筆算は「アルゴリズム」だ
568 + 437 を暗算でやろうとすると、大人でも迷う。しかし紙に縦に並べて書けば、誰でも同じ手順で答えにたどり着ける。
これが筆算だ。筆算は位ごとに計算するというアルゴリズムの実装であり、十進位取り記数法の最大のメリットを引き出す仕組みだ。
3年生のたし算・ひき算は、2位数から3位数・4位数に範囲を広げる学習が中心になる。新しい計算ルールを覚えるのではなく、既に知っているルールをより大きな数に適用する——これがポイントだ。
学習指導要領が示すねらい
学習指導要領(A(2)加法、減法)は、3年生の目標を次のように示している。
知識及び技能
- ア 3位数や4位数の加法及び減法の計算が、2位数などについての基本的な計算を基にしてできることを理解すること。また、それらの筆算の仕方について理解すること
- イ 加法及び減法の計算が確実にでき、それらを適切に用いること
思考力、判断力、表現力等
- ア 数量の関係に着目し、計算の仕方を考えたり計算に関して成り立つ性質を見いだしたりするとともに、その性質を活用して、計算を工夫したり計算の確かめをしたりすること
内容の取扱い:簡単な計算は暗算でできるよう配慮する。計算の結果の見積りについても触れる
キーワードは 「2位数の計算を基にして」「筆算の仕方」「暗算」「見積り」 の4つだ。
既習の計算が使える——拡張の原理
3年生のたし算・ひき算指導の中心は、「新しいことを覚えさせない」ことだ。
例えば、154+172の計算を考える場合、54+72=126と同様に、一の位どうしを加えた4+2=6と、十の位どうし(10のまとまり)を加えた50+70=120と、百の位どうし(100のまとまり)を加えた100+100=200を合わせて326と計算することができる。
つまり 3位数の加法 = 2位数の加法の繰り返し というわけだ。
子どもにとっての認知負荷を下げるコツは、「あ、これ前にやったやつじゃん」と気づかせること。新しい問題を既知の問題に分解する——これは問題解決の基本戦略であり、算数の思考の核心でもある。
筆算の本質——位を揃えて書く
筆算の最大の工夫は、縦に位を揃えて書くということに尽きる。
5 6 8
+ 4 3 7
─────
1 0 0 5
なぜ縦に揃えるのか。答えは、位が揃っていれば位ごとに独立に計算できるからだ。
これはプログラミングで言うと、データ構造が処理を規定するというパターンに近い。「配列の各要素に同じ処理を順に適用する」というfor文の発想と同じ。位取り記数法がデータ構造で、筆算はその処理アルゴリズムだ。
「位を揃えて書く」だけで、あとは一の位→十の位→百の位と同じ処理を繰り返すだけで答えが出る。この規則性こそが、筆算の偉大さだ。
繰り上がり・繰り下がりの仕組み
筆算で子どもがつまずくポイントは、繰り上がり・繰り下がりの処理だ。
学習指導要領の例:
568+437の場合を考える。まず、百の位どうしを足して900になるので答えが900より大きくなると見通しを立てる。実際に計算する際は、第2学年で指導した68+37のような2位数の加法における計算の仕方を基に、百の位、十の位、一の位に分けて捉え、位ごとに計算する。その際、繰り上がりの1の処理の仕方を考えると、十の位は「3と6と繰り上がりの1を合わせて10」、百の位は「4と5と繰り上がりの1を合わせて10」となり、答えが求まる。
繰り上がりとは、ある位の数が10集まったら1つ上の位に1繰り上がるというルールだ。ひき算の繰り下がりは、ある位の数どうしが引けないときは1つ上の位から1借りるというルール。
これらは2年生の2位数の計算で既に学んでいるルールそのもの。3年生では、同じルールを3〜4桁で繰り返すだけだ。
暗算と見積り——「およそ」の力
学習指導要領は、筆算と並んで暗算と見積りを重視している。
暗算
「内容の取扱い」で示されている暗算とは、2位数どうしの加法・減法のこと。
こうした計算は、日常生活でも多く用いられるし、また乗法や除法の計算を行う過程でも必要になるからである。日常生活においては、暗算で結果の見当を付けることも多い。
例えば「68 + 37」を暗算でパッと「約100」と判断できると、買い物での概算やわり算の商の見当に役立つ。筆算はあくまで精密計算の手段であり、日常場面では暗算の方が使用頻度が高い。
見積り
見積りとは、計算する前に答えの大きさを予想することだ。
例えば、389+4897の計算において位を揃えずに計算し8787と答えを求めたとき、389をおよそ400、4897をおよそ5000とみれば答えは5400になることから8787という答えは間違っていることに気付けるという場面である。
見積りはエラーチェック機構だ。プログラミングで言えば、assertionやsanity checkに近い。計算結果が予想範囲内に収まっているかを事前に把握することで、ケアレスミスの多くは防げる。
子どもに「見積り」を習慣化させると、自分の答えを疑える子に育つ。これは算数だけでなく、学びのあらゆる場面で効いてくる。
計算に関して成り立つ性質
3年生では、加法の「交換法則」「結合法則」も活用される。明示的な名称は4年生で扱うが、3年生でも実質的に使う。
幾つかの数をまとめたり、順序を変えたりすると、計算を能率的にすることができる。例えば、足して100になる数の組み合わせに着目すると、387+75+25を387+(75+25)と工夫して計算することができる。
387 + 75 + 25 の計算:
- 順に:387 + 75 = 462、462 + 25 = 487
- 工夫:(75 + 25) = 100 を先に計算して、387 + 100 = 487
きりのいい数を作る——これは暗算でも見積りでも重要なテクニックだ。「10にまとめる」「100にまとめる」という発想を育てておくと、計算の工夫が自然にできるようになる。
指導のポイント(実習用メモ)
- 2位数の計算を想起させる——「68+37ができるなら、568+437もできる」
- 位を揃える意味を理解させる(ただの書き方ルールではない)
- 繰り上がり・繰り下がりの仕組みを具体物・図と結びつけて説明
- 見積り→筆算→答え合わせのサイクルを習慣化する
- 暗算と筆算の使い分けを教える(日常では暗算のほうが多い)
- きりのいい数を作る工夫を引き出す
- 図(ブロック図など)で位を可視化して、桁の意味を強化


まとめ——筆算は思想である
3年生のたし算・ひき算の筆算は、「計算の仕方」を学ぶ単元であると同時に、
- 位ごとに独立して処理できるという十進位取り記数法の原理を体感する
- 既知の計算を使い回すという問題解決の姿勢を身につける
- 見積りというエラーチェック機構を獲得する
- 暗算という日常場面での計算力を育てる
という、その後の算数学習を支える思想と技能を育てる重要な単元だ。
筆算は単なるアルゴリズムではなく、「数は位というまとまりでできている」という数観を体現する道具だ。この見方は、小数の筆算、分数の通分、代数の同類項——算数・数学のあらゆる場面で活用される。
実習で筆算を教える機会があれば、「なぜ縦に揃えて書くのか」「なぜ一の位から計算するのか」という仕組みへの問いを大切にしたい。単なる手順の暗記に終わらせない授業を心がけたい。
この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編(文部科学省, 2018)の第3章第3節「第3学年の目標及び内容 A(2)加法、減法」を基に執筆しています。


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