わり算には「二つの顔」がある——3年算数・除法の単元研究

目次

同じ式、違う意味

「12個のあめを3人で分けると、一人何個?」
「12個のあめを1人3個ずつ分けると、何人に分けられる?」

この2つの問題、答えはどちらも「4」だ。式もどちらも 12 ÷ 3 = 4

しかし、問題の意味は根本的に違う。

前者は「3人で分けたときの一人分」を求めている。
後者は「3個ずつ分けたときの人数」を求めている。

同じ式で表される2つの異なる場面——これがわり算の単元の核心であり、3年生が最初につまずくポイントでもある。


なぜ3年生でわり算なのか

わり算(除法)は、小学校では3年生で初めて登場する演算だ。

2年生までに、たし算・ひき算・かけ算は学習している。つまり、3年生のわり算で四則演算の全員が揃う。これは3年算数のハイライトの一つだ。

ではなぜ、わり算は3年生まで待たなければいけないのか。

答えはシンプルで、わり算はかけ算の逆算だから。九九を確実に身につけた後でないと、わり算は計算できない。

例えば「12 ÷ 3」を計算するとき、子どもは頭の中で「3 × □ = 12 の □ は?」と考えている。これは九九の逆引き検索だ。九九が不安定なうちは、わり算は動かない。

学習指導要領にも明記されている。

除数と商が共に1位数である除法の計算は、乗法九九を1回用いて商を求めることができる計算である。こうした計算は、今後指導する商が2位数の除法及び小数の除法の計算のためにも必要であり、確実に身に付けておく必要がある。

つまり 3年のわり算 = 九九の運用力。九九という辞書を引けるようになって初めて、わり算が使える。


等分除と包含除——2つの「分ける」

学習指導要領は、わり算が使われる場面を2種類に分けている。

等分除(とうぶんじょ)

「全体を等しく分けたときの、一つ分の大きさを求める」 場面。

例:12個のあめを3人に同じ数ずつ分けると、1人何個

  • 分ける「人数」は先にわかっている(3人)
  • 求めたいのは「1人分の量」

これは「山分け」の発想だ。日本語の「割り算」という言葉の語感に近く、子どもにとって最も自然に理解できる場面。

包含除(ほうがんじょ)

「ある数量が、もう一方の数量の幾つ分であるか」 を求める場面。

例:12個のあめを1人3個ずつ分けると、何人に分けられる?

  • 1人分の量は先にわかっている(3個)
  • 求めたいのは「人数(個数)」

これは「配り切る」あるいは「取り出し切る」の発想だ。12から3を繰り返し引いていく操作(累減)とも捉えられる。

2つを整理すると

等分除包含除
求めるもの1人分の量人数(何人分)
日本語として「分ける」「山分け」「配る」「何個ずつ取れる」
操作の容易さ少し複雑易しい(累減)
語感との一致「割り算」らしい「除く」らしい

面白いのは、どちらも同じ 12 ÷ 3 と書くという点だ。式の形は同じなのに、背景にある場面の構造が違う。

これはプログラミングで言うと、同じ関数シグネチャに異なるユースケースが重なっている状態に近い。関数 divide(12, 3) の戻り値は 4 だが、その 4 が「1人分」なのか「人数」なのかは、呼び出し側のコンテキストに依存する。


かけ算の逆算としての統一

等分除と包含除は、「かけ算の逆算」として統一的に捉えられる。

2年生で子どもたちは、かけ算を次のように学んでいる。

(1つ分の大きさ)× (幾つ分) = (全体の大きさ)

この式に当てはめると、わり算は次の2通りの「□を求める問題」になる。

求めるもの
等分除 × 3 = 121つ分の大きさ(□)
包含除3 × = 12幾つ分(□)

学習指導要領はこう述べている。

乗法は、(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)と捉えていたが、このとき(一つ分の大きさ)を求める場合が等分除で、(幾つ分)を求めることが包含除であると捉えることができる。このようなことを通して、除法が乗法の逆算であることを捉えられるようにしていく。

つまり、わり算を「新しい演算」として独立させずに、かけ算から連続的に導入するのが王道の指導法だ。ここで「かけ算とわり算は別物」と切り離してしまうと、子どもは九九の活用がうまくできなくなる。


「あまり」という新しい概念

3年生のわり算では、もう一つ新しい概念が登場する。あまりだ。

13 ÷ 4 = 3 あまり 1

これまでの演算(たし算・ひき算・かけ算)には「あまり」という概念はなかった。わり算にだけ、「割り切れない」場合の処理が必要になる。

学習指導要領は、あまりについて次のように説明している。

整数の除法 13÷4 は、カードを分ける操作で最大の回数や1人当たりの最大の枚数を求めることに当たっている。そしてそのときの余りの大きさは除数よりも小さくならなければならない。

ここで重要なのは、「余りは除数より小さい」というルールだ。なぜか。

もし「13 ÷ 4 = 2 あまり 5」と書いたとすると、あまりの5の中にまだ4がもう1回含まれているから、もう1回分けられるはず。つまり「あまりを最小にすること」は、「分ける操作を最後までやり切った」という意味になる。

これも実は、ループ終了条件の考え方に近い。while (amount >= divisor) { amount -= divisor; count++; } というループを考えると、ループを抜けたときの amount は必ず divisor より小さい。これがあまりだ。

日常場面でも重要だ。学習指導要領は「余りの処理については、商をそのまま答えとできない場合があり、日常生活の場面に即してより適切な答えを考える必要がある」と述べる。

例えば「35人の子どもを8人ずつのチームに分けるとき、何チームできる?」
35 ÷ 8 = 4 あまり 3
→ 答えは「4チームできて、3人余る」であり、「4.375チーム」ではない。

一方「30個のケーキを4人で分けると1人何個?」
30 ÷ 4 = 7 あまり 2
→ このあまり2も、文脈によっては「半分に切って0.5個ずつ」という処理になるかもしれない。

文脈によってあまりの扱い方を変える——これは高学年の「小数のわり算」や「割合」につながる大切な素地になる。


単位の考えを使ったわり算の工夫

3年生のわり算では、計算の工夫も扱う。学習指導要領の例を引くと:

80 ÷ 4 の計算

  • 80 を「10 が 8 個」と見る
  • 「8 ÷ 4 = 2」なので、答えは「10 が 2 個」= 20

69 ÷ 3 の計算

  • 69 を「60 と 9」に分ける
  • 60 ÷ 3 = 20、9 ÷ 3 = 3
  • 合わせて 23

この「単位を変えて計算する」発想は、2年生のたし算・ひき算の筆算でも使われてきた考え方の延長線上にある。

算数の学びは、このように既習の考え方を新しい計算に適用し直すことの繰り返しでできている。わり算が初めて出てきたときに、「既にあなたたちは同じ考え方を使ってきたよね」と接続できると、子どもの抵抗感はぐっと下がるはずだ。


指導のポイント(実習用メモ)

学習指導要領を読んでわかった、わり算の指導で意識すべき点をまとめておく。

  1. 九九の安定が前提。九九が不安定な子にはわり算の前に復習が必要
  2. 等分除と包含除の両方を経験させる。どちらか一方に偏らない
  3. 具体物・図・式をつなぐ。「12個のあめを3人で…」を実際に○を並べて分ける活動から始める
  4. かけ算の逆算として位置付ける。「□ × 3 = 12 の □」「3 × □ = 12 の □」で結びつける
  5. あまりは除数より小さいことを操作を通して納得させる
  6. あまりの処理は文脈次第であることを、日常場面で扱う
  7. ÷記号の意味と便利さを味わわせる

まとめ——「分ける」を数式化する初めての経験

わり算は、子どもにとって「日常の『分ける』を数式化する初めての経験」だ。

たし算は「合わせる」、ひき算は「取り去る」、かけ算は「同じものが何回分」——これらは比較的単純な1つのイメージを持つ。しかしわり算は、同じ式の裏に「山分け」と「配り切る」という2つの顔があり、さらに「あまり」という新概念までついてくる。

3年生がわり算でつまずくのは、ある意味当然だ。だからこそ、等分除・包含除・余り・逆算・単位の考え——これらを一つひとつ、具体物と図と式を行き来しながら積み上げていく指導が必要になる。

教育実習で6月にこの単元を任されたら、まずは「12個のあめを分ける」という場面を、2通りの問い方で子どもに体験させるところから始めたい。同じ式でも違う意味がある——その気づきを、実物の操作から引き出す授業を組み立てたい。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編(文部科学省, 2018)の第3章第3節「第3学年の目標及び内容 A(4)除法」を基に執筆しています。

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