地図帳を初めて開く日
3年生の社会科で、子どもは地図帳を初めて手にする。表紙をめくると、見たことのない記号、矢印のついた円、細かい等高線——地図には独自の言語があることに気付く瞬間だ。
文章に文法があるように、地図にも文法がある。それが方位と地図記号だ。この2つを身に付けるかどうかで、地図帳が「面白い絵本」で終わるか、社会を読み解く道具になるかが決まる。
学習指導要領のねらい
3年社会(1)の「内容の取扱い」:
イ アのイについては、「白地図などにまとめる」際に、教科用図書「地図」(以下「地図帳」という。)を参照し、方位や主な地図記号について扱うこと。
つまり、地図記号と方位は、(1) の単元の中で白地図にまとめる活動と一体で扱うよう指示されている。孤立したドリルとして覚えさせるのではなく、地域を表現する道具として使う——これが指導要領の立場だ。
方位の指導
4方位を最初に
学習指導要領は次のように定めている。
方位については、四方位と八方位を扱う。その際、児童の実態等を考慮に入れ、最初に四方位を取り上げ、八方位については、ここでの学習も含めて第4学年修了までに身に付けるようにする。
まず4方位(東西南北)。8方位(北東・北西・南東・南西を加えた8方向)は4年修了までに身に付ければよい。3年で焦って8方位を完璧にする必要はない。
4方位の体感的導入
地図上の「北」を、いきなり抽象記号として教えるとつまずく。体で覚えるのが先だ。
- 朝の太陽が昇る方を東
- 夕方の太陽が沈む方を西
- 太陽が一番高くなる方を南(北半球)
- その反対が北
校庭に出て、自分の体で4方位を指さす経験から始めると定着が早い。教室の壁に「北↑」のシールを貼っておくのも効果的だ。
地図上の北は「上」
地図には方位記号(矢印に N が付いたマーク)が付いている。これがない場合、慣例として地図の上が北。
「上が北」を体で覚えさせるとき、地図を回転させて遊ぶといい。「北はどっち?」と問いながら、地図の向きを変える——方位は絶対方向で、地図の置き方ではないことを実感させる。
地図記号の指導
学習指導要領が示す主な地図記号
地図記号は、例えば、学校、警察署、交番、消防署、工場、神社、寺院、市役所、図書館、博物館、老人ホーム、郵便局、銀行などの金融機関、病院などの建物・施設に関するものや、田、畑、果樹園、茶畑、広葉樹林、針葉樹林などの土地利用に関するものを必要に応じて扱うようにする。
| 種類 | 主な記号 |
|---|---|
| 教育・文化 | 学校(文)、図書館、博物館 |
| 安全・行政 | 警察署、交番、消防署、市役所 |
| 生活・福祉 | 郵便局、銀行、病院、老人ホーム |
| 産業 | 工場、田、畑、果樹園、茶畑 |
| 信仰・歴史 | 神社、寺院 |
| 自然 | 広葉樹林、針葉樹林 |
すべてを暗記させる必要はない。地域の実態に合わせて必要なものを選ぶ——これが学習指導要領の立場だ。
記号の由来を語る
地図記号には由来がある。由来を語ると、ただの暗記ではなく意味のある記号になる。
- 学校(文)——文字を学ぶ場所だから「文」
- 消防署——昔の消火道具「刺又(さすまた)」の形
- 警察署(X に○)——交差した警棒
- 郵便局(〒)——逓信省(旧郵便所管庁)の「テ」を図案化
- 神社——鳥居の形
- 寺院(卍)——古代インドの吉祥のしるし
- 田——稲の刈り株
- 畑——畑に植える作物の双葉
- 果樹園——果実の形
- 茶畑——茶の実の形
「なぜこの形なのか」を一緒に考えるだけで、記号は記憶に残るストーリーになる。
記号を作ってみる
教科書の地図記号を覚えるだけでなく、自分で記号を作る活動も有効だ。
- 学校の図書室を表す記号は?
- コンビニを表すなら?
- 町の有名な大きな木を表すなら?
子どもは抽象化のセンスを発揮する。記号を作る経験は、地図記号が「意味を凝縮した絵」だと体で理解させてくれる。
方位と地図記号を「使う」
屋上から見る
学校の屋上や高い場所から自分たちの市を見渡す活動は強力だ。
- まず東西南北を体で確認
- 「北の方には何が見える?」「南の方は?」
- 見えた建物・地形を白地図に書き込む
- 適切な地図記号を貼る
3次元の景観を2次元の地図に変換する——これは大きな知的飛躍だ。地図記号と方位は、その変換の道具になる。
通学路を地図にする
家から学校までの通学路を、自分で地図にする活動。
- 「途中に郵便局があった→ 〒記号」
- 「神社があった→ 鳥居記号」
- 「曲がる方向は?北東?」
家庭学習にも繋げやすい。家の人と一緒に歩きながら方位を確認する子どももいる——家庭が学びの場になる瞬間だ。
縮尺の感覚(参考)
3年では縮尺の本格的な学習は4年以降になるが、地図帳を見る時に「この地図の長さは現実の何倍か」という意識は持たせたい。
- 教室の地図 ≒ 1/100 程度
- 通学路の地図 ≒ 1/5,000 程度
- 市の地図 ≒ 1/50,000 程度
- 都道府県の地図 ≒ 1/500,000 以上
縮尺が変われば、見える情報も変わる。3年では「地図の大きさで何がわかるかが違う」を感覚として持てれば十分だ。
つまずきと対応
つまずき1:「北が上」が定着しない
→ 地図を回して見せる、教室に方位シールを貼る、屋外で体感させる
つまずき2:似た記号の混同(神社⇔寺院)
→ 由来を語る(鳥居 vs 卍)、絵を比べさせる
つまずき3:地図記号を「ただの暗記」にする
→ 通学路で見つけた施設に記号を貼る、自分で記号を作らせる
つまずきは抽象記号としての地図に乗れていないサイン。体験と意味付けで乗り越える。
農業経験から——地図と現場のずれ
農業をしていた頃、地図に「田」と表示されていても、行ってみたらもう休耕地になっていることがあった。地図は更新が遅れることがある。地図を絶対視せず、現地で確かめる——これが地図利用の基本姿勢だ。
3年生にも、地図で見つけた施設を実際に見に行く機会を作りたい。「地図と現実を行き来する」経験が、地図を生きた道具として使う力を育てる。
Web開発者の視点——記号は圧縮された情報
Webアイコンも、情報を凝縮した小さな絵だ。歯車=設定、虫眼鏡=検索、家=ホーム——記号一つで意味が伝わる。
地図記号も同じ情報圧縮の装置。学校という建物を毎回絵で描いていたら地図は埋め尽くされる。「文」一文字で学校を表すから、地図全体が読める。
3年生で地図記号を学ぶことは、情報を圧縮して伝える文化に触れることでもある。
指導のポイント(実習用メモ)
- 方位は4方位から——8方位は4年修了まで
- 体で4方位——校庭で太陽と一緒に
- 地図の上が北——地図を回して実感
- 記号は由来とセット——意味のある暗記
- 記号を作る活動——抽象化のセンス
- 白地図にまとめる活動と一体で扱う
- 地図と現実を行き来する


まとめ——地図の文法を身に付ける
地図記号と方位は、3年社会の最初の技能であり、4〜6年の社会科、そして大人になってからの生涯にわたる地図利用の基礎になる。
- 4方位から始め、8方位は4年まで
- 体で方位を覚える
- 地図記号は由来と一緒に
- 自分で記号を作る経験も
- 白地図にまとめる活動と一体で
地図記号と方位を覚えただけでは、まだ地図は読めない。それを使って自分の市を白地図に表現するところまで来て、初めて地図の文法が身に付く。3年生のうちに、子どもの中に地図を読む目を確かに育てたい。
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編(文部科学省, 2018)の第3章第1節2(1)及び内容の取扱いを基に執筆しています。

