ませる
道徳の時間だけで友情を育てることはできない。日常のあらゆる場面が道徳の時間だと捉えたい。
教師として残しておきたいこと
私自身を振り返ると、中学年の頃の友達は、いまも記憶に強く残っている。けんかも沢山したし、和解も沢山した。衝突を経た友情ほど、長く続いた。表面的に仲がよかっただけの関係は、いつの間にか自然消滅していった。
農業をしていた時期、近所の農家との関係でも同じことを感じた。意見が違うことがあって、何度もぶつかった。けれど、そのたびに話し合って互いの考えを知ると、関係が深くなった。衝突は関係を壊すものではなく、関係を深める材料になり得る——これは年齢を問わず通じる真理だと思う。
3年生に伝えたいのは、「けんかは、友達ではなくなる理由ではなく、もっと深く知り合うチャンスだよ」ということ。そして、助け合った経験は一生の財産になる、ということ。
46歳から教師を目指す立場として、自分が子どもたちに見せられる「友情」はこれまでの人生で築いてきた関係そのものだ。古い友人と今でも連絡を取り合っていること、仕事仲間と支え合ってきたこと——そういう自分の姿が、子どもにとって一つの参照点になればいい。
指導のポイント(実習用メモ)
- ギャング・エイジの仲間集団は健全な発達であると理解し、否定しない
- トラブルは友情を深める材料として、避けずに扱う
- 友達のよさを発見する場を年間を通じて何度も設定する
- 仲直りの場面を中心に教材を選ぶ
- 「うちら」を超えて開く経験を学級経営と連動させる
- 助け合いを具体の行動に落として伝える
- 仲間集団と公正の緊張関係を意識する
- 教師自身の友情の経験を、自然な形で語る
まとめ——仲間集団を本当の友情へ
3年道徳の「友情、信頼」は、自然に立ち上がる仲間集団を、健全な友情に育てる単元である。
- ギャング・エイジは人間関係を主体的に築く最初の段階
- 中学年の友情は密度が濃くなる分、衝突も増える
- 友達のよさの発見が、理解と信頼の入り口になる
- 仲直りの経験こそが、友情を深める
- 学級経営と切り離せない指導である
3年生のこの時期に「互いを理解する」経験を丁寧に積ませることが、高学年で扱うより深い人間関係の土台になる。教師は、トラブルを恐れて関わりを薄くするのではなく、トラブルが起きたときに一緒に考えるという構えで、子どもの友情の育ちに伴走したい。
実習でこの単元を扱うなら、教材の物語だけで終わらせず、子ども自身の経験を語らせる時間を必ず取りたい。「自分にもこんなことがあった」と語り出せる教室の空気こそが、道徳の学びを本物にする。



この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別の教科 道徳編(文部科学省, 2017)の第3章第2節、および第5章「道徳科の評価」を基に執筆しています。

