九九を「組み立てて」大きな数にする——3年算数・かけ算の筆算

目次

九九の「次」を作る学年

2年生でかけ算九九を完成させた子どもたちは、3年生で 23×423×45 といった九九を超えた計算に出会う。

新しい九九を覚えるのではない。既知の九九を組み立てて、より大きな計算を作る——これが3年生のかけ算の筆算の本質だ。

ここで活躍するのが、計算のきまり(法則)だ。


学習指導要領のねらい

学習指導要領(A(3)乗法)が3年生に求める内容:

知識及び技能

  • ア 2位数や3位数に1位数や2位数をかける乗法の計算が、乗法九九などの基本的な計算を基にしてできることを理解すること。また、その筆算の仕方について理解すること
  • イ 乗法の計算が確実にでき、それを適切に用いること
  • ウ 乗法に関して成り立つ性質について理解すること

内容の取扱い

  • 乗数または被乗数が0の場合の計算も扱う
  • 交換法則、結合法則、分配法則を扱う

つまり3年生のかけ算は、九九の拡張3つの法則がセットで登場する単元だ。


計算の仕方——分配法則の発見

23 × 4 をどう計算するか。学習指導要領の指導例:

23×4の計算は、23を20+3とみて、20×4と3×4という基本的な計算を基にしてできることを理解できるようにする。これは、筆算の仕方に結び付く考えである。

つまり 23 × 4 = (20 + 3) × 4 = 20×4 + 3×4 = 80 + 12 = 92

これが分配法則だ。記号で書けば:

a × (b + c) = a × b + a × c

3年生は「分配法則」という用語は使わないが、「位ごとに分けてかけ算する」という発想を通して、実質的に分配法則を使っている。筆算はその実装に他ならない。

  2 3
×   4
─────
  9 2

筆算の中で子どもがやっていること:

  1. 一の位:3 × 4 = 12(2を書いて1繰り上がる)
  2. 十の位:2 × 4 = 8、繰り上がりの1を足して9

これは 20×4 + 3×4 を位ごとに分解して実行している処理そのもの。


2位数×2位数——乗数も分ける

23 × 45 になると、乗数も分ける必要が出てくる。

23×45の計算の場合、乗数の45を40+5とみて、23×40と23×5に分けるとよい。ここでも分配法則を活用しているが、乗数が1位数の場合は被乗数を位ごとに分けるのに対して、乗数が2位数の場合は、乗数を位ごとに分けて計算する。

23 × 45 = 23 × (40 + 5) = 23×40 + 23×5

筆算ではこうなる:

    2 3
  × 4 5
  ─────
  1 1 5  ← 23×5
  9 2    ← 23×40(40だから1桁ずらす)
  ─────
1 0 3 5

ここで「なぜ2行目を1桁ずらすのか」が、子どもにとって最大のつまずきポイントになる。答えは、2行目は「23×4」ではなく「23×40」だから。十の位に「4」を書いている時点で、それは既に「40」を意味している。


3つの法則

学習指導要領は3年生で 交換法則・結合法則・分配法則 を扱うと明記している。

法則意味
交換法則a × b = b × a順序を入れ替えても積は同じ
結合法則(a × b) × c = a × (b × c)まとめ方を変えても積は同じ
分配法則a × (b + c) = a × b + a × cかっこを外して分けられる

学習指導要領の例:

4×7×25の場合、4×7を28と計算し、その積28に25をかけるのではなく、計算に関して成り立つ性質を使うと次のように計算の工夫も可能である。まず、交換法則を用いて、4×7×25を7×4×25とする。つぎに、7×4を先に計算するのではなく、結合法則を用いて先に4×25を計算し、7にその積100をかけることで700を得る。

4 × 7 × 25 = 7 × (4 × 25) = 7 × 100 = 700

きりのいい数を作る工夫——これは前回の加減法と同じ発想だ。算数の計算の工夫は、「いかに既知の簡単な形に持ち込むか」という戦略に尽きる。


0をかける・0でかける

今回の改訂で明記されているのが、0の乗法だ。

的当てで得点を競うゲームなどで、0点のところに3回入れば、0×3と表すことができる。3点のところに一度も入らなければ、3×0と表すことができる。

  • 0×3:0+0+0 = 0(累加として理解)
  • 3×0:3×3=9、3×2=6、3×1=3、3×0=0(減り方の規則性として理解)

「3×0」は累加の意味(3を0回足す)だと説明しづらい。そこで、九九の並びから規則性を見つけさせるアプローチが有効になる。これは、乗法の意味を「累加」から「関数の規則性」へと拡張していく第一歩でもある。


計算の工夫としての数のまとまり

学習指導要領が重視するのは、18×4の計算の仕方を子ども自身に考えさせることだ。

18×4の計算を考える場合、乗法の意味に基づき、18+18+18+18=72と考えることができる。また、18を9+9とみて、9×4と9×4を合わせて36+36=72と考えることもできる。後に学習する筆算に結び付く考えは、18を10+8とみて、10×4と8×4に分けて、40+32=72と考えることである。

つまり、同じ答えへの道筋は複数ある

アプローチ計算
累加18+18+18+18
分解して九九(9×4) + (9×4) = 36+36
十進分解10×4 + 8×4 = 40+32(筆算と同型)

授業では、子どもに複数の方法を出させて比較することで、「なぜ十進分解(筆算の方法)が効率的か」に気づかせていく。これが主体的・対話的で深い学びの実践になる。


指導のポイント(実習用メモ)

  1. 九九の安定が前提——不安定な子にはかけ算の前に九九の定着を
  2. 位ごとに分けるという発想を中心に据える
  3. 複数の解き方を出させて比較する
  4. 筆算の書き方の意味を説明する(なぜずらすか、なぜ揃えるか)
  5. 交換・結合・分配の3法則を意識させる(名称は使わなくてよい)
  6. 0のかけ算は規則性から納得させる
  7. 計算の工夫として「きりのいい数を作る」を身につけさせる

まとめ——かけ算の筆算は「九九の組み立て」

3年生のかけ算の筆算は、単なる計算技能ではない。

  • 分配法則によって九九を大きな数に拡張する
  • 位取り記数法を使いこなして計算を組み立てる
  • 3つの法則を暗黙に活用する思考を育てる

これらは、4年生の多数桁の除法、5年生の小数の乗法、6年生の文字式——算数・数学のあらゆる計算の土台になる。

実習で教えるなら、筆算の手順を覚えさせる前に、「なぜこの計算ができるのか」を子ども自身に考えさせたい。位ごとに分ける発想、きりのいい数を作る工夫——これらが見えたとき、筆算は「手順」ではなく「思想」になる。


この記事は、小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編(文部科学省, 2018)の第3章第3節「第3学年の目標及び内容 A(3)乗法」を基に執筆しています。

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